第百十話 武功
越後 安田長秀領内 前田利益視点
上杉軍は正面から北条、加地、宇佐美。左より新発田、本庄。右より竹俣、山吉が旦那の策に従って蘆名を攻め立てる。
そんな中を主である松尾景亮の許しを貰い、松風を走らせる。狙うは敵本陣。蘆名の軍を真っ直ぐ貫いて大将級の首を獲る。そのためにまずは···
「さァ、退いた退いたァ! 死ぬ覚悟のある奴だけ、俺の前に塞がりなァ!」
突き、斬り、薙ぎ払い、叩き。敵兵を倒していく。立ち塞がる相手に容赦はしない。繰り出される槍や刀を避け、受け捌く。死なずとも地面に倒れる敵兵は放って次の敵に戟を繰り出す。
「前田利益、越後での初舞台。派手に飾ろう!」
敵本陣を目掛けて駆け抜ける。狙うは宣言通り大将級の首だ。平田舜範、慶徳範重のどちらかを討てば上杉の方々にも認められるだろう。
上杉の兵に三方向から攻められ、退却する蘆名は兎に角本陣を安全な場所に置かんと来た道を戻っていく。一方耐えている兵も多く、上杉軍もわざと押しあぐねているかのように兵を動かし蘆名の兵を留めている。しかしその分蘆名の軍は伸びる。そして一ヶ所に溜まる人数も少なくなり結果俺の駆ける道が開ける。
この策を考えた旦那も凄いが、その策に対応し動くことができる上杉軍もまた凄い。しかも鉄砲に頼らずともこれだけの戦ができる。俺の主君は俺の望むことを指示してくれる、これこそまさに、俺が望んだ戦というものだ。
「滾るもんだなァ···上杉の戦ってのはよォ!」
利益の見据える先にはようやく副大将慶徳範重の姿が見える。
「あんたが慶徳範重か···首、頂戴つかまつる!」
「くっ···誰ぞ、奴を討ち果たす者はいるか!?」
それに応えるように兵が周囲を取り囲む。
「敵は一人、討ち取った者には褒美をとらす! 懸かれぇ!」
兵が俺を討ち取ろうと武器を構えて走ってくる。
「さァ行こうかァ···駆けろ松風!!」
松風の横腹を叩くと、松風が駆ける。そしてーー
「「「ーーなぁっ!?」」」
兵の上を飛び越えた。着地点にいた兵も飛び退く。
そこに慶徳範重への道ができた。最早邪魔をする物は何もない。ただ一直線に獲物に向かう。
敵大将の居るの方から兵が向かってくるがもう遅い。誰より速く慶徳範重の元にたどり着き···
その首を目掛け戟を振るった。そしてーー···
「慶徳範重、松尾景亮が家臣前田慶次郎利益が討ち取ったァ!!」
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景亮視点
利益が駆けていってしばらく、俺の隣には岩井さんから戦を見ておくようにと言われて同行している信能くんがやってきた。まだ十二歳だが、凜が素晴らしい将になるだろうと太鼓判を推す有望な子だ。
「景亮様、利益殿が蘆名の副大将である慶徳範重を討ち取ったようです」
「おぉそうか···それは良かった」
「しかし流石は景亮様です。この様な策を講じるとは···大変勉強になります」
「この程度、輝政や景綱さんならもっと上手くやるよ。今回はみんなのおかげさ···さて、春綱さんと合流しよう」
「はっ!」
俺達が本陣と合流する頃には蘆名は撤退。蘆名の領地との境で体制を立て直すと、こちらを睨むように布陣した。
こっちも深追いはせず、軍を再編させて蘆名の再攻撃に備えることにした。
どうやら戦はまだまだ終わりそうにない。




