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第三十四話 四人鍋

 

 さて、何やらある決心をした絶さんは俺を追い出し、政虎と一対一の話をするようなので、邪魔者は退散退散。俺は町に繰り出すことにした。


 戦がなければこの乱世も暇なものである。今日は鍛練は休みって決まってたしね!


 最近連続して戦が起こってたから忙しいにもほどがある。


 以前欲しいといっていた風呂に関しては鋭意制作中。今やるべきこともなく、暇をもて余していた。


 町を歩いていると頼久、清胤とバッタリ会った。


「あぁ、景亮か」


「おや、景亮。殿と絶様はどうなされたのです?」


「うっす。二人は俺の屋敷にいるよ。俺は出てけと言われたもんで暇を満喫中。お前らは何やってんだ?」


「貞興兄のところに行く途中だよ。何やら狩りをしてるみたいだから、屋敷で待ってようと思ってな」


 そう言うと手に持っていた荷物を見せてくる。


 多分中身は酒とかつまみだろう。


「景亮もどうですか?」


「おっ、いいの? んじゃお酒は要らないけど、ご相伴にあずかろうかな?」


 という訳で、小島屋敷に向かう。


 屋敷につくと、庭で勝手に火を起こし始める。


「こんなん勝手にやっていいの?」


「最近はやれていなかったけど、以前からよくやってたんだよ。貞興兄は狩りが趣味のひとつでな···それをこうして皆で食べるってのが恒例だったのさ」


「ほー」


 確かに貞興兄は狩りが似合いそうだ。簡単に想像できる。


「今日は何を持ってきますかね?」


「そうだな···鹿、猪、野兎。貞興兄のことだ、変なものを狩ってくるかもしれんぞ」


 清胤はニヤリと笑う。


 ···変なものってなによ。


 俺は清胤を問い詰めるが、笑って誤魔化された。


 それから暫く経ち、俺達がじゃれていると遠くから貞興兄の声が聞こえた。


「おう! お前ら、待たせたな!」


 そう言う貞興兄の世には身の丈以上、大体二メートルあるぐらいの熊が背負われ、上半身は丸々見えず、端から見れば襲われているようにしか見えない···って


「貞興兄が熊に襲われてるーー!?」


 俺は急いで近寄る。


「んお? おぉ景亮も来てんのか! おう、今日はかなりの大物んだぜ!」


 そう言うと俺に熊を渡してくる。ってか重っ!?

 余りの重さに耐えきれず、地面に押し潰される。中身がよく詰まっている証拠である···ってそんなこと考えてる場合じゃない!


「そのような巨熊、よく狩れましたね?」


 他の二人も近寄ってくる。早く誰かタスケテ···


「いやぁ、久しぶりにしぶとい奴だったぜ! ま、結局俺が勝ったけどな!」


「今日は熊か···鍋かな?」


「しっかしこの皮いいねぇ、顔も迫力あらぁ···俺の鎧に着けようかな?」


「鬼が鬼の旗に熊の皮と鉄鎧を被り、大槍を持って戦場を駆ける···まるでお伽噺のようですね」


「はっはっは! 大熊殺しの鬼小島ってねぇ! いいじゃねぇか!」


「貞興兄はどんどん異名が増えてくな···鬼、虎樊會(樊會は中国前漢の武将。虎は貞興の勇猛さから)、夜叉(毘沙門天の別名である多聞天の配下の夜叉のようだという理由から)、そして大熊殺し」


 ···おーい。ホント誰か助けてくれますかね?ってか熊殺しだけ全然かっこよくねえんだけど!?


「···っと忘れてた。大丈夫か?」


 貞興兄が片手でひょいっと熊を持ち上げる。


 ふぅーっ···重かったー!


「わりぃわりぃ! さて、んじゃパーっとやりますかい!」


 貞興兄はてきぱきと解体を行う。皮は最低限に切って中身を取り除いてゆく。


 俺がやれることもなく突っ立っていれば、いつのまにかいつでも食べれるようになっていた。


「さぁて、んじゃお前ら! 先日の越中戦の勝利を祝して!」


 そう言って自分の盃を持ち上げる。それに合わせるように俺らも盃を持ち上げる。


 それから四人、この間の戦のことを話ながら鍋やらつまみやらを食べる。


 食べ終える頃には夕方近くになっていた。


 ってか基本的に政虎か段蔵かこの三人としか過ごしてねえな···。


「そういや、御大将たちの方ももう終わったんじゃねぇか? こっちはいいから様子見てきてみな」


「そう···だね。んじゃお先に帰るよ。じゃあまた!」


 三人に別れを告げ、自分の屋敷に戻る。


「おや、景亮。戻ってきたのですか? もう少し二人を貸していただきますよ」


 綾さんが正座をする二人を前に同じく正座をしていた。なにやら授業の先生と生徒みたいだな。


 政虎は疲れたような顔を、絶さんは真逆は熱心な顔をしている。


「これは···何を教えてたんですか?」


 綾さんは口を袖で隠し上品に笑うとこう言った。


「フフッ···"愛"ですよ」


 政虎は何故か目を逸らし、絶さんはうんうんと頷くが、俺にはさっぱり分からなかった。



貞興の異名はこの作品オリジナルです。史実ではそんな異名で呼ばれておりません。

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