第百四話 前田慶次郎利益
クロスオーバー作品である黒の章共々よろしくお願いいたします!
俺と絶の子が生まれてからすぐの事。春日山に一人の男が泥にまみれた大根を一つ手に現れた。
前田慶次郎利益。母衣衆、前田利家の甥で滝川一益の一門に名を連ね、手取川の戦いの際に凛と一騎討ちを行った、史実では前田慶次の名で知られる傾奇者。
彼はあの時の言葉通り俺達の元にやってきたのだ。凜は直ぐ様部屋に利益を案内させ、二対一で対面した。
「この度は拝謁の機を賜り恐悦至極。前田慶次郎利益、いつぞやの言葉通り上杉の軍の末席に加えていただきたく、越前より参った次第」
恭しく、礼儀正しく頭を垂れる。
「面を上げよ利益」
「はっ」
凜の言葉に従い、ゆっくりと顔をあげる。
「言葉も姿勢も崩すがいい。それにしても、今や天下に轟く織田の将であるお前が、本当に来るとはな···」
「では遠慮なく···織田から出奔したのは自らの心に従ったまでのことさァ。戦人の役目は鉄砲の中継ぎじゃねェ。俺が求める戦、上杉の元なら出来るだろ?」
ホントに遠慮のない奴だ。さっきまでの武人っぽさは消え、傾奇者の様な雰囲気にガラッと変わった。
「···出奔と言ったな。家族は?」
「織田に居たときはいた。なれど今はただの浪人よ」
こいつ、妻子を織田に残してきたのか!?
「そうか···いいだろう。お前の槍、存分に振るうがいい」
「はっ、必ずや! して、俺の仕官先はどこになるんだ?」
そう言えば。こんな男を扱える将···まずいないね。
「そなたの仕官先はこやつのところだ」
そう言って俺の肩に手を置く凜。
「え?」
「我が夫、松尾景亮の護衛役に命ずる」
「ほぉ···それはつまりこの旦那の配下になれ、と。この旦那の元にいれば、俺の望む戦が出来ると?」
利益は顎を撫でながら俺の事をじろりと睨む。いや凜、俺の配下は面倒くさい奴もう居るんですけど···。
「私の旦那様は基本的に本陣付きだが、城への潜入や敵本陣への突撃、万事にこなせる。それに景亮が許可すれば自由に行動してくれて構わん。景亮の配下は私兵の集まりのようなものだからな」
「おい、り···輝政!? 何言ってんだ!?」
そりゃ脚色しすぎ! 俺そんなことやってないし! と戸惑う俺を余所に話は進む。
「ほぉそりゃ厚待遇だ···いいぜェ、総大将が心底惚れた男、この前田利益が護ってやろうじゃねェか! よろしく頼むぜ旦那ァ···俺はこの泥大根のように見かけはむさ苦しくとも、噛めば噛むほど滋味(うま味のこと)の出る武士よ。この泥大根、ぜひともうまく使ってくれや!」
そう言って泥大根を洗いもせずに齧りついた。
松尾景亮配下···加藤段蔵、義守、弥彦、月夜、前田利益




