さすが異世界⁉︎
「何とも変わった奴じゃのう」
「仕方ないぜ、頭の中グラグラ痛いわ、身体には力が入らないわで、大変なんだよ」
「まだ身体がふらつくの?」
「あぁ、今ならラッキースケベ10連発できそうなくらいな。
フィズ、悪いが肩を貸してくれ」
バシッとビンタが飛んでくる。
「婆婆様、私は召喚相手を間違えたかもしれません」
「そうかも……しれんな」
「ところで族長さん」
「何じゃ、タチバナ」
「あ、いや、タチバナ、タチバナと呼ばれるのもあれだから、ガクトと呼んでくれ。
ちょっと魔法を使ってみたいんだが、構わないか?」
「儂に使うということか?」
「あぁ、族長の身体の代謝を上げて、活性化してみようと思うんだが」
「代謝? そりゃあ何じゃ?」
「まぁ、簡単に言えば血の巡りみたいなもんかな?
やってみればすぐに分かる」
「まぁ、お主の好きにせぇ」
一応お許しが出たので、族長の元まで這って近付く。
「ちょっと失礼」
俺は族長に手をかざして頭の中で行使する魔法をイメージする。
初めて魔法使う事にやや興奮している。
だが、俺の中の知識はすでに魔法が行使可能だと訴えている。
「スキャニング!」
俺の中の何かが発動エネルギーに変換されて、魔法が発動し、頭の中に族長の体内スキャンが投影されていく。
対象の体内の異常を探る魔法。
地球でいうレントゲンやCTみたいなもんだな。
「やはり俺とは肉体の構造が少し違うな。
ここが少し動脈瘤になりかけているな。
それとこれは何だ?
血管とは違う管があるな」
「それは魔力線だろうよ」
「魔力線?」
「血と同じように魔力も体内をかけめぐっておるからの。
特にエルフは魔力の扱いに長けておるから、体内を巡る魔力線も太い」
「なるほど、じゃあこの魔力線にも魔力瘤があるな。
よしじゃあこの瘤を何とかしてみるか。
エクステンション!」
動脈瘤や魔力瘤と思われる箇所の管を拡張してやる。
すると、目に見えて族長の血色が良くなってきた。
「何じゃ、これは⁉︎
身体に力が漲ってきよったわ!」
「後はそうだな、老廃物を取り除くか。
リモーバル!
それと、筋肉や神経、心臓を活性化、アクティベート!
おまけで遺伝子レベルでも細胞を活性化しておくか。
ジェネティックマニュピレーション!」
「おぉ、おおおぉ、何と!
身体が若返っておる!!
儂の肌がピチピチになっとるわい☆
フィズよ、見てみぃ、お主の肌と変わらんぞい」
「す、凄い!
婆婆様が、お婆婆でなくなった?」
そこに居るのはもうお婆婆などではない。
歴とした大人の女性エルフである。
細胞レベルで活性化したためか、身長が伸びて、服がキツそうである。
「ふむ、うまくいったな。
どうだ、身体的に若返った感触は?」
「素晴らしいぞ、ガクト!
現役の頃のように力が溢れてきておる」
「まぁ、実際現役時代の頃に身体が戻ってんだけどね。
とりあえず服着替えてきてな、目のやり場に困るから」
「おぉ、そうじゃの、ちぃ〜とばかり、皆に見せびらかしてきてやるわ!」
そう言って族長は部屋を出て行った。
「ちなみに私には?」
「う〜ん、どこも悪くないっぽいけど、一応見ようか?」
「うん、お願い」
「んじゃあ、とりあえずスキャニング!」
俺の頭の中にフィズの体内画像が投影される。
これでスリーサイズもバッチリだ。
どれどれ、背筋辺りの魔力線は相当太いが、一部流れが滞っている部分があるな。
「ちょっと背中向いて」
「こう?」
「あぁ、そのままな。
この魔力線をアクティベート!」
「うわっ、何これ⁉︎
背中がジンジン熱くなってきた!」
「ちょっと流れの悪い部分を治しといたから」
「身体の中に魔力が満ち溢れてきてる。
ガクト、あなた凄いのね!」
「いや、まぁ、フィズが使えるようにしてくれたもんだからな。
凄いと言われてもな」
「私はあなたが元々持っているモノを引き出しただけよ。
この力はあなたが本来持っていた力だから」
「そうか、で、身体の調子はどうだ?」
「いい感じね、身体が軽いわ。
それに魔力の巡りもいいみたい」
「そりゃあ良かった。
自分にも使ってみるかな。
アクティベート!」
身体がフッと軽くなった感じがする。
「よし、これで何とか立てそうだ。
よっこらしょっと」
俺はしっかりと床を踏みしめて立ち上がった。
先程みたいにふらつかない。
これでしばらくはラッキースケベともお別れだな。
グルグルと首や腕、腰を回し、屈伸運動をする。
暇だしラジオ体操第一でもやっとくか。
タンタンタタタタ、タンタンタタタタ、タタタタタタタタタタタタ〜ン♬
頭の中で伴奏が響く。
軽く腕を振り、軽く膝を曲げる運動。
「な、何、その変な動きは?」
フィズが何やら怪しいモノを見る目で言う。
「うん、これはラジオ体操っていう準備運動みたいなもんだ」
「へ、へぇ〜、ガクトの世界には変な動きの準備運動があるのね」
「本来は伴奏があって、リズムに合わせてするんだぞ。
小学校の夏休みには、皆で集まって朝からしてたな。
そうそう確か6時半からだったっけな、懐かしいぜ。
教えてやろうか?」
「わ、私は遠慮しておくわ」
「そうか、残念だ。
この体操の良さが分からないとは」
どうやら俺的異文化交流に失敗したらしい。
ラジオ体操第一も終盤に差し掛かり、大きく深呼吸している間に族長が戻ってきた。
着ている服はフィズとあまり変わらないが、フィズよりも露出度が高い。
ワンピース丈は短く、胸元は谷間がのぞいている。
「待たせたのう。
皆、目ん玉が飛び出さんばかりに驚いておったのでな、年甲斐もなくついつい調子に乗ってしもうたわ」
「あぁ、まぁ、軽く動いてたから問題ない」
「早速じゃが、今から神殿で臥しているエミルリーテ様の元に向かう。
良いな?」
「あぁ、分かった」
族長に続いて、フィズと俺も部屋を出た。
すると部屋の扉の前に二人の男性エルフが居て、軽く会釈してくれた。
一応俺も会釈し返しておく。
エルフは男性でも美しい容姿なんだな。
着てる服もワンピースっぽいのに、下は長ズボンだし、体格でしか見分けがつかないな。
グルグルと螺旋階段を下り、長い廊下をコツコツと歩く。
ジグザグと少しずつ下りていっているようだ。
所々に光を取り入れる小さな窓があり、今が昼だと分かる。
「あのさ、これって木の中なのか?」
「そうじゃ、エルフは木と共に生きる種族でな。
魔大樹と呼ばれる木の中に魔法で住処を作って住んでおるのじゃ」
「そうなんだ、えらく木の香りがすると思ってた。
神殿ってのは、木の外にあるんだよな?」
「そうじゃな、今外に向かって歩いておるぞ」
「結構歩いたのにまだ外に出ないって事は、この木かなりデカいんだな」
「魔大樹は大きなものでは、高さ数百メートルを誇る木での、幅も数十メートルはあるぞ」
「そりゃまた馬鹿デカいな。
俺が住んでた世界には、大きくても高さ数十メートル、幅は数メートルってとこだったな」
「安心せい、もうすぐ外じゃ」
広々とした廊下の先が明るく光っている。
あれが出口か。
両脇にエルフの兵士らしき人が二人立っている。
「族長、その者が例の」
「そうじゃ、ガクトという。
今から神殿に向かうのでな、レーテよ、ここは頼んだぞ」
「はい」
「彼は?」
「儂の曾孫のレーテじゃよ」
「へぇ〜、曾孫⁉︎
族長って何歳なんだ?」
「お主、レディーに歳を聞くとは礼儀知らずじゃのう」
「いやいや、レディーって。
そもそも誰のおかげで若返ったと思ってるんだよ」
「婆婆様はもう800歳近いのよ」
フィズがゴニョゴニョと耳元で教えてくれる。
あ、ちょっと唇が触れた。
「そ、そりゃあ完全に婆婆ァだな」
「やかましぃ、フィズも余計な事は喋るでない!」
「は、はいぃっ!」
外に出るとそこは森の中だった。
周りにはえている木は、俺が知っているものよりも遥かにデカく、そのせいか、辺りは薄暗くなっている。
背後を振り返ると更にとてつもなくデカい木が聳え立っていた。
俺はあんな馬鹿デカい木の中に居たのか。
今更ながらに自分が本当に異世界に召喚されたのだと実感した。
空を見上げても、木の枝と葉っぱしか見えない。
そもそも魔法が使える時点で異世界だよな。
族長とフィズが畦道を進んでいく。
置き去りにされたら辿り着けそうにないな。
見失わないようについていかないと。
俺も二人を追うように畦道を早歩きで進んでいった。