第四十五話 小雨
話の順番を大幅に変更しました。 話を繋げるため、新しく投稿したのは挿し込みで38話にはいっております。最新話ではないことをご了承ください。次からこの話の続きを書きます。
同年 上野原 政虎視点
お互いが上野原に布陣したものの、にらみ合いが続いていた。
武田はこちらを牽制するように動き、大規模な戦闘を遠ざけていた。
こちらもどうにかそれを切り崩そうとするが、中々突破口が開けない状況にあった。
「さすがは武田晴信か···こちらのしたいことを良く分かっている」
私の言葉に定満が反応する。
「状況は動きませぬな···何かしら戦況を変える一手がなければ」
「分かっている」
とはいえ相手はかの武田晴信と戦国一と謳われる騎馬隊。機動力であればこちらが弱い···兵を動かしてもすぐに対応してくるだろう。
どこかに隙は無いものかと武田の布陣を見ていると、旭山城方面の陣が崩れるのが見えた!
「殿! 武田の陣の一部が崩れました! 後ろより我らの援軍が攻撃した模様!」
「援軍だと? 誰の軍だ!?」
怒鳴り付けるような大声で報せてきた兵に聞く。
「鬼面の旗と小国の家紋。貞興様と頼久様です!」
「まさか!?」
越中組がなぜここに!?
「援軍の中から一部隊、こちらに向かってきております! 清胤様と景亮殿です!」
「政虎様、好機ですぞ! ご指示を!」
「全軍に通達、援軍と共に武田を攻め立てる! 旭山、葛山にも逃げてきた兵を攻撃するよう伝えよ!」
「はっ!」
私は定満と共に陣を出て、一人景亮の元に向かった。
-----------------------------------------------
それより少し前の上野原武田軍後方 景亮視点
俺達は旭山城から上野原に向かっていた。上野原と呼ばれる地に着くと、陣構えや旗が見える。やっと着いた!
「見えたぞ! 武田の風林火山とその奥に龍と毘沙門天の旗だ!」
つまり武田を挟み撃つ場所に出たわけか···
「どうする? 貞興兄」
俺、清胤、頼久、貞興兄、家成さん、長実さんを先頭に後ろには八百の兵が並んでいる。
「家成殿、長実殿、頼久は俺と共に武田の陣を攻撃してくれ」
「「承った」」
「景亮、清胤は御大将の元へ行け。御大将の腰巾着と懐刀は本陣にいねぇとな」
そう言うと槍を掲げる。
「鬼の戦は攻めの戦! 毘沙門天が配下の鬼、この小島弥太郎貞興が武田の虎の首、頂こう! さぁさお前ら狩の時間だ···全軍突撃! 武田の腸、かっ斬ってやれ!」
そう言うと武田の陣に向かって真っ直ぐ馬を走らせる。
「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」」
貞興兄の言葉、熱気は八百の軍を瞬く間に浸透し、突き動かされるように貞興兄に続いていく。
「景亮! 俺達はまっすぐ本陣に向かうぞ!」
「おう! 段蔵、お前は貞興兄たちと一緒に敵陣を攻めろ! やりすぎて構わん!」
俺の言葉に段蔵は満足そうに笑う。
「かっかっか! 大分拙者のことを分かってきたようですな···心得た!」
段蔵を見送ると、俺達は貞興兄たちと別れ、上杉本陣へと向かう。
本陣に到着して馬から降りると、政虎が近寄ってきた。
「景亮! 無事だったか···越中はどうした?」
「ただいま政虎。もう終わったよ···詳しい話はまた後で! 今は武田に集中しよう」
「あぁ···清胤も大義だった。景亮の御守りは大変だっただろう?」
「いえ、もう慣れておりますし、此度は景亮の策のおかげでこうしてこちらに来ることができましたから」
「そうか···では清胤は本陣周囲に布陣、警護せよ」
「はっ!」
清胤は一度頭を下げると陣を出ていった。
「さて、そなたたちが来てくれたおかげで少し戦況が変わった」
上野原から武田が撤退していくのが見える。
「この後どうする?」
「私達本陣は無理に追いかけはしない。旭山、葛山の兵が武田の撤退する方向にいるし、七手組や貞興が追っているだろう」
その言葉の通りに再度上杉の兵による挟撃が行われたものの、大打撃を与えることはできずに両者が再度睨み会う形となった。
それから何度も小競り合いは行われたものの決着はつかずに軍を引き上げることで、戦は終わりを迎えた。
-------------------------------------------------
「やれやれ···此度の戦、肝を冷やしたわ」
武田晴信は先の戦を表すかのように小雨の降る道を甲斐に向けて馬を歩かせていた。
「儂の予想ではこのような戦になるはずではなかったのだがな···長尾め、奴自身の運が良いのか、それとも別の要因があるのか。此度の天は越後に味方した、か」
悔しそうに顔をしかめたのも一瞬、悪い笑みを浮かべる。
「世はまだ乱れる。有象無象を束ね、新しき世を掴むのはこの儂よ···」
天下布武、それは織田信長だけの物ではない。
乱世はまだ終わりを見せない。




