第三十八話 越中
弘治三年/西暦1557年 春
俺は武田との戦に赴く政虎を援護するべく、一向一揆や神保、椎名の争いに介入し、隙あらば平定しようと越中に向かった。
一緒に向かうメンバーは、小島貞興兄、小國頼久、千坂清胤、上野家成さん、加藤段蔵、義守さん。それに加えて、荒川長実さん、竹俣清綱さんの面々で、越中攻略の前線基地、魚津城に入城した。
大将は一番の年上であり、七手組大将でもある清綱さんが務める。
俺は軍師のようなものとして本陣に配置、先陣は貞興兄と頼久が務めることとなった。
この二人は上杉家の中でも武闘派だしね。
さて、越中の情勢はどうなっているかというと、越中守護代である神保家と、越中の国人である椎名家、勝興寺と瑞泉寺を中心とする一向一揆により戦が絶えない場所である。
しかも外から俺達越後、能登国畠山が侵攻し、後に織田勢も侵略を行うなど前田氏によって平定されるまで長い戦乱が続く国だ。
ここを早めに統治することが、俺の目標の一つである。
そのためにはやはり神保と椎名を何とかしかければならない。
しかも裏切ることがないよう、完全な支配が望ましい。
そこで、俺が最初に行ったのは能登畠山九代目当主畠山義綱に使者を送り、盟を結ぶことだった。
能登畠山はこの義綱の代で、重鎮たちによる傀儡から脱却したものの未だに重鎮たちとの対立は続いているらしい。
そこで、俺は義綱に対して"有事の際の保護や兵を出す代わりに、神保と椎名を何とかするための同盟を結びませんか?"というような書状を段蔵と清胤に持たせ、向かわせた。
あの食えないおっさんのことだ。巧くやり込めてくれるだろうし政虎の親衛隊を務める清胤がいれば、この手紙の真実味が増すだろう。
とりあえずは帰ってくるまでは魚津城に待機だ。
一部の兵や商人を使って情勢の様子を調べたりする。まぁ戦況はそう簡単には変わったりはしないだろうが。
戻ってくるまで一週間くらいはかかるだろうし···ってかもし門前払いされてたらどうしよう···さっそく策が潰えるかも。
と、頭のなかでは考えつつも顔には出さないように心掛けるが、貞興兄から
「何をそんなに緊張してんだ? 腹ぁ括れや! お前の策がどうなるかはあの二人に任せときゃいいんだ」
と言われた。おもいっきり顔に出ていたようだ。
「そんなに心配なら、失敗したときの策を用意しな」
「なら一緒に考えてよ」
「そりゃ無理だ。俺にそんな頭はねぇからな! ま、お前なら何とか出来るんじゃねぇか?」
そんな無責任な···まぁ策は考えておくけどさ。
とは言うものの、神保椎名両家に書状を出して牽制するか、片っぽの陣営と組んでもう片方を攻めるとかしか考え付かないが。
畠山と同盟組んでも同じ状況になるかもしれないしな···
畠山は神保と仲が良いらしいから、椎名を攻めることが一番ってところかな?
それから数日後、俺にもたらされたのは策成功の報せだった。
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