第六十六話 長尾家
政景さんの居城、坂戸城についた俺達は政虎の与力に馬を任せ、急ぎ綾さんの様子を見に行った。
俺と政虎、絶さんの三人は綾さんの寝室に案内されると横になっていた綾さんの横に政景さんがいた。
「義兄上様! 姉上様の様態は···!」
「あら政虎、それに景亮に綾も。ただの立ち眩みですよ···心配を掛けたようですね」
政虎の質問に寝ていた綾さんが起き上がりながら答える。政景さんがそれを補助するように背中を支える。
「それで、何があったのです?」
俺の質問には政景さんが答えた。
「医者の診察によると···どうやら身籠ったことに影響しているようだ。悪い病などではない」
ん? 身籠るって···つまりは
「まぁ! 綾様、政景様もおめでとうございます!」
俺が声を出すより先に絶さんがお祝いの言葉を送る。
「おめでとうございます! 身体を大事にして元気な子を産んでください!」
絶さんに続いて俺もお祝いの言葉を送る。
政虎は綾さんの近くに寄り手を繋ぐ。
「姉上様、おめでとうございます。これで四人目···ですね」
「えぇ。家族が増えるというのはいつの時も嬉しきことです」
お腹をさすりながら優しい笑みを浮かべる。
「おちちうえ、おははうえ!···あっ! おばうえだ!」
部屋の外から三人の子供が入ってきた。
全員が政虎を見つけると抱きついたり袖を引っ張ったりする。
「おぉ槻一、華、卯松か! また大きくなったな!」
政虎も嬉しそうに笑い卯松と呼ばれた一番小さな男の子の頭を撫でる。
「綾様、あちらはもしかして···」
絶さんが綾さんに聞くと可笑しそうに袖で口を隠して笑っていた綾さんが答える。
「あぁ、紹介がまだでしたね。槻一、華、卯松! こちらへ来て並びなさい」
綾さんが呼ぶと三人はすぐに綾さんの前に並んだ。一番小さな卯松という男の子は政景さんが支えている。一方の政虎も俺の横に座る。
全員が位置につくと、綾さんが子供達を紹介する。
「一番大きい子が長男の槻一。真ん中の子が長女の華。そして一番小さい子が次男の卯松といいます」
三人はこっちを物珍しそうな目で見上げる。
その中で一人、卯松くんに目がいった。他の二人に比べて随分ぶすっとした顔だ。
もしかして···この子が後の上杉景勝か?
俺がまっすぐ見つめても決して隠れたり泣いたりすることもなく、卯松くんもこちらを見返してくる。なんというそこはかとない大物臭···。
「おじさま、おねえさまは誰?」
華ちゃんが俺と絶さんを見上げて聞いてきたので、絶さんは顔を華ちゃんの目と同じ高さに座り直して答える。
一方の俺はおじさま呼びにちょっと傷付いた。あぁ···俺ってもうこの子達からすればもうおじさんなんだな···年食ったなー。
「私は絶と申します。京よりこの越後に参りました。そしてこちらが景亮様。政虎様のお側付きをなさっております。よろしくお願いいたしますね」
「たえおねえさまと···けいすけおじさま! わたしは華です。よろしくおねがいします!」
お辞儀をした後、絶さんの手を握る。どうやら華ちゃんは活発な性格なようだ。この子も全然物怖じしてない。
二人と対照的に槻一くんは大人しそうというか優しそうな雰囲気の子だ。政景さんの横でちょこんと座っている。
「わたしは槻一と申します。弟妹ともどもよろしくお願いいたします」
政景さんと綾さんの優しい部分を受け継いでいるって感じだな。
それから暫く、三人の子供達と遊びながら長尾一家と穏やかな時を過ごした。
クロスオーバー作品である野央棺様の作品"分枝世界の戦国記譚"もよろしくお願いいたします!




