プロローグ
あらすじに書きました通り初投稿です。2日で1話くらいのペースで頑張りたいと思いますのでよろしくお願いします。
天文ニ十四年/西暦1555年 越後
中年期ほどの歳であろう男は横にいる馬上の人物に声を掛けた。
「殿、もうすぐ村に着きますぞ」
声を掛けられた人物は顔の向きを変えずに返答する。
「あぁ。……相手の人数は?」
「それほど多くは。北条攻めの際の残党ですからな」
「そうか。……すぐに終わりそうだな」
時は戦国時代。幕府の権威が弱まり、戦国大名と呼ばれる者たちが台頭し、領土拡大などを理由に戦闘が始まっていた乱世の時代。
越後では長尾景虎が、越後を統一。統治していたが、前年、長尾家家臣の北条高広が甲斐の武田と通じ謀反を起こした。
しかし越後国国主長尾景虎は自らが出陣、北条の居城である北条城を包囲し、すぐに鎮圧した。高広は帰参を許したが一部の兵は逃走。景虎は国人衆らを率いて残党討伐に出向いた。
「しっかし先の戦は思ったより早く終わりましたな」
「先の戦を早く終えれたのは景元 (安田景元) や景綱 (直江景綱) が早く知らせ、行動してくれたおかげだ。……だが、まだ終わらん。たしか今逃げているのは武田が高広に貸し与えた兵なのだろう?」
「はっ。高広自身がそう申しております」
「取り敢えず北条の兵として追う。降伏すれば許そう」
「ではそのように」
「指揮はお前に任せる。存分にふるえ」
「はっ! 殿はどうなさるおつもりで?」
「決まっている……前に出る! はぁっ!」
そう言うと刀を抜き、馬を走らせ、逃げる兵のいる村に向かっていった。
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先程殿と呼ばれていた人物、長尾景虎は1人馬を降り、歩いていた。
戦はすでに終わり、一部の兵は降伏、あとは討ち取られた。
兵が隠れていた村を景虎はゆっくりと歩き、隠れた者がいないかどうか探りをいれる。
ガタッ
「……誰かいるのか!?」
音の聞こえた方に体を向け、刀に手を置き、わざと声を大きく出す。
「~~~~!」ガタッガタッ
奥にあった倉から物音と、小さいが呻くような声がする。
景虎は刀に手を添えたまま倉に近づいていき、人の気配が動かないことを確かめると勢いよく戸を開ける。
倉の中には一風変わった服を着た男が手足を縛られ、猿轡をされた状態でもがいていた。
男は景虎に気が付くと、猿轡のままで騒ぐ。
「はんあ、はれはわひはんわ、はうへえふへ!」
「……」
景虎は男の服装に驚いていたが、一瞬を経て正気に戻り、男の猿轡を取る。
「……っぷはぁっ! 助かったー! ありがとう! さぁ、次は手と足の縄を取ってくれ!」
そう言い背中を向ける男の願いに景虎は答えず、回り込んで男の目をじっと見て問う。
「お前は、何者だ?なぜ縛られていた?」
男は景虎の睨むような視線に顔を背けながら答える。
「な、名前は松尾景亮。……縛られてた理由は分からん。俺が知りたいくらいだよまったく……だいたいここはどこだよ? なんでこんなとこにいるんだ? ってか助けてくれてありがたいけどあんたは誰?」
聞き取れないほど早口で質問攻めをする景亮と名乗った男を景虎はなだめる。
「まずは落ち着け。取り敢えず縄をほどいてやろう」
「あ、あぁ……ありがとう」
景虎は景亮の縄をほどくと手を引っ張り立ち上がらせる。
すると景亮は手を引っ張られた反動で倒れ、景虎の体にもたれかかりーー
ゴスッ
「ぎゃあ!!」
無表情になった景虎に殴られ気絶する。
「ーーっはっ! つい殴ってしまった……どうするか」
倒れたまま動かない景亮をそのままに少しの間考え込むが結局は見捨てられず、 景虎は景亮を背負い、馬の元へ歩いていった。
こうして、後の軍神長尾景虎は生涯の相棒となる松尾景亮と出会ったのだった。