第十五話 蕾の誓い
天文二十四年/1555年 越後陣営 夜
景虎の陣を出た俺を待っていたのは加藤段蔵だった。
「いやいや、松尾殿も隅に置けませんな」
「なにがだよ?」
「分かりませぬか? 毘沙門天の化身といえども女子であるのですよ」
「そりゃそうだろ」
「···ふぅむ、成程成程。お互い気付いてなければそれもまた···でありますからな」
まったく分からん···なんだよそれ
「それより松尾殿、これよりどうなさいますか?」
「あー、時限式爆弾はここぞって時まで取っておきたいし。やりたいようにやっていいよ? 」
「ほう、武田の陣と旭山城を攻撃しても?」
「捕まったり、味方の邪魔をしなければ好きにしたらいいよ」
「かっかっか! あい分かり申した。では良い報告をお待ちくだされ」
そういうとあっという間に目の前から消えた。
とりあえずこれでいいかな?
「中島さん!」
そう名前を呼ぶと目の前に出てきた。
「はっ」
「精鋭を揃えて段蔵の手伝いをしてくれます? あ、でも伏嗅の皆さんの命は大事にしてください」
「···分かり申した。もしもの時は見放しますが、構いませんか?」
「えぇ、お願いします」
鳶加藤は死ぬことなんてないだろうし···
俺は寝泊まりする陣へと戻り、暫く体と心を休ませることにする。
これから戦が始まるのか···とりあえず俺の役割は本陣で待機ってことになってるけど
俺は腰に刀の柄を握り、持ち上げる。···偽物じゃない。本物の重さだ。
その重みは俺のいる場所、やることを再確認させてくれる。
もうすでに空は暗くなり、鳥や虫の鳴き声がしている。
「なんだ、休めねぇのか?」
「でしたら、付き合いましょう」
貞興兄、頼久、清胤の3人が現れた。
「何か用?」
「景亮が緊張で寝れないんじゃないかと思ってな」
「酒にでも付きあって貰おうかと思ってな!」
そう言って、酒とつまみを出して笑う貞興兄。
「俺、酒飲めないんだけど···」
「構いませんよ、私たちの話に付き合って貰えればいいのです」
あっそう···
「分かったよ。付きあう」
そう言って酒とつまみを囲って座る。
それからワイワイと談笑しながら酒の代わりに水を飲む。
なんていうかこの三人といると学校のノリっていうか、友達ノリっていうか、気負いとかせずに話せる男友達みたいな存在なんだよな···
知らない場所でもこうして友人ができたことはとても嬉しいことだ。
そんな中、貞興兄が俺に聞いてくる。
「なあ、景亮よ。この戦、どうなると思う?」
「急にどうしたの、貞興兄?」
「ん···いやな、お前は御大将のことをよく分かっているというか、他の者たちとは接し方が違うと思ってな···お前なら何か知ってるかと」
「まぁ、俺はあの人の部下じゃないしね」
「今は違いますがね」
そう、一応俺もお側付きになったのだが、俺は今さら態度とか変えるつもりないし···
「その在り方が殿がお前を気に入る理由なんだろうな」
「気に入る···ね」
どうなんだろう···でもそうであってくれたら俺は嬉しい···かな
「あの方は凛としているが、結構打たれ弱くてな···昔はよく稽古で負けて泣いていた」
「もしかしたら、支える役目は貴方が背負うのかもしれませんね」
「もしそうなったら、できる限りのことはするよ」
そう言って水をぐいっと飲み干す。
「そうか···じゃあその前に、この戦を終わらせなければな!」
「おう! 当然よ。景亮、清胤、頼久。俺らで御大将の刀に、盾にならねばな!」
そういうと盃を上掲げる。
「ええ···殿と越後の民のため」
「あぁ。越後の若武者の力の見せ時だ」
二人もそれに続く。
「必ず生きて、景虎を支えよう」
俺も新たに水を注いだ盃を掲げる。
「「「「我らが剣 我らが命、長尾景虎の支えとならん!」」」」
そう言って盃をあおった。




