第六十話 山本勘助
武田軍旗本足軽大将にして、今回の挟撃作戦の立案者の一人である山本勘助はこの現状に呆然とするしかなかった。
海津城を築城し、上杉の北条攻めの後ろを突いた。そして妻女山に上杉が布陣したので挟撃作戦を立案するまではよかった。
「まさか、某らの策が破られるとは···」
それだけでない。今回の策が破られたことで、晴信の弟君である信繁や侍大将である諸角虎定、初鹿野忠次が討ち取られてしまった。兵もすでに千は失っているだろう。このままでは御館様の元まで上杉の者共は辿り着いてしまう。
「全ては某の失策のせいで···」
責任は全て自分にある。勘助は既に覚悟を決めていた。
「信繁様と同じ様に、我が身をとして最後の足掻きをする···か」
周りにいた兵はその言葉に驚く。
「勘助様! 早まることはありませぬ!」
「そうです! ここで耐えきれれば別動隊が戻り、軍の立て直しも図れましょうぞ!」
配下の者の言葉に勘助は首を横に振る。
「いや、それまでもつかどうか···諸角殿のように前に出て、この命で上杉の軍を押し返すしかない。何より某がこの失策を許せんのだ」
刀を改めて握りしめる。
「これより、上杉軍に突撃をかける! 皆その命、私に預けてくれ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉおっ!!」」」」」
勘助は最後の賭けに出た。
「山本勘助、押し通ぉぉぉぉる!! 道を開けよ!」
その気迫に上杉兵は攻撃することも、近寄ることもできなかった。
勘助隊はそのまま目の前の部隊とぶつかった。
そんな中でも勘助はまっすぐ突き進む。向かってくる敵を切り払いながらも足を止めない。
しかし突然、馬が足を止める。何事かと勘助が前を見る。
越後の猛将、柿崎景家が立ちふさがっていた。
「ーーっ!?」
「その顔、その旗。武田の侍大将にして築城の名手。軍師、山本勘助か···悪いがここを通すことはできない」
「柿崎っ!? ···いや、押し通らせていただく!」
「無理だ。何故なら···」
いつの間にか勘助の周りには槍兵が集まっていた。
勘助は馬を動かそうとした瞬間···
「貴様はここで死ぬのだから」
景家の合図で槍が四方から突き出される。勘助の体に、足に、馬に次々と刺さり、勘助は落馬してしまう。
勘助はそれでも前に向かう。頭からは血が流れ、足を引きずりながらも最後の最後まで足掻く。目からは涙が流れていた。
「くうっ···ふう···あぁ···はぁ···」
最早言葉は出てこず、頭の中では晴信に忠義を尽くし、勝利へ導くことのみが埋め尽くしていた。
それを見た景家は、馬から降りると刀を両手で握り締めた。
「その忠節見事。貴殿のような男の首をとれることは、我が一生の誉れである。山本勘助よ···あの世で典厩とともに武田の行く末を見てるがいい」
「くっ···っ···うあぁぁぁぁああ!」
勘助は無念を噛み締め、涙を流して吼えた。
それを聞き終えた景家は一太刀で勘助の首を落とした。景家は首級を持ち上げ、鬨の声をあげる。
「敵将山本勘助、討ち取ったぞ!!」
上杉軍は次々と武田の将を討ち取り、攻め上がっていった。
こうして武田信繁、山本勘助、諸角虎定、初鹿野忠次など名のある将が討ち取られた。
さらにこの後、信繁の子信頼もまた討ち取られたことで、更に上杉軍は武田軍を追い込んだものの武田も負けずに兵力で押し返し、戦はやはり拮抗する形となった。
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