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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第三章 腐った化け物と消えた嘘
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52 いざ! 敵の総本山

 俺は高速移動で教団施設内を探索して欲しい情報をあらかたゲットすると、アキトを見つけ背後からスリープを詠唱。

 倒れかける彼を抱きかかえると、そのまま『飛空魔法ウィングウェイ』でヴィスブリッジへ急ぐ。目的地付近の上空まで辿り着くと、人けのない広場へと降り立ち、そのまま走って会社へと向かった。


 みんなと合流して、その後、どう手を打つべきか。

 とにかくやべぇことになったのだけは間違いねぇ。


 リーズをさらったのは『腐った化け物』と呼ばれるとんでもなくやべぇヤツだった。

 その名は、幾度か聞いたことがあった。


 最初はリーズの口から。

 確か自分が刺し違えた相手だとか。

 そんな物騒な話だったと記憶している。


 次に耳にしたのはカリナからだった。

 あいつが持っている神様探知機で見つけたみたいだったが、あの怖いもの知らずカリナですらビビっちまうくらいの相手だ。確かみっつ封じ込めた化け物だったな。

 まぁあいつらの呼び名が一致していただけで、それが同一人物かどうかまでは定かではない。だが何事においても最悪のケースを想定しておく必要はある。


 腐った化け物――できることなら関わりたくねぇタイプと俺の直感が言っていた。


 よりによってこの場面でどうして、と思っちまう。

 もうちょっと情報が欲しかった。

 特記事項の読めるリーズが万全な時に、と願っちまう自分が情けねぇ。

 

 とにかくだ。

 縮こまってグチグチ考えていても埒がねぇ。

 今できることを見つけ、それに集中するしかねぇんだ。



 * * *


 ヴィスブリッジの門の周りには誠司さんを始め、聖華さん、加藤君、甲斐さん、その他主要メンバーと数名のスタッフ達が集まって慌ただしく話し合っている。


 誠司さんはこちらに気付いて、走り寄ってきた。

「あ、しげるさん。早かったですね。話は聖華さんから聞きました。具体的な内容までは把握できてはいないのですが、彼女の様子から察して大変なことが起きているようですね」


 俺はひとつ頷く。


「はい。前代未聞の大ピンチといっても過言ないでしょう。敵にここを特定されました」


 お嬢様は真っ青な顔で頭を下げて、

「ご、ごめんなさい。私のせいで大変なことになってしまいました。わたし、いったいどうしたらいいのか……。聖なる壺を着払いなんかにするんじゃなかった……」


 あ。

 着払いで身バレの件ね。


 スタッフの数名がざわつきだした。

 今、信用とチームワークが崩れてはいけない。


 俺はすぐに、

「いえ、決して聖華さんのせいではありませんよ。聖なる壺を着払いにしなくても、いずれ情報はリークされていたと思います。たまたまこの事がきっかけになっただけにすぎません。何故なら敵は俺達のことに興味をもっていたからです。俺は聖華さんの行動は吉と捉えています。無料体験を口実に堂々とこちらから打って出られたのですから。日が経てば、こちらが気付かぬうちに敵に体制をとらせてしまうことになっていたでしょう」と弁護した。



 これは決して聖華さんをかばっての苦しい言い逃れではない。

 この度の行動で、ことを構える前に敵アジトから情報を入手できたのだから、この収穫はでかい。


 誠司さんも大きく頷き、話に続いた。

「確かにしげるさんのおっしゃる通りです。そして事は始まってしまったのです。僕達はすぐに動かなければなりません。ここが特定されたのですから、まずはヴィスブリッジ全メンバーの身の安全を確保することが最優先です。同時にリーズの救出、それが整い次第、敵陣への進撃……。このすべてを同時進行で行う必要があります」


 さすがリーダー。決断が速い。

 まさにその通りだ。

 俺が戻り次第、すぐに行動に移せるように皆を待機させて準備してくれていたのか。

 アナザーワープは体力と魔法力の消耗が著しいから少々躊躇してしまったが、それでも聖華さんを先に帰還させる選択は正解だったようだ。



 俺は誠司さんにメモ用紙を手渡す。

「これ、施設で見つけておきました。敵総大将のいる総本山アジトの住所です」


「さすがです。ありがとうございます。しげるさん、例の組織が絡んでいる可能性は?」


 それ俺も気になって、調査してみたんだ。

 俺達のことに興味を示していたら『オルドヌング・スピア』の可能性は高いと踏んでいたのだが、実際のところ、決め手となる手掛かりは見つからなかった。


「わかりません。偵察した限りでは『オルドヌング・スピア』の名前をかすりもしませんでした。ですが、短時間の調査しかできていません。しかも行った先はあくまでヴィスブリッジ支部。もうちょっと踏み込んで調べたら何か掴めるかもしれません」


「なるほど……。うかつに大勢で乗り込んでは危険ってことですね」


「はい。もし『オルドヌング・スピア』が絡んでいたら、敵は教団ひとつだけでなくなります」


「まず先方部隊で調査して、作戦を練る必要がありますね。あの組織が絡んでいるとなれば、かなり危険だ……。よし、僕が陣頭指揮を」


 甲斐さんが口を挟んだ。

「誠司会長。今、スタッフの多くは派遣先に出向しておりますが、呼び戻さなくても大丈夫でしょうか? リーズさんのようにさらわれてしまい、こちらの情報を吐かせようとしませんか?」


 カジノの一件で裏方をやってのけただけはあり、なかなか鋭いじゃねぇか。


「確かに……。一刻も早く呼び戻すべきです」

「自分で言っておきながら……、なのですが……」


 ?


 甲斐さんは渋い顔をして、

「一刻も早くスタッフを呼び戻すべきだと思います。それを前提としてお話しするのですが、強引に呼び戻して、果たして今後、クライントは取引してくださるでしょうか? これを決行するとなればそれなりの覚悟が必要になります」


 確かにそのとおりだ。

 だから甲斐さんの発言に少し戸惑いがあったのか。

 誠司さんもそれに気づいたみたいだ。ハッとした様子で、


「一刻も早く、調査を終わらせて帰ってきます。取引先の方には僕からちゃんと謝罪をしておきますから安心してください。とにかく甲斐さんはスタッフの身の安全の確保だけを優先して……」


 聖華さんは、

「わたしのせいで、みんなが危険な目に……。それにしてもリーズはどこに連れ去られたのでしょうか? やっぱり総本山? どこかに幽閉されている? いえ、巫女をさせられていたから、各支部を回っているのかな? こうなったら現探偵のわたしがリーズさんを探します」


「探偵でもない素人の単独行動は危険だ。リーズをさらった相手はかなり手強いという話だから、調査後、もちろん僕も同行するから」


「いえ、調査が終わるのを待っているなんてできません。なんとか挽回させてください」


「無計画で行動したらすべて駄目になります。とにかく今は僕を信じてください! 僕は絶対に裏切りません!」


 この流れはやべぇな。

 全部、自分でしょい込み始めた。

 俺も会話に割って入った。


「ちょっとよろしいですか?」


 誠司さんは「え、あ、はい」と俺に顔を向けた。


「誠司さんはここにいた方がいいと思います。一旦落ち着いて、コーヒーでも飲みながら待っていてください。総本山の調査は俺が、スタッフの身の安全の確保と取引先の謝罪は、甲斐さんや加藤君達に任せて、聖華さんはリーズの行方が分かり次第すぐに動けるよう、魔法力の回復に専念を……」


「いえ、調査は僕も行きます。いつもしげるさんだけに危険な役回りをさせるわけにいかない。ですが、謝罪も僕の方できっちりとします。もちろんなるべく急いだ方がいい。飛んで帰ってきてすぐにでも取引先に走ります。だから安心してください」


「悪いですが、誰が謝罪しても一緒です。おそらくヴィスブリッジは壊滅的な打撃を受けることになるでしょう」


 誠司さんの眉間にしわが集まる。


「……愚問です。例えすべての仕事がなくなろうと、また最初から始めればいいだけのことです」


「果たして始めからリスタートできるでしょうか? 大きくマイナスからの再建になると思いますよ。だってこれでヴィスブリッジの信用はガタ落ち。自社都合で人を呼び戻す信用ならない企業だというレッテルを張られてしまい、それは瞬く間に噂となり、業務の続行自体がもはや怪しくなると思います。それを甲斐さんも懸念して一瞬、躊躇されたのですね」


 甲斐さんは、渋い顔をしたまま小さく頷いた。


「……でも……、それでも僕は誰ひとり裏切りません! 共に進む仲間を僕は絶対に守ります」


「ですが同時にこれは取引先に対しての裏切り行為ではないでしょうか?」


「……このままでは、リーズやみんなが。とにかく急いで総本山を調査して、作戦を立てなければいきません。小さな問題はその後です」


「総本山をどのように調査しますか?」


「……とにかく、行って見てみないと分かりません」


「そうです。実際に行って見てみないと分からないと思います。そして片っ端から調べ上げる。まぁまぁの労力ですよ?」


「はい、覚悟の上です。なぜしげるさんは、ここまで僕に突っかかってくるのですか?」


「突っかかっているのではありません。何もかも一人で抱えて突っ走らないでくださいって言っているのです」


「?」


「別にこれで会社が飛んだからって、誰も誠司さんが裏切ったなんて思いませんよ。時間をかけて信用を取り戻せばいいだけのことじゃないですか。きっと誠司さんならできます。とにかくリーダーが先陣を切って敵陣の偵察部隊に参加したり、こんな緊急時に無数もある取引先ひとつひとつに頭を下げに行ってどうするんですか? さっき自分で言ったじゃないですか? スタッフの安全、リーズの安否、敵地の情報収集、それを同時に進めるって。だからこの目先、作戦が整うまではみなに指示を与えられるべき場所にいるべきではないでしょうか? それがリーダーの務めだと思います。だから偵察なら俺に任せて……」


 伶亜さんが口をはさんできた。

「ちょっと待ちな。あんただって辛うじてリーダー補佐的な立場なんやろ? あんたこそ一人で突っ込んでどうするんや?」


 なんだよ、辛うじてって、その雑魚的表現。


「あんたよりもっと適任者がいるんじゃないのかって言っているんや」


 誰だよ?


 伶亜さんが、自分に親指を向けて、

「うちや」そう言うと、誠司さんから『総本山』の住所が書かれたメモ用紙をヒョイと奪った。


「なんや? うちのサバイバルスキルをなめとんか? 今回は敵との接触はまったく不要なミッションやさかい、うちが最も得意とする分野や。気付かれないようにうまくことを運んでやるよ。それにあいつらには一矢報いたいしな」


 そういうと白い歯を見せてニカリと笑った。


「あなただけでは、色々とお困りになられるのではなくて?」


 あ、頑張らん女、登場。

 長い髪をなびかせて挑発的に話す態度に大抵みんなムッとするが、これはこいつの標準モードなのだからもぅどうしようもねぇ。付き合いが長い奴は優しい心で何も言わず見守ってくれているが、初対面に近い伶亜さんはリアの態度にムッとしているご様子。


「なんや? あんた」


「ちょっと魔法が得意な、あ、く、じょ♡」


「は?」


 伶亜さんの手にあるメモ用紙を覗き込み「エルドラッド南東の『魔炎の山』ふもとですか……。一度、人さらいを追って近くまでならその行ったことがあります」と目を細めて言った。


 一度行ったことがある場所なら、『瞬間移動魔法アナザーワープ』でひとっ飛びだ。

 まぁ、そこが結界等で守られていなければの話だが。

 さすがにあれほどの組織の総本山ともなればなんらかのバリアが施されていそうなもんだが、まぁ付近までワープしてそこから足での移動に切り替えるのなら問題ねぇか。


「時間がないって誠司さんが言っていたじゃない。ほら、わたくしにつかまりなさい」

 

 リアが半ば強引に伶亜さんの手を取る。


「なんや、離せ、このやろ」まで聞こえたところで、二人は姿を消した。


 デコボココンビの誕生か。

 なんだかんだ言って、二人とも信念は強ぇ。

 なんとなく頼りにはなりそうかな。

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