第百十一話 景亮の策
俺達は本陣で敵軍の動きを確認していると、利益が首級を抱えて戻ってきた。
「蘆名軍、慶徳範重が首獲ってきたぜ」
そう言って首を春綱さんの前に差し出す。いよいよだ···利益が慶徳範重を倒したことは知っているが、それでも緊張する。
「···間違いない。蘆名の重臣慶徳範重だ」
その言葉に俺はホッと溜め息をつき、利益はにんまりと笑みを浮かべる。
回りも先の利益の獅子奮迅ぶりを見ていたため、文句を言う人など当然いなかった。それどころか先の約束を早くも守ったことに感心しているようだ。織田と懇意である蘆名の重臣を元とはいえ織田に親族のいる利益が討ち取ったのだ。これなら織田の間者では無いことをとりあえず示すことができる。
首を見終えた春綱さんが、利益の目を真っ直ぐ見つめて告げる。
「利益殿、ここにいる我等が貴殿の戦いぶり、しかと見届けた。輝政様や景綱にも我等の口で直接伝えよう。"前田慶次郎利益は信ずるに足る猛将であります。利益殿がいることは、必ずや越後にとって有益となるでしょう"と」
周りの将達もそれに頷いて肯定の意を表す。
「それはありがてェ! 前田慶次郎利益、その期待に答えられるよう精進しよう」
そうして軍議を終えた俺と利益は、取り敢えず段蔵達と合流した。
「主、蘆名は退いて以降動きは見えませぬ。援軍を待っている可能性もありますな」
「まぁ、あれだけやられりゃァな···どうする旦那?」
「あっちは領地が広い分来るのに時間はかかるだろう···まぁそれでも二日って所か」
「流石に次は相手も奇襲に対応してくるだろうなァ」
「で、あるならば···やるべきことは一つですかな」
何事も無いかのように会話をする。
「あぁ···"鉄は熱いうちに打て"ってね。段蔵、利益···準備を始めよう。俺達らしくね」
「はっ!」「おゥさ!」
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蘆名軍にて
「何···? それは真か?」
上杉の奇襲を受け自国の領地まで退陣を余儀無くされた蘆名家臣平田舜範。
副大将を務めていた慶徳範重は先の奇襲にて討ち死に、八十にもなる兵を失った。舜範は直ぐ様自らの主君である蘆名盛興に援軍を要請した。
「はっ! そこを奇襲すれば、相手に大打撃を与えられるに違いありませぬ!」
それは上杉軍の兵糧が運ばれているという情報だった。上杉はどうやら戦線を上げ、国境近くに布陣したらしい。その後ろから兵糧が大量に運ばれているというのだ。しかも一ヶ所に一度まとめているとか。そこを突けば兵糧を押さえられる上、上杉軍の裏に出ることができる。
「確かに···その通りだ。そこを突けば上杉に一泡吹かせることができよう」
奇襲には奇襲。舜範の目は復讐に燃えていた。
「全軍に通達せよ! 長沼殿及びその配下は密かに上杉軍の裏に向かい奇襲、兵糧を奪われよ! そして上杉を前後ろで挟み込み、一網打尽にするのだ!」
おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!
蘆名軍の誰もが、これであれば上杉を倒せると息巻いていた。
景亮、上杉軍の手のひらの上とも知らずに···




