表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/78

偽ヒーローギルド 1

 ここはヴィスブリッジの応接間。

 まだ早朝。


 だんだんと温かくなってきた初夏。

 外はほんのり明るいが、営業開始時間まで、まだ2時間程度はある。

 

 時刻は6時30分。

 今日もこの会社は忙しくなるのかな?

 

 誰もいない応接間。

 薄暗いこの部屋のカーテンを開けると、ほのかな陽が室内へと差し込む。

 テーブルにコーヒーを置くと、俺は腕組みをしてしばらくの間、部屋の中をうろうろと歩いた。



 それにしても、急に色んなことが起きたな。



 実際のところ、リーズはいったい何者だったのだろうか?


 誠司さんの作ったAIのARISAってことで納得はしているのだが、まさか本当に誠司さんの妹の有紗ありささんの意識が転生してきて……



 な、馬鹿な。

 あははは……



 だけど。



 人の心がわからない人工知能のARISAが、自分の犯した過去の過ちを克服したくてこっちへやってきた。そんな彼女の中にはバグがいて、それが腐った化け物だった。


 まぁそういう感じなのだろうけど、やっぱりリーズは誠司さんの妹の有紗さんなのではないのだろうか。そんな気がしてならねぇんだ。とてもコンピュータのようには思えねぇ。



 まぁコンピュータってのがどういうものか、ぶっちゃけよく分からねぇし、そもそも誠司さんが愛情をもって妹として作りこんでいるから、そう見えているだけなのかもしれない。


 まぁ、誠司さんは誠司さん。

 リーズはリーズだ。


 リーズは、誠司さんを王様にするビジョンを共有している黒子の同士。

 結局、それでいいんだけどね。



 それにしても、やっぱり誰もいないこの時間が一番落ち着くな。

 


 さてと。

 あの堅物のスーパーヒーローを、どうやって冒険の旅に連行してやるか考えんといけんな。



 あいつを見てみるか。



 俺はソファーに腰を預けると、異空間魔法アナザーゲイブを詠唱して、おそるおそるあれを取り出す。


 直接触れないように指先に風魔法を念じ、発生した柔らかい風を使ってブツを指でクイクイとテーブルの上へと移動させる。


 バサリとテーブルいっぱいに広がったのは、一見何の変哲もない新聞だ。

 そのすべての表面には、点程の文字がびっしりと長方形に陣を構えている。


 直接触れないように、超微量の風魔法を指先に宿してぺらりとめくる。

 

『あ、あんまり見ないでください』


 若い女性の声で俺の脳内に信号を送ってくるのは、この新聞だ。

 なんとも恥ずらいを隠せないような声音。

 でもそれは色っぽい大人の声というよりかは、すれていない10代半ばといったところか。

 よーわからんが。

 リアよりお嬢様やリーズ寄りということで。



『……そんなに見つめないでください……』



 

 なんか、俺、すごい後ろめたいことをしている感じになっちゃうじゃん。


 いったんコーヒーカップを手に取ると、ひとつ口をつけて嘆息を吐く。


「おい。あんたは新聞なんだろ? 見られてなんぼの職業だろ?」

 

『……そ、それはそうなのですが……。あまり見られると、恥ずかしいです……』


 そう俺に思念を送ってくる。


 俺は頭をガリゴリかいた。


 面倒な新聞だな。

 ただこいつの精度には、目を見張るものがある。


 この世界で起きたことは、ほぼ完ぺきに記事にできるのだ。

 もちろん実際に起きたことに限定されるのだが、すげーレアアイテムをゲットした。


『ア、アイテム言うな! わ、わたしは坂本加奈子です!』



 思念の声は震えていた。

 あ、そうだった。

 ごめん、加奈子さん。


 そうそう、この新聞の加奈子さん。

 見つけたのは、ほんの数日前。


 そして、あの手紙になった転生者の連れのようなんだ。

(忘れちゃった方は、閑話1-6 手紙を読んでね)




 *  *  *


 数日前の早朝。

 あの手紙がヴィスブリッジの郵便受けに忍び込んできやがったんだ。

 特徴のあるデフォルメされたキツネの封緘ふうかんシールですぐわかった。



 またか。

 おそらく、何か用があるのだろう?


 第一発見者が俺でよかった。


 またヒーローギルドがどーのーこーのと書かれていたら、誠司さんの心に火がついてぎゃーぎゃーたまらんので先に検閲しておくことにした。


 手紙を開くと

『助けてください。友達がさらわれました』

 

 お、おい。

 友達がさらわれたって尋常じゃねぇな。

 もうちょっと具体的に説明してくれ。


『巨大なモンスターにガブリと』



 まさか巨人か!?

 あの壁の向こうに潜んでいるとかいう?

 そしてとうとう壁を蹴り壊して……


 って、おい。


 それだけじゃ分からん。

 もっと具体的な情報はないのか?

 

『ボ、ボク、必死で逃げてきたから……。だから、モンスターの巣は分かるよ』


 お。それだ、それ。

 そこを教えてくれ。


 手紙には新たな文字が浮き上がってくる。



 エルラ地区〇〇××……



 それ、このオフィスの裏じゃん?



 手紙を手に取ってオフィスの裏まで行ってみると、なんと子犬が3匹くらい新聞紙の中で寒そうに縮こまっている。


 まだ朝でも冷えるからな。


 ちょっと大きめの犬が俺に向かって低い唸り声でにらみを利かせている。

 子犬たちのお母さんってところか。

 

 そっか。

 子供たちの布団が欲しかったのか。



『た、助けてください。牙攻撃によりHPがほとんど奪われてしまい……』



 女性の声だ。

 この声は、どこから!?


 俺はきょろきょろと視界を左右へと移動させて声の主を探そうとした。


『……こ、ここです』


 まさか!?



 俺は頭を抱えた。

 そういうことかよ。


「おい、犬。お前には代わりにもっといいものをやろう。だから新聞を返しなさい」


 俺はつけているマントを取ると、満面の笑みをつくり子犬の方へと近づいていった。


「ウーーー! ワンワンキャンキャンワンワンキャンキャン!!」


 うわ。

 うるせぇ。



「かわいい!」

「あ、聖華さん」


 俺たちの方へパタパタダッシュで走りよると、ちょこん。


「しげるさん、こんなところにわんちゃんがいたんですね」

「あ、そうなんです。布団が新聞紙ではかわいそうなので、俺のマントを」


 聖華さんはちょっと頬を膨らませて難しそうな顔をした。

「たぶんしげるさんの優しさが、ちゃんとわんちゃんに伝わっていないと思います」


 そういうと聖華さんは異空間から『わんちゃんのエサ』と書かれた袋を取り出してビリビリと開封すると、その餌っぽいのを手にとって中腰になりながら子犬の方へと近づいていった。


 指で干した肉をゆっくり揺らしている。

 子犬の視点はそれにつられてゆらゆら。



 おお。

 なかなかのもの。


 それにしてもあんた。

 なんで犬の餌なんて常備しているんだよ!?

 もしかして魔獣使い(ビーストテーマー)を目指しているの?

 敵モンスターを餌付ける気なのか?



 さすがだ!

 魔法使いといえば使い魔だもんな。

 いつ、優秀な使い魔候補のモンスターと出会えるか、分からん。

 だから……こうやって……



 なかなかのものですね。もしかしてもうすでに使い魔とかゲットしました?

 と、問いかけようとしたけど、うーん、、、、なんか違うような気がする。

 

 単にかわいい子犬を見かけたので餌をあげたかっただけのような。


 うん、たぶん、そうだ。

 


 だが効果は、てき面。

 


「くーん、くーん」

 と、子犬たちは聖華さんになついてきた。


 聖華さんは子犬の頭をなでながら、首に巻いてあったマフラーを外して子犬へそっとかけた。

 そして親犬の頭もなでた。


「あなたのお布団も後で持ってくるので、待っててね」


 あんた。

 そのマフラー。

 確か雷王山のダンジョンで見つけた魔力が大幅に増加して更にMP自動回復の加護付きの超レアアイテムじゃねぇか。

 それ、あげるの??

 ええの?

 躊躇もなく。

 俺の鑑定スキルだと、時価総額1500万円くらいはするよ?

 高級車が買えるよ。

 いや、この世界には自動車はないか。

 あんたらヒーローたちの大好きな高級馬車が御者付きで御購入できます。



 まぁええか。



 今は新聞だ。

 子犬が新聞から離れている今だ!



 俺は神の足を活かしすばやく新聞を手にした、その瞬間だった。



 ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


 なんだ!?

 この耐え難い激痛は!?


 覚えがあるぞ。

 確か、かなり昔、聖華さんからハンバーガーを受け取った時と同じだ。


 思わず勢いに任せて振り上げそうな手を根性で強引に抑え、異空間魔法アナザーゲイブを唱え、そのまま闇の中へそっと放り込んだ。


 あの時、ハンバーガーを吹っ飛ばして、ぺっちゃんこにしてしまったからな。

 気をつけんと、紙といえど、どうなるかわからん。


 とりあえずステータスウィンドを開いてHPを見た。

 カリナ戦でボーナスポイントを5000兆ぶっこんでいるから、俺のHPは大幅に膨れ上がっているのだが、やはり視界には想像通りの結果が広がっていた。


 0が多すぎて目が痛いのだが、290京5581兆あったHPは約29京削られていた。

 余裕で世界が滅ぶ。

 

 うーん。

 新聞を触っても、女判定されたらダメージなのか。

 神はこの新聞を丸めたもので、10回殴られたら死ぬ。



 神殺しの最強の剣:丸めた新聞紙



 マジでやべぇな、これ。

 もし俺が暗黒大魔王なら、この剣を勇者に与えてはならん。

 10ターンで沈められる。



 それは冗談にしても、ちょっとこの新聞、最終兵器になりうるので、どうするか本気で考えておかなければならんな。


 それよか。


 俺は聖華さんから少し離れ、異空間を召喚して頭を突っ込んだ。


「おい、新聞、大丈夫か??」


『あ、はい。ありがとうございます。でも体がボロボロでHPもほとんどなくて……。助けてください』


 そういや新聞紙、犬の歯でボロボロになってたっけ。

 新聞だよな。

 紙ってどうやったらHPを回復できるんだろ?


 とりあえず新聞の方へ手をかざして回復魔法ヒーリングを詠唱してみた。

 すると、みるみるうちに所々噛み千切られて泥だらけになっていた新聞紙が、刷りたてホヤホヤの艶のある新品の何かへと変わっていった。


『す、すごい。この世界に来て初めてこのような思いやりを受けました。ありがとうございます。あなたは命の恩人です』



 てなことがあった。



 *  *  *



 新聞へ転生した少女、坂本加奈子をゲットした。

 彼女を丸めて武器として装備したら、神殺しの剣になる恐ろしいアイテムだ。



『ア、アイテム言うな!』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アニメ最高でした、漫画も集め始めたので続きが読めて嬉しいです
アニメみて久しぶりに読み返そうと思ったら閑話出てた!? ありがたや ( 人 )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ