第二十五話 恒例の晩酌と上洛催促の手紙
俺と景虎の晩酌は続いていた。
「話を戻すが、織田のが世の中心となっていくのだろう?」
「それは間違いないはずだよ? より変わっていくのは将軍である足利義輝が三好なんとかってのに殺されてか「ちょっと待て!」ら···どうかした?」
「公方様が弑されるだと?」
「うん。間違いなく」
「···なんということだ···では幕府はどうなる!?」
景虎の手が震えている。
俺は少し、後悔した。ここで喋って景虎を不安にさせる必要はないはずだった。
けど今さらだ。俺は全てを話した。
「信長が義輝公の弟である義昭公を連れて京に入り、新たな将軍にたてる」
「···世は泰平より戦乱を望むか」
「結局は六十年後くらいに、新たな幕府が作られるまでつづくってのが俺の知るこの時代の終わりだよ」
「永久に続く戦もなければ、家も幕府もない···か」
「景虎···それでもやらなければいけないことは変わらないと思う」
「···そうだな」
景虎は新たに酒を注ぐと一気に飲み干した。
「この越後の民を、援助を請う者を見捨てず、義に生きる。私のやるべきことは変わらん」
やっぱり強い人だ。さっきまで震えていた手はすでに止まり、綺麗な切れ目はぶれることなく俺を見る。
「しかし良い時に話してくれた」
へ? どゆこと?
「憲政殿と私の直臣、景家、朝信、貞興、頼久、清胤を連れて数日後に上洛をすることになった。もちろんそなたもだ」
「なんで?」
「どうやら憲政殿に書状が来たらしくてな···会いたいから上洛するようにと書かれていたそうだ」
「相手は?」
「関白左大臣、近衛前久殿だ」
「関白!? そりゃ無視できないな」
「無論。同時に公方様とも謁見する機会も賜っている」
史実通り、やっぱり景虎は幕府の忠臣って感じだなー
「城代は定満に任せるつもりだ。あやつであれば問題なかろう」
確かにあの有能堅物じいさんなら大丈夫だろう···
「謁見した際には、公方様に三好に注意するよう進言してみるつもりだ」
···これによって何か歴史は変わるのだろうか?俺の知る史実と少しずつ離れていく気がする。
でも俺は止めるともりはなかった。史実が変わるからといって、今生きている人の思いまで否定することなんてない。こういうタイムスリップ物で、史実に沿うことなく思った通りに生きることを俺は悪いことだとは思わない。
がむしゃらにこの乱世を生きるのに、未来のことなんて考えて行動できるやつは凄いと思うし、そうなれたらもっと景虎を支えられるのかもしれない。でも俺にはネットやらで調べた知識くらいしかないし、力が強いとかチート能力とかもない。ぶっちゃけ策も景虎任せだし···何か頼りない俺に泣けてくる。
俺は無意識に呟いていた。
「俺って何ができてるのかなー···」
それが聞こえたのか景虎がこっちに体を向ける。
「知っているか? 私が公私に渡り、これだけ多くのことを話せるのは姉上様以外そなただけなんだぞ?」
「···景虎」
「出家の時、あのような姿を見られたのだ。今更私がそなたに隠すこともない。あの時のことは皆に内密にな?そなたは充分に、私にとって必要な存在だ」
「···ありがとう。やっぱり景虎に拾われてよかったよ」
「そうか···しかしこんなに話してしまうとは、酔いが回ったかな?」
「かもね」
それ以降は他愛もない話をした。景虎も飲む量をセーブしているようで、ほろ酔いのまま晩酌を終えた。
「じゃあそろそろ寝るよ」
俺は持ってきた持ってきた皿と盃を持って立ち上がる。
「そうか。では私も床につくとしよう」
「お休み、景虎」
「前から気になっていたのだがお休みとはどういう意味だ?」
そういやこの時代にはこの挨拶って無かったんだっけ?
「寝るときの挨拶だよ。俺のいた時代のね」
「なるほど···ではお休み、景亮」
「おう。お休み」
それから三日後、上洛の支度が整ったため景虎は俺含めた八百ほどを連れて越後を出発した。
ここより歴史が結構変わっていきそうです。if戦記としてお楽しみください




