第百十八話 望月千代と高坂昌信その三
高坂さんと共に望月さんのいる部屋へ戻ってきた。
「お帰りなさいませ高坂様、松尾様。どうでしたか?」
「あぁ、輝政殿は動いて下さった。某等の頼みも聞き入れて下さった···これも全て、松尾殿のおかげです」
「将の方々の反対の声が全く無かったので、こちらとしては安心しました。あとは菊姫や護衛の皆さんの到着を待つばかりですね···状況によっては迎えに行く必要がありますから、いつでも出陣できるよう支度はしておいてください」
「無論。某は兵を纏めるため、失礼いたす。松尾殿、望月殿、もし何か報がありましたら教えてくだされ」
そう言って部屋を出ていった。結果望月さんと二人きりだ···
「おゥ旦那ァ! 話は全て聞いたぜ。織田を相手に戦たァ滾るじゃねェか!」
「主よ、今戻りましたぞ」
とはならなかった。義守さん含めて松尾衆勢揃いだ。
「よし、はいじゃあ松尾衆注目ー。取り敢えず俺達は武田衆と一緒に待機。菊姫及びその護衛の居場所が分かり次第、その救援のために武田家臣高坂弾正忠の隊と共に出撃します。合流したら利益を殿として善光寺へ退却。その後対織田のために俺達も陣に加わるという流れになるからよろしく」
「そりゃいいが旦那、そちらの巫女さんは一体誰かねェ?」
全員が望月さんの方に視線を向ける。
「武田配下の望月と申します。何卒よろしくお願い申し上げます」
狂いもブレもない綺麗な所作で名乗る望月さん。
「只の巫女と云うわけではありますまい。武田の忍び"歩き巫女"の筆頭は確か同じ望月の姓だったように記憶しておりますが?」
流石は段蔵だ。そこまで情報というか知識があったのか。
「はい、その望月でございます」
肯定しちゃうんだ···
「いいの? 公言しても」
「はい。高坂様が覚悟を見せられたのです。私も覚悟を見せなければ···それに上杉の皆様は、今は頼もしき味方。隠し事するべきではありません」
「そっか···菊姫への援軍には参加するよね?」
「是非、陣に加えていただけるのでしたら」
「基本俺の指示に従ってもらうけどいい?」
「はい、構いません。"歩き巫女"、ここにいるのは半分にも満たないですが、存分にお使いくださいませ」
そう言って綺麗な所作で頭を下げた。
「宜しくお願いします。歩き巫女の力、頼りにさせてもらおう。段蔵、歩き巫女はお前達と同じ任につける。いいな?」
「無論。心強いことですな」
「利益、お前は高坂さんと共に織田を追い払う役だ」
「おゥ! しかし旦那ァ、俺が現れて武田のモンは織田が現れたと勘違いすることもありえるんじゃねェかィ?」
「あっ···それもそうだな。それじゃ少なくとも"利益"は使わない方がいいか」
「何かいい名前、旦那が考えてくれや」
ふむ···なら···
「前田慶次。お前は前田慶次だ」
俺の一言にツッコミをいれたのは段蔵だった
「···主よ、利益殿の通称である慶次郎からですかな? 何とも安直な」
「まぁ旦那に期待はしちゃいなかったが···ふっ、まぁいいさァ! これよりは前田慶次と名乗ろう!」
豪快に笑い飛ばす利益、いやさ慶次。
その光景を、望月さんは驚いたような奇異な目で見ていた。
「望月さん、どうかした?」
「いえ···主君と家臣の仲ではなく、まるで友の様な接し方をなさっているので」
「あぁ···松尾衆はいつもこんな感じでね。俺がそんなに固い雰囲気好きじゃないんだよ」
望月さんはそれを聞いて何か納得してくれたのか頷く。
「成る程、善いことだと思います。松尾衆の皆様にとっての信頼関係の現れということなのですね」
「そう···なのかな? そうだといいんだけど」
俺達がそんな雑談をしていると、伏嗅衆の一人が部屋に入ってきた。
「景亮様、菊姫とその護衛の部隊が見つかりました。場所は私が案内致しますので、急ぎ出陣の準備を」
その情報に、全員の顔が真面目な顔に切り替わる。
「望月さんは高坂さんを呼んできて! 皆戦の準備だ、急げ!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
一時間もかからず支度をして、俺達は城を出た。




