第百九話 対蘆名
俺は凜の指示で七手組大将である新発田長敦、北条高広、定満さんの次男宇佐美勝行、武田との戦に敗れ越後に逃れた岩井満長の子信能、凜の父親の代からの重臣加地春綱、三条城主山吉豊守、本庄実乃さんの子秀綱、阿賀北衆の一人竹俣慶綱と共に蘆名の侵攻を止めるべく春日山を出発した。
凜、清胤頼久貞興兄の誰もいない戦場は初めての事になるので少し淋しい。
大将は国主の夫である俺、松尾景亮···ではなく重臣加地春綱さん。副大将に北条高広さんが務める。俺の役目は本陣で策を立てる補助と、忍び衆への指示だ。
さて、陸奥国は蘆名盛興、盛氏の親子が治めている越後に隣接する国だ。そして上杉とは敵対関係にあたる。伊達や織田と親好があり、何度も小規模な戦を仕掛けてきている。現国主盛興は蘆名四天の宿老の一人と評される平田舜範、慶徳範重を大将と副大将に置き、約千の兵で越後に侵攻をしてきた。
俺達は一先ず蘆名と近い場所に領地を持つ安田長秀さんの元に行き、そこを拠点として使わせてもらうことにした。
本陣で机を囲んで議論している長敦さんや高広さんに軍の編成や策の立案などを任せ、俺は伏嗅衆と松尾衆を呼んで蘆名の動きを探るよう命じる。
しっかし俺達が軍を引いたと同時にまた攻め込んでくるとは···蘆名の目的はなん何なんだろうか。領地を増やすため? 織田に義理立て? それとも他の誰かが攻めるよう指示したか? 俺の隣で伏嗅衆への指示を黙って見ていた利益に聞いてみた。
「蘆名はどうして動いたと思う?」
利益は顎を撫でながら答える。
「さァて···蘆名は領地は広く、友好関係にある家も多い。先の手取川でも信長が上杉の背後を狙うよう書状を出していたしなァ。もしかしたら、武田か北条から同じ様な書状が来たのかもしれねェな」
成る程。あり得ない話じゃない、な。北条は上杉と古河御所あたりで睨みあっているし、武田は大将である信玄が病に倒れたという情報があって、甲斐に目を向けさせない為にやっている可能性もある。
「最も可能性が高いのは武田かな」
俺の発言に利益が頷く。
「武田信玄の情報が事実かどうかはさておいても織田は武田を狩るだろう。織田、北条、今川、上杉、佐竹。これだけの相手に囲まれりゃ流石の武田も···正に八方塞がり。蘆名を動かし上杉を止めれば、少しは生き残る確率も上がろうさ。武田にゃ気の良い武に生きる将が多そうだし、一度仕合ってみたかったんだが」
「お前は本当に戦が好きだな···」
「そりゃそうさァ! 俺は生粋の戦人だからな···それはそうと旦那、戦の支度始めようじゃねェか。ここ蒲原で迎え撃つ、奴等の鼻先へし折ってやろうや!」
そう言って豪傑に笑った。
ーーそれから四日後のこと。蘆名は国境を越えて道を進み、俺達が布陣する蒲原に進軍してきた。
俺達は向こうが布陣し、落ち着いた頃を見計らって攻撃を開始。勇猛果敢に攻める上杉軍に反応が遅れ、戦いの場は蘆名が布陣したすぐ近くとなった。蘆名は本陣を後ろに下げ、後退を始めた。
それを見渡せる場所に俺と利益、段蔵は馬を並べていた。
「作戦は成功。戦列が縦に伸びてる···絶好の機会だな。段蔵、隠れている部隊に合図を」
「はっ!」
段蔵は鏑矢を打ち上げ、太鼓を鳴らす。それを合図に縦に伸びている蘆名軍の左右から大量の"毘沙門天"と"龍"の旗と兵士が声をあげて現れた。
そして俺は隣に並ぶ利益の肩を叩く。
「さぁ、出番だ利益。お前の武勇で蘆名の軍を貫いてこい」
「おゥ! 松尾景亮が家臣。前田慶次郎利益、一騎駆けにいざ、ーー参る!!」




