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第百十二話 対蘆名その二

 

 蘆名が動き出したとの情報はあっという間に俺の耳に入ってきた。


 俺達の思った通り、俺達の進軍してきた道にわざと置いてある陣と兵糧擬きを狙いに来ることだろう。春綱さんらは兵糧擬きの陣より更に後に待機してもらっている。挟み込んでくる兵を挟み込む為だ。


 松尾衆には兵糧もどきに細工をする役目を渡し、陣の近くに潜んでもらっている。向こうが兵糧もどきのある陣に入ったら合図が上がる事になっている。


 そして相変わらず隣にいるのは利益だ。先の戦で躍動した利益の愛馬"松風"も威風堂々と待ち構えているのだが···


「おい、俺の馬···お前の松風の方をじっと見てるんだけど」


「はっはっは! そりゃただ張り合ってるだけさァ!」


 対照的な毛の色をした両馬とも鼻を鳴らし、土を蹴っている。いかにも臨戦態勢といった感じだ。


「おい、何とかしてくれ···」


「心配しなくてもいいさ。こいつらも存分に駆け回りたいだけよ」


「お前こいつらの考えてること分かるのか?」


「いや、その逆さァ。こいつらが俺等の考えを理解してんのさ···俺がこの松風に乗馬できるようになるまで、信頼を得るまでに十日かかった。こいつは自らの乗り手を選んでいる···そいつもそうだと思うぜ?」


「こいつが?」


 俺が瞳を覗き込んでも反応してくれない。


「はっはっは!そいつも中々に気難しいようだ···そいつの名前は?」


「そういや全然知らないわ···川中島の戦いの時に放置されてるのを偶々乗ったらいつの間にか俺の愛馬になってたな」


 川中島の戦いの際、輝政を助けに行くため陣内で誰も乗っていなかったこいつに俺が乗って以降、戦いの際は当然のように俺の乗る馬になっていた。


「そうかい。折角だ、名前をつけたてあげたらどうだ? 名は体を表す。こいつにあった良い名前を」


「名前ねぇ···まぁ輝政の陣にいた馬だから凜に聞けば分かると思うけど。それより利益、お前は合図があったら敵の奇襲隊を叩け。こっちに来るのを待っていればいい」


「おゥさ、分かってるぜ···平田舜範は北条や新発田に譲ろう。旦那は?」


「信能くん連れて遠くから見てるよ」


「そーかい。なら旦那の護衛はそこの嬢ちゃんに任せるぜ」


 利益が顔を向けた先から月夜が現れる。


「お任せください。何があろうと主様は御守り致します」


「じゃあ旦那、行ってくる」


「おう、宜しく!」


 利益が後ろに向かってすぐ、俺の元に信能くんがやってくる。


「景亮様、全軍配置についたと加地殿から通達が」


「了解。後は敵が引っ掛かるのを待つだけだな···」


「巧くかかってくれるでしょうか?」


「それは敵を信じるしかないね···」


「敵を信じる···ですか?」


「正確には、敵が正道を選ぶことを信じる···かな。相手が"こういう時どうする"ということを考えて策を考えるんだ。それは相手が素直で直情的であればあるほど相手の行動、やりかたは分かりやすくなる。そしてこっちは、あらゆる敵の動きに対応できるよう幾つも策を巡らす。それが"軍師"とか"策士"だと思うんだ。輝政みたいにな正道の采配をする"王道の知将"もいれば、武田信玄や織田の軍監みたいに正邪併せ持った采配をする"策謀の知将"もいる。どっちが正しいかは自分の胸に聞いてみるしかないね···それは他人が決める事じゃない」


 全てが思った通りだとしても"もしも"はある。その"もしも"に対応できるからこそ"軍師"や"軍神"、"軍監"と呼ばれるのだろう。


「成る程···勉強になります! 流石は景亮様です!」


「いやいや俺なんてまだまだだよ。もっとしっかりした話が聞きたかったら、輝政や景綱さん、定満さんに話を聞きに行くといいよ」


「はい! 父と家を支えられるよう勉学に励みます」


 中々に将来有望な若者だなぁ···なんておっさんくさいことを思っていると


 ドォォォォォォォォン!!


 兵糧もどきを貯蓄していた陣から爆発音が聞こえた。


「合図だ。始まるぞ」


 爆発を合図に上杉軍が動き始めた。兵糧のかわりに詰めていたのは段蔵らお手製の爆弾と草木だ。爆発させ、燃やして逃げ場を無くさせるのが目的だったのだが、思ったより火力が強かった。


 驚いたのはやはり蘆名軍。挟み撃ちをするため、不用意に、油断して前に出てきていた蘆名軍は突如の攻撃に混乱。二度も先手を打たれた蘆名軍に勢いなど既に無かった。


 蘆名軍は瞬く間に蹂躙されたのである。


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