第十八話 景虎隠居騒動立案
弘治元年/西暦1555年~ 越後
さて、越後に帰ってきた景虎はゆっくりとはいかなかった。
第二川中島合戦は兵を疲弊させ、それなりの資材をなげうったものの結果は和睦による引き分け。
越後の国人衆の中にもこの結末に異論を唱える者も少なくなかった。
それに加えて箕冠城城主大熊朝秀、節黒城城主上野家成と千手城城主下平吉長、七手組大将にして栃尾城城主本庄実乃の仲は元々あった土地のいざこざでより悪化し、派閥対立が激化。城内でさえ怒号が飛び交ったりなどかなり険悪となっていた。
その事にもっとも気を揉んでいたのはもちろん長尾景虎だった。
昼は家中を取り纏めるか毘沙門堂に篭り、夜になると酒を大量に持ってこさせ一人でやけ酒。
その姿を見て、家中の雰囲気も悪くなる一方だった。
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とある夜、あまりに酒に頼る景虎が可哀想過ぎたのを見かねた俺は、景虎の部屋に向かった。
部屋では景虎が一人、月見酒をしていた。その背中にはいつもの凛々しい景虎の雰囲気は一切感じられなかった。
「景虎、大丈夫?」
俺の言葉に振り向く景虎の顔は既に赤く染まっていた。
「ん···景亮か。そなたも飲むか?」
飲むか? と聞かれ、一瞬考えたが
「んじゃちょっとだけ···」
今日くらいはいいだろうということで部屋に上がり、景虎の横へ座る。
景虎はもう一つ盃を取ると酒を注ぐ。そして俺にズイッと渡してきた。
「じゃあ、ありがたく···んっ」
盃の中の酒をちょっとずつ飲む。以前貞興兄の酒に付き合ったときに無理矢理飲まされたが、未だに美味しさなんて分からない。
二人とも無言のまま酒だけが減っていく。俺はその状況にたまりかね、話しかける。
「···なんか城の中が騒がしいね」
「···あぁ。元々領地の事で対立していた者がいてな···その中でも朝秀は怪しい。騒ぎすぎだ。煽っているようにしか思えん。しかし、前の戦の結末を許せないという声も本物···ふぅ」
溜め息を吐く景虎。
「武田、北条との戦に加え加賀の一揆だけでも大変だというのに···はぁ」
なんかストレスたまってんなー。酒を飲む速度は早くなる一方だ。
「俺だから言えるけどさ···いっそ逃げ出しちゃえば? ほら、もしかしたらそれで皆仲良くなるかもしれないでしょ?」
「そうだな···うん。それ、やる」
あれー、なんか口調おかしくなってますよ?
「いいか? そなたが何とかしてくれよ? 追ってくるのだぞ? 他の誰も来なければ、そのままそなたと無理矢理二人で逃げてしまうからな」
「お、おう···了解···」
やばい、責任重大すぎる!! てか思ったより景虎弱腰だし! 何か可愛く見えてきた。これがギャップ萌えってやつか?
ーじゃなくて問題は誰が追っかけてきてくれるかだよな···目星はついてるけど
「景虎、これが巧くいけば城中を一気にまとめられるから」
「···あぁ。景亮、頼んだぞ。ではこのあとも酒に付き合ってもらうぞ」
「はいはい、今日だけね」
今回の作戦は景虎のカリスマ力と俺の啖呵にかかってる。あとは味方をどれだけ巻き込むかだ。
今回もいっちょ、やってやりますか! 前は指示出すだけで一切活躍なかったしね!




