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第四話 貞興と頼久

 同年 越後 春日山城城下


 俺は景虎さんより案内を任されたという二人と共に春日山城の城下へと繰り出していた。



「さて、お前さんのことは聞いてるぜ。御大将に保護された、格好がワケわからずな男かってな!」


「は? ワケわからずってどこがですか?」


「その身なりですよ。日の本ではその様な身なりの方はおりませんし、南蛮の方がこの様なところにいるはずがない。何より言葉は解りますしね」


 成程確かに、この時代にYシャツやジーパンなんてないわな。

 当たり障りのない言い訳でもしよう。


「あ、あぁ……気付いたらこの格好だったってだけですよ」


「ははっ! 何から何までまさにワケわからずって事かい? 御大将も変なのを拾ってきたもんよ!」


「殿のことです。何かしら思うところがあるのでしょう。もしくは毘沙門天のお告げでもあったか」


「まぁ、何があろうとも俺らはただ御大将に付き従うまでよ」


 そう言って笑いながら俺の肩をバシバシ叩く。


「叩くのはやめて、痛いから。ってかあんた達の名前聞いてないんですけど?」


 俺がそう言うと、二人の内体の大きい方が答えた。


「おぉ! そうだったそうだった! 俺は貞興。小島弥太郎貞興! 俺を鬼と呼ぶものもいるが、弥太郎でも貞興でも好きに呼べ」


 そしてもう一人の男も名乗り出る。


「私の名は小國頼久と申します。先日初戦を迎えたばかりの若輩ではありますが、以後お見知りおきを」


「よろしくお願いします。ところで2人共何歳?」


 その問に貞興さんが答える。


「俺は(よわい)十九、頼久は齢十七よ」


「俺は十六だから二人とも年上だな」


「そうか! 御大将が連れてきた奴だから怪しい奴ではあるが、草などではなかろう。それに、なかなか面白そうな奴だしな。仲良くしても問題ないだろうさ。近い年なのだから敬語はいらねぇぞ。俺はお前さんのことはこれから景亮と呼ばせてもらうぜ。お前はそうだな……よし! 兄貴と呼べ。会ったばかりとはいえ、仲良くしようや!」


「そうですね。では私も景亮で構いませんか?」


「あぁ。そっちの方がありがたいよ! んじゃ俺は貞興(にぃ)、頼久。って呼ぶよ」


 そう返すと貞興兄は嬉しそうに笑う。


「おう! 年近いものがこの国にはそういなくてなー。しかも頼久も清胤も固苦しくていけねぇ。あとは殿と長敦、少し下に下平と本庄、水原のぼうずがいるくらいだろうな」


 へぇー。そんなに少ないのか……ん? ちょっと待てよ?


「殿様って今何歳?」


 その問には頼久が答えてくれた。


「殿は貞興殿と同じく齢十九になります」


 殿様若っ! この時代の元服はたしか十三くらいだからいいかもしれないけど、俺の時代からしたら、まだ成人もしてないんだぜ?


「御大将は十四の頃には戦に出ていたからな……この短い間で越後が纏まったのは紛れもなく御大将のおかげよ」


 流石は軍神ってことか……あんなに綺麗で頭も良くて、国をまとめるほどの器で、しかも見ず知らずの俺を助けてくれるほど優しくて……ってどこまで完璧超人なんだよ景虎様。助けてくれたのが景虎様で良かったわー。


「しかし景亮も運が良い。殿は義に厚く、慈愛深い方。景亮の身の振り方が決まるまでは殿も厚くもてなすでしょう」


 そういえば俺、進路全然決まってないじゃん。どうしよ?


「戦働きはできそうもないなー。その魚の骨の様な軟弱な体では戦などしたことないだろ?」


 酷い言いぐさだ。その通りだけどさ……。


「何かあれば俺達に言えよ? 力になるからな!」


「ありがとう。貞興兄、頼久。何かあったら当てにさせてもらうよ」


「んじゃ、案内の続きといきますか!」


 そう言って歩き出した。頼久と俺はそれに付いて行く。



 その後二人は色々な場所を案内してくれた。

 その中で、色んな話もしてくれた。越後の話、戦の話、世の中の話。


 二年前、武田晴信。つまり武田信玄と川中島で戦をしたこと。その戦が頼久の初陣だったこと。

 同じ年、初めて上洛を果たし、天皇や室町幕府の将軍に会ったこと。

 去年から今年にかけて家臣である北条高広が謀反を起こしたこと。それをすぐに鎮圧したが、北条に味方していた武田の兵が逃げたこと。そしてその兵に俺は捕まっていたこと。

 それから先日、駿府を納める今川義元が尾張に向かって動き始めたこと。



 今は桶狭間の前ってことか……つまり、これからがホントの乱世のはじまりということだ。


 考え込んでいる俺に、貞興兄が声を掛けてくる。


「んじゃそろそろ戻ろうや、かなり時間も足ったし、そろそろ御大将は家老の方々との評定も終えているだろうからな」


 そういえば、屋敷を出てからかなり経っている。


「そうだな、そろそろ殿様のところに戻るとするよ」


「では、先程の部屋まで案内しましょう」




 というわけで、越後に来て早速友人ができて、行く末はともかく心の中は幸せな俺であった。



今回登場したのは鬼小島弥太郎の名前で知られる小島貞興と小國頼久の2人でした。この2人は今後主人公と共に若手の稼ぎ頭として活躍していきます。

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