第三話 出会いその二
読んでいただきありがとうございます! あらすじにも書きましたが、同じ世界、時間を織田勢視点で書いている野央棺様の作品"分枝世界の戦国記譚"もぜひ! より話の流れが分かりやすくなっております。
同年 越後 とある屋敷
目を覚ますと、またもや知らないところにいた。
見慣れた自宅の天井でもなく、先程の古臭い天井でもない、木張りのキレイな天井だった。しかもけっこう高い。
体には毛布が掛けられている。どうやら布団に寝かされているようだ。
目を少し動かしてみると部屋自体が結構広い。
どう考えてもさっきまでいた部屋ではない。
「ここは……」
モソモソと身を起こす。
長い間寝ていたのか、目も意識もはっきりと覚めている。
「ん? あぁ、起きたか」
聞き覚えのある女性の声だ。声のした方向を見ると、豪華ではないが、それなりにいいものであろう和装をした女性が机に向かっていた。
手には筆を持っているため、どうやら何かを書いていたようだ。
女性は筆を置くと立ち上がり、近くに座った。その行動全てが優雅で、また見惚れそうになる。
「体調の方は大丈夫か?」
「あぁ、あなたが介抱してくれたおかげですこぶる快調ですよ」
「そうか···殴ってしまったところは痛むだろうか?」
そういえば俺はこの人に殴られて気絶したんだっけか……
「大丈夫ですよ! こちらこそすみませんでした! 不可抗力とはいえ抱きついてしまって……」
とにもかくにも土下座である。悪いことしたら謝る。それが大事。
「頭を上げてほしい。こちらこそすまなかったな」
そう言って、あちらも頭を下げる。
「いえいえ! 俺が悪いんですからそちらこそ頭を上げてください!」
頭を下げられたことでアタフタした俺は再度頭を下げる。
「……フフッ」
笑われた。おもいっきし笑われた。
恐る恐る顔をあげると、手で口を隠しながらクスクス笑っていた。
「なかなか面白い男子だな、そなたは」
へっ? 面白い? 俺が? はじめて言われたぞ……。
女性は暫く笑うと、大きく息を吐いて膝を叩いた。
「さて、景亮。そなたばかり何も知らぬでは良くなかろう。故に名乗らせて貰う」
そして彼女は背筋を正す。
「私の名は長尾景虎。この越後国の国主であり、公方で在らせられる義輝公より、従五位下弾正少弼の位と、禁裏より御剣と天盃を賜った者である」
訳の分からん言葉が数多くでたが、越後の国の長尾景虎ってことはつまり……。
上杉謙信!?
越後の龍、軍神の異名をもつ戦国時代の英雄の一人! 女性説はあったが、まさかホントに女性だったとは……信じられん……スッゲー美人じゃん! 誰だよあの髭面描いた奴……嘘つき!!
混乱する俺をよそに景虎さんは続ける。
「さて、松尾景亮よ。捕まっていたそなたを助けたのは私だ。故にそなたが一人で生きて行けるようになるまでは面倒を見よう」
「あ、ありがとうございます」
「しかし、何もせずに置いておく訳にはいかない……そこでだ。そなた、剣は振るえるか?」
「いやいやいや、持ったことすらないです!」
「では馬は?」
「乗ったことない」
「鉄砲は?」
「何それ?」
「では商いは?」
「やったことない」
「畑仕事は?」
「うち農家じゃなかったんで」
「勉学は?」
「人並み程度かな?」
「…………困ったな」
でしょうね。
「まぁ、追々考えていくとしよう。私は少し用があるから部屋を空けるが、そなたはどうする?」
うーん……どうしようか
「外……外の空気を吸いたい」
そう言うと景虎さんは数秒思案する。
「そうだな……では貞興と頼久にお前の案内をさせよう。当分はそなたを私の客とする。のんびりしてもよいが、夕食前にまたここに戻ってこい、いいな?」
そういうと景虎さんは出ていった。
それから暫く立っていると、ドタドタと音を立てながら同年代ぐらいの男が二人近寄ってきた。
「よう! お前さんが大将の言ってた変な男か!?」
「我々が貴殿を案内させていただきます」
……なんとも対照的な二人のお出ましであった。