不死の贖罪
不老不死。人類が古来より求めてきた究極の目標。
老いることも、死ぬことも無い。全ての生命と輪廻を超越した存在……
その男は、科学と医学の全ての英知の結晶である不老不死を手に入れ、人類科学の最高傑作となった。
だが、
不老不死の男は、非情な世界にいた。
かつて栄華を極めた人類の産業文明は終焉を迎え、ただ広大なコンクリートの廃墟を世界中に残していた。
大気は一様に穢れ、海は干上がり、生命はもはや彼以外には存在していない。
地球が迎えた6回目の大量絶滅は、彼が引き起こしたものだった。
不老不死の男が人体改造によって誕生したその時。
一部の資産家や政治家達はその不死の力を我が物にしようと、必死になっていた。
彼に力を与えるうえで、携わった人間は15人。
それらの人間は一様に狂気ともいえる医科学を専門にしていた。
不老不死の人体改造は、非常に難解かつ困難で、世界の指導者達は彼ら15人を招くべく大金を投じた。
しかし、彼らはそれを承諾しなかった。
彼らの目的は、人類の最終形態の追究。もはやそれに成功した彼らには、どんな待遇も金も、必要な物ではなかった。
大金を投じた各国は、彼らが金では動かないことを知ると、とうとう武力を降りかざした。
各国は研究者を巡り戦争をし、不老不死の為の大量虐殺が世界中で始まった。
ある国は核兵器の雨を降らせ、ある国は衛星兵器で数億人を灰にかえた。
その戦争は本来求めていたはずの科学者達おも殺した。
全ての国はもはや意味を成しておらず、ただ人を殺すうえでの所属にしかなっていなかった。
彼、不老不死の男も、幾度となくその戦争で命を落としたが、そのたびに蘇生を繰り返していた。
それから幾千年。人類は、戦争によって地球を死の星へと変えてしまった。
ほとんどの生命体が絶滅し、生命の予兆はなく、完全に滅んでいた。
男は苦悩した。
有毒の大気のおかげで、又は異常なまでに高温な大地のおかげで、彼は最低でも5分に一度は死んで生き返る。
死しても眠りにつくことのできない、永遠の苦しみ。
男は、決して不死の呪いから逃れる事はできない。
たとえ、惑星が寿命を迎えて自らの重力に押し潰されようとも。
彼は死なない。
彼は
死して逃れる事を
許されていない。