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エミルリーテ様の穢れ

お久しぶりの投稿です。

何とか生きてます。

涼しくなってきましたね。

皆様方、体調に気をつけて下さいまし。

整備されているとはとても言えない畦道を進んでいくと、古めかしい神殿と言われればそうかなという建物が見えてきた。

パルテノン神殿を思い出すな。


「あれが例の神殿か?」


「そうよ、あそこにエミルリーテ様がいらっしゃるわ。

とは言っても大戦以降は一度も御目通りしたことはないけどね」


「それも仕方ないのじゃ。

御自分の御姿を姿見で拝見されてから、あまりのショックに臥せっておられるからのぉ。

ガクトよ、神殿内では静かにしておれよ。

エミルリーテ様の御身体と御心に障るのでな。

間違ってもエミルリーテ様のお姿を見て、醜いなどと申すなよ」


「あぁ、もちろんだ。

俺は元居た世界では医者をしていた。

それは当然のことだったからな」


族長は頷き神殿への歩みを進める。

この辺りから地面に石のタイルが歩幅間隔くらいに敷かれているので、幾分歩きやすくなった。

所謂参道のようなものか。

石造りの神殿の入り口にはエルフの兵が二人立っている。


「族長、ついに!」


兵士の一人が族長に話しかけた。


「うむ、エミルリーテ様の御身体を癒すことの出来る者を連れて参った」


「どうぞ、お通り下さい」


恭しく頭を下げるエルフ兵。

俺も軽く会釈して中に入る。

白い石造りの床を歩いていくと、壁の上部には光を取り入れる為の採光窓があったが、開いていない事に気付いた。

神殿内は薄暗く、まるで今のエミルリーテ様の心境を表しているかのようだ。


身体を蝕む穢れとやらが、果たして俺に取り払えるのか?

すれ違う度にエルフに拝まれる始末。

周りから期待の目で見られてるみたいだし、もし出来なかったらどうしようかと思う。

まぁ、まずは診てみないとどうしようもないか。

ウジウジ悩むのをやめ、気を取り直して二人の後を追う。

族長の足が止まり、目の前に大きな石造りの扉が見える。

族長が掌を扉の中央部にあて、


「ムンッ!」


すると、中央部の丸い円を起点に外側に向かって緑色の光の線が走る。

すごく神秘的な光景が目の前に広がる。

淡く緑色に光る石造りの扉は、隅々まで行き渡った魔力の影響か、扉全体が一瞬輝いた後、蒼色に光った。

石造りの扉のデザインかと思っていた線は実は魔力線だったようだ。

魔力が満たされた重そうな扉は、ゴゴゴと音を立てながら一人でにスライドしていく。

ガコンと音がして扉は完全に開かれた。

中も薄暗く遠くの方までは見えない。

そうか、わざと暗くしてあるんだな。

見られないために。

扉をくぐり抜け、少し進むと襖があり、


「これはイグサの香か?」


「これ、騒ぐでない!」


しまった、静かにしておけと言われてたんだ。

隣のフィズにも睨まれた。

致し方ない。

俺は掌を合わせてすまんと意思表示した。


「族長ですか?」


澄んだ声が聞こえた。


「はい、族長のレナスでございます。

本日は、エミルリーテ様の御身体を治せる者を連れて参りました」


「誠ですか⁉︎」


「まずは私の身体を見て頂ければ。

御目通り願えますでしょうか?」


「分かりました。

こちらに来て下さい」


「はい」


襖が少しだけ開かれる。

族長は襖の間に身体を滑り込ませ、すぐに閉じた。


「族長、そ、その身体は!」


「はい、これは召喚されたガクトの力に依るものです」


「分かりました。

そのガクトなる者もこちらへ」


「はい」


スーっとス襖が少しだけ開かれる。

襖の隙間に身体を滑り込ませると、左右に付き人だろうか女性のエルフが二人居た。

二人揃って部屋の中央に敷かれた布団を指差す。

こちらへという事か。


「失礼致します。

地球から召喚されましたガクトと申します」


族長の隣に座り、挨拶した。


「ワタクシの身体は闇の力によって焼かれ、穢れがどうやっても取れません。

あなたにワタクシの身体は治せますか?」


縋るような声で喋るエミルリーテ様。


「診てみなければ分かりません。

火傷の部分を拝見してもよろしいでしょうか?」


「仕方ありませんね、ユミル、レミル、お願いします」


エミルリーテ様がそう言うと、二人のエルフは、エミルリーテ様の側に来て、服を脱がせ始めた。


「こ、これは!」


火傷の部分を見て驚いた。

未だにジクジクと肌を侵食している。

しかもドクドクと蠢きながら。

何て醜悪な傷痕なんだ。

そりゃあこんな美人さんがこんな傷痕、皆に見られたくないよな。


「失礼致します。

スキャニング」


俺はエミルリーテ様の全身をスキャニングする。

左側の顔半分と、左半身のほとんどが穢れによって焼けただれている。

どうやら真皮まで傷付いているな。

闇の魔力がまだ残ってる。

まるで身体に取り憑くかのように。


「ではオペを開始してもよろしいでしょうか?」


「オペとは何でしょうか?」


「あ、失礼致しました。

オペとは手術、つまり治療の事です」


「お願いします」


一縷の希望を賭けて、俺の手を握り締めるエミルリーテ様。

コクコクと頷き、


「ではオペを開始します。

エミルリーテ様は身体を楽にしておいて下さい。

それでは、麻酔(エネスティージャ)!」


目を開いていたエミルリーテ様が突然意識を失う。

それに驚いたユミルが、


「エミルリーテ様に何を⁉︎」


「ただの麻酔です。

火傷の部位を切除する時に相当の痛みが生じます。

その痛み対策です。

では火傷部位の切除に取り掛かります。

切除(リゼクト)!」


まずは左腕の皮膚の部分を深目に切除していく。

麻酔によって出血量は押さえられてはいるが、切除部分から出血し始める。


「何という事を!!」


「少し黙ってて下さい。

止血(ヒーモステイサス)

それから滅菌(ステリリゼーション)消毒(ディジンフェクション)免疫(イミューニティー)


簡易に止血し、ありったけの除菌をしてから傷口をよく観察する。


「よし、侵食が始まらないな。

これで何とかなりそうだな」


傷口を消毒した指先で触れながら、穢れが取り除かれているかを入念にチェックした。

周りの皆の視線は傷口に集中している。


「よし、それじゃあ傷口を治します。

復元(リストア)

あれ、発動しない?」


俺の腕の周りに魔法術式が一度展開されたが、霧散していく。


「そりゃあ魔力が足らんのじゃろう。

今お主が使おうとした術式は、膨大な魔力が必要の術式じゃったぞ」


「マジか、それは想定外だ⁉︎

どうする?

仕方ないな、ご自分の回復力で何とかしてもらうしかないか。

細胞分裂(セルディヴィジョン)

活性化(アクティベート)!」


するとみるみるうちに傷口の肉が盛り上がり再生し始めた。

数秒後には、もとの綺麗な肌に戻る。


「よし、腕はこれで大丈夫そうだな」


「す、凄い!」


「何という高度な治療魔法!」


ユミルとレミルが呆気に取られている。

しかし俺はそれどころではない。

頭がフラフラする。

魔力の使い過ぎか。


「驚いてもらってるところ悪いんですが、どうも魔力が足りないみたいで、回復薬とかありません?」


「はっ、只今お持ち致します」


俺の顔色をジロジロ見て、ユミルがサッと退室していく。

俺の魔力量もさる事ながら、エミルリーテ様の体力も大丈夫だろうか?

本人の回復力に頼る場合、体力が落ちていれば治りが遅くなる。

立て続けにオペしない方がいいかな。


ユミルが戻ってきて、木の器に入った液体を差し出してきた。


「魔力をたちどころに回復させる黄金樹の雫でごさいます」


「ありがとうございます」


俺は受け取って一口飲んでみた。

う〜ん、苦い。

良薬は口に苦しだな。

だが効果は覿面で、身体の奥がすぐに熱くなってきた。

どうやら魔力も回復してるみたいだ。

さっきまでの虚弱感がなくなった。

よし、続きをやるか。

その後、胸、背中、腰、お尻、左足と回復し、残す所は顔のみとなった。

何度目かの黄金樹の雫を飲み、魔力を回復させる。

まず髪を剃らなければならない。

少し心苦しいが、仕方ない。


剃毛(シェイヴィン)


俺はエミルリーテ様の左半分の髪を剃り落とす。

一瞬、騒めきが起こるがすぐに静かになった。

一番の問題は頭だ。

スキャニングした時に見たところ、侵食が頭蓋骨にまで達していたのだ。

ゴクッと唾を飲み込む。

左半分の皮膚は完全に取り除く事になる。

それに頭蓋骨も取り除かねばならない。

いくら魔力が回復できるといっても懸念はある。

そう、エミルリーテ様の体力の問題だ。

だが、このまま放置しておくと、恐らく侵食は脳にまで達する可能性が高い。

一刻の猶予も残ってはいない。

だが、失敗は許されない。

俺はもう一度唾を飲み込む。

頬を汗が伝っていくのを感じる。

久しぶりに緊張しているのが分かる。

美容整形では頭蓋骨の整形まではしない。

研修医時代にも頭蓋骨や脳といった器官の実習は少なかった。

未知の領域がリスクの高さを訴えかけてくる。

俺の鼓動はいつになく早くなっていた。

ドクドクドクと脈打つ自分の心臓の音が聞こえてくる。

手先が震える。

少しのミスも許されないオペ。

経験の少なさが、自信の無さが、俺の手を止める。


「ガクトよ、どうかしたのか?」


「族長、頭の骨を一度取り除く必要があるんだ。

その間、脳が剥き出しになる。

少しでも傷付けば、後遺症が残る可能性があるし、悪ければ身体に麻痺が残る事もある。

自信が無いんだ」


「今までのお主の魔法の扱いは素晴らしかった。

自信を持て、ガクトよ」


「下手を打ったらエミルリーテ様が死んでしまうかもしれない。

そう思うと手が震えるんだ」


「そうか、ならば儂が補助してやろう」


そう言って族長は、何故か俺の背中に密着してきた。


「族長、一ついいですか?」


「何じゃ、ガクト?」


「何のフォローにもなってませんが……」


「気にするでない。

儂はやる気満々じゃ」


「何のやる気ですか、全く」


胸が当たってるんだよ、胸が。

むしろ逆の意味で集中出来ない。


「行くぞ、ガクト!

彼の者に雑念を払う力を与え給え、コンセントレイト!」


淡い光が俺を包む。

今まで考えていた不安や雑念が綺麗サッパリ無くなり、俺の中で集中力が増しているのが実感できた。

これならいけそうかな。


そして俺は一世一代の大仕事をやり切ろうと決め、オペに挑む。




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