第十四話 思い~景虎視点~
同年 信濃国 犀川越後軍陣地 景虎視点
信濃に構えた陣地に到着した私は、すぐに軍議を開くため、主だった将を集めた。
宇佐美定満、斎藤朝信、色部勝長、直江景綱、甘粕景持、高梨政頼、中条藤資、安田長秀、千坂清胤、小國頼久、小島貞興、黒川清実、大熊朝秀、北条高広、安田景元の総勢十五人が座る。
景亮はいない。参加させようとしたが、定満や勝長らに反対された。まったく頭の固い連中だ。
そのため、私の直轄の部隊と共に待機させている。
「さて、これより軍議をはじめる。定満、戦況は?」
「はっ。完成した葛山城には長秀殿、清実殿とその与力を向かわせ旭山城にいる武田、栗田の勢を牽制いたします。よろしいですかな?」
その指示に二人は「あい分かった」と返事をする。
「次に武田方の援軍がこの対岸に陣を構えております。以前殿のおっしゃっていた旭山城の攻略は難しいものになりましょう。後詰めである敵の大将が来る前に、ある程度援軍を攻撃する必要がありますな」
私は思案する。膠着状態になることは目に見えてわかる。そうなった時、どう打破するか···時間を掛けるだけ兵の疲れも士気も悪くなっていく。
「···では車懸かりを使う。部隊編成は私と定満で行う。それと弓兵と鉄砲兵は別に集めよ、弓兵と鉄砲による畳み掛けも同時に行う。弓兵の指揮は頼久に任せる。部隊が下がるとき、敵に射かけよ」
「はっ」
返事を聞くと次の話へと移った。
「敵の騎馬はここでは使えんだろう。問題は敵の弓兵か···」
「で、ありましょうな。弓兵を狙い撃ちすることはここからでは出来ませぬ」
「されど、相手も槍や刀が主な武器。弓兵も味方は射かけられないでしょう」
「···とりあえずは川を渡っての戦を続けることになる。当分は小競り合いとなるだろうな」
「我らは越後の荒武者。たかが弓矢ごときに恐れをなす者などおりませぬ!」
その場にいる他の将もそれに便乗し、声をあげる。
「···分かった。当分はこの策をとる。景持、兵糧の采配と運搬はそなたの得意とするところ、そなたに任せる」
「はっ、早速春日山に使いをだしましょう」
「清胤、景亮には伏嗅と段蔵の采配を任せる。中島とともに自由に動かすゆえ、そう伝達せよ」
「はっ」
「では皆の者、各々準備に向かえ! 準備出来次第、景家より攻撃を開始せよ!」
「「「「「「「はっ!!」」」」」」」
諸将は一斉に立ち上がると、自らの部隊の元へと戻っていった。
私以外誰もいない陣中で、一人策を講じることにする。
それから一刻ほどたてばすでに日も落ちかけ、周囲も薄暗くなっていた。
暫く考えていると、陣に景亮が入ってくる。
「お疲れ様、ちょっといい?」
それにしても不思議な男子だ。私がただ捨て置けないと言う理由で拾った男子は、世にも奇妙な存在であった。
戦を知らない世界から来た景亮の目は、私からすればとても優しく、純粋なものに見えた。
幼い頃より戦を学び、戦場を駆けた私には眩しく見えるものであった。それに加えてあの出自、あの知識。
この男子の色々なところに惹かれた。
ゆえに側に置いた。
「どうかした?」
「いや、何もない···それで景亮、私になにか?」
「うん。これなんだけど···」
景亮は手に持っていた紙を広げ、私に見せる。
そこには犀川周辺の地形と敵の陣営が記してあった。
「必要かなと思って···伏嗅のみんなと段蔵さんに調べてもらったんだ。敵の陣地なんだけど、相手の草に阻まれて確認は出来なかったみたい、多分そこで合ってると思うけど」
「あぁ、ありがたく貰っておこう」
景亮から紙を受けとる。
「景亮、そなた戦は初めてだろう?」
「ん? まあね」
「怖くはないのか?」
「まぁ···怖いものは怖いよ。自分が死ぬのも、傷付くのも。誰かが死ぬのなんて見たくもないし、知ってる誰かが傷つくのも嫌だ。結局刀は使えるまでになってないし、俺には守る力もない。だけどちょっとでも手伝えることがあるんだったら···俺はやりたい」
決意を込めた言葉と裏腹に、その顔は恐怖に怯えているようだった。
「その覚悟、覚えておく···そなたの事は私が守ろう···必ず」
「うん、当てにしてる。俺もきっと役に立って見せるから」
その瞬間、私は景亮に他の者に感じたことのないなにかを感じた。




