第五十六話 小田原城の戦いの終幕
こちらの士気は少しばかり上がったものの、小田原城攻めは困難を極めた。
流石は武田、今川、上杉と渡り合う力のある相模の獅子。武田との戦いのようにこちらの行動に臨機応変に対応してくる。それに堅城として名を馳せる小田原城の守りは固く、攻めにくい。
俺は段蔵と義守さんに北条の偵察に向かうように言うが、そちらも北条の有名な忍びである風魔小太郎を棟梁とする忍び集団に阻まれて、難儀しているようだ。
この間の政虎と俺の体を張った士気上げも空しく、いく人かの大名は自国に戻ってしまった。元々烏合の衆だった上に北条に味方していた国もそれなりの数だったからな···ちょっとの意見違いや長期間の遠征による反発は仕方のないことなんだろう。
それに兵站が伸び、武田や北条の妨害に合っている。そりゃ武田の方には旭山、善光寺に数百の兵を駐屯させているだけだからな···武田の妨害に関しては今どうしようもない。
史実の流れからするとそろそろ退き時なんだろうな···
俺は中島さんにお願いして川中島近辺を探ってもらうことにした。
史実通りであれば武田は俺達の小田原城攻めを期に対上杉の前線基地である海津城を築城しているはずだ。今の時期でどのぐらいの完成度かは分からないが、おそらく近い内完成するだろう。
その二日後、帰ってきた中島さんが持ってきた情報は俺の思った通りのものだった。
「景亮殿の言っていた通り、千曲川河畔に新たな城が出来上がっております。どうやら山本勘助、小山田虎満、高坂昌信などが入城しているようです」
「そっか···政虎にすぐ知らせよう。俺もいく」
俺と中島さんは政虎のいる本陣へ向かった。
本陣には政虎と定満さんを中心した重臣たちが話し合っていた。
「政虎! ちょっといい?」
俺の声に気付いた政虎がこちらを振り向く。
「景亮か···何かあったか?」
「武田の動きについてなんだけど···」
「···分かった。こっちに来て話せ」
俺は中島さんと共に会議の輪に入る。
「少し気になったことがあって、中島さんに川中島の辺りを調べてもらったんだけど···」
俺は中島さんの方を向く。中島さんは頷くと引き継いで話をした。
「川中島は千曲川河畔に武田が城を築城しております。すでにある程度は完成しているようです」
それを聞いた将たちがざわめく。
政虎も難しそうな顔をする。その後川中島周辺の地図を持ってこさせると中島さんに場所を聞いて印をつける。
それを見た政虎たちはより難しそうな顔をした。
「ここに築城されたか···流石に無視できないな」
「政虎様、如何致しますか?」
「政虎、どうする? 俺はここらが退き時だと思う」
ほぼ全員が武田の方を優先するべきだという考えを政虎に伝える。
「···清胤、定満。此度手を貸してくれた諸大名方に伝達を」
「「はっ!」」
「義父上、藤氏様に一度謁見したいのですが」
「分かった。私から伝えておこう」
「他の皆は撤収の支度をせよ! 川中島にいる武田を倒し、我等が国を守らん!」
「「「「「「おう!!」」」」」」
それから一週間で撤収、藤氏に帰郷の挨拶を済まし、上杉軍は川中島へと向かった。




