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第六十四話 段蔵の弟子 その二

 

 俺は段蔵とその弟子二人を部屋に入れ、より詳しい話を聞くことにした。


 まず伏嗅の養成所について説明しておこう。伏嗅の養成所は、戦による孤児などの訳ありの青少年少女を集め、忍びとして育てる場所である。越中と第三次川中島の戦いの後に、戦力と諜報活動を増強するために俺と政虎、それから中島さんが中心となって作り上げたものだ。


 段蔵はそことは関わりが無かったはずだが、そこで訓練をしていた二人を直感的に後継に選び、引き抜いたらしい。


 中島さんからは後でグチグチ言われそうだな···。


「ところでなぜ二人なの?」


「あぁ···拙者は完璧な忍びにございますが、後継にそれを求めるつもりはないのです。それに、たとえ拙者の全てを一人で引き継げようとも、人一人で出来ることはたかが知れておりましょう? 二人で足りない技量を補い合えばよいのです」


「あっ、そう···」


 前半の言葉はさておき、確かに段蔵一人いることでこっちはかなり助かっている。一騎当千とまではいかないだろうが、一騎当百の忍びであることは確かだ。

 もし居なくなってしまうと、俺の策の幅が極端に狭くなると言っていい。

 二人足して段蔵ほどの戦力になるのであればこっちは良いことずくめだ。


 話題の二人は緊張の面持ちで座っている。まるで面接する受験生のようだ。


 ってか向こうから見ればあながち間違っちゃいないのか。一応雇い主だからね。


 というわけで、二人の人となりを知るために話しかけることにした。


「二人共、今何歳?」


 話の取っ掛かりとしては定番の事を聞いてみる。


「俺···あ、いや自分は十七です」


「は、はっ! 私は十六になります」


 未だ緊張が抜けないのか、しどろもどろになりながらも答えてくれる。


 うんうん。何とも初々しいじゃないか···高校の時の初登校を思い出すなぁ。


 とはいってもそんなに年変わらないんだけどね!


「年が経つのも早いもんだな···俺も政虎に拾われたときは十六だったっけ」


「最初は大殿より背が低かったのが、いつの間にやら同じくらいにまで大きくなりましたからな」


「この年齢で見下ろされる···なんてことにならずにすんで良かったよ」


「威厳は未だにありませんがな」


「うっせ! 俺には無くてもいいんだよ···隊長とか衆の長じゃないんだし」


「まぁ、民草に紛れ込んでも、誰も気にしないというところが主の良いところでありますからなぁ」


 くっ···! 痛いところをついてきやがる。そりゃ顔も何もかも凡人だからそう言われても仕方ないけどさ。


「師匠! 主に失礼でございましょう!」


 おぉ! 弥助さんたら俺のこと庇ってくれるのね! 男じゃなかったら惚れてるわ!

 ま、男だから惚れないけどね。


 しかしどうやら俺と段蔵のこの掛け合いでちょっと緊張がほどけたのか、二人ようやく笑みが浮かぶ。


 それから忍びの訓練についてや、段蔵の特訓についてなどで話は続いた。

 話していく内に、ある程度二人の性格や難点が分かってきた。


 弥助は任務にも常に全力な熱血漢だが、猪突猛進で思慮に欠けるところがある。


 月夜はクールな性格で、任務も忠実にこなせるものの、咄嗟のアドリブ力に弱いところがある。


 そしてどちらも段蔵のような遊び心というか余裕がない。まぁこれは経験と性格によるところがあるから仕方のないところではあるが。


「ところで、どうしてさっきまで緊張してたの?」


「そ、それは···なぁ?」


「え、えぇ」


 二人は顔を見合わせると恐る恐るといった感じで答える。


「主様は越後国主であらせられる上杉政虎様のお側付きであるお方ですから···」


「自分達のような一民からしてみれば雲の上のような立場の方。例え主が民にも親しくしてくださる方とはいえ、まさかこうして部屋にまで招いてくださるとは···」


 俺って越後の民の皆様からしたらそう見えてたの? そうかしこまられても困るんだけど···


「いや、俺は別に政虎の横にいるだけだし、それに元々は浪人みたいなものだったから当然家柄なんてないし。ほんと皆と同じってつもりなんだよ···政虎の横にいるのも運が良かっただけだしさ」


 俺の言葉に対して段蔵が反応した。


「主は分かっておりませんなぁ。鈍感と言った方が宜しいか? 越後に住まう者、将兵の間で、主は大殿である政虎様に最も近いと言われておるのです。主の言葉であれば大殿も無視できないほど、大殿にとって主は重要な人物である···と」


 マジか!? 嬉くはあるけど何か恥ずかしいな。


「それにこの間のあれのおかげで時の人ですぞ」


「あれって?」


 段蔵の言葉に二人もうんうんと頷く。分かっていないのは俺だけのようだ。




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