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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第三章 腐った化け物と消えた嘘
70/78

50 絶対神教の調査5

お世話になります。

弘松です。

50話がかなり唐突過ぎたので修正をしました。

大変申し訳ありません、

概ね展開は同じです。

引き続き何卒よろしくお願いいたしますm(__)m

 あのススまみれな少年は、アキトと名乗った。

 安藤は軽い挨拶と談話を済ませると、アキトを指差した。


「アキト君、ではこの方達のご案内をお願いしますね」


 そしてアキトにささっと近づき、耳元で小さく囁く。

 超聴覚の俺の前でされても、ヒソヒソ話にはならんのだが。

 耳くそほじっていても、よく聞こえるぜ。


「いいな、アキト。分かっているとは思うが、入信させたらホーリーポイントがたくさん獲得できる。一人入信で100pt。二人ダブルゲットなら、お得な300ptだ。出家までこぎつけたら、更に10倍ボーナスだ。圧倒的に幸せになれるぞ」


「えつ! やった。頑張る!!」


 へー。

 なんか、たのしそー(棒読み)


「すいません。わたしはこの後、巡回の職務が控えておりますので、これにて失礼いたします」

 そう言いうと、安藤はハットを取って深く一礼し、施設内へ姿を消した。



 俺達はアキトに連れられて施設内の簡単な案内を受けながら、道場とやらを目指している。

 ――と、同時に、安藤の後を瞬間移動で追いながら、例のいったりきたりで情報収集に努めている。


 必殺★いったりきたり。

 実はかなり練習したんぜ?

 雨の日も風の日もアルディーンが現れる日も。

 よし、今こそその成果を確認してみるか。


「アキト君。俺、ちゃんと見えてる?」


「え? おじちゃん、なんのこと? さっきと一緒だよ?」


「なんか、ぶれたり半透明になっていない?」


「え??? 普通だよ?」


 よし、完璧!!

 ぶれてない!


「どうして急にそんなこと、聞いたの?」


 マジぃ。


「あ、俺、霊感強いみたいで、こういうところに来ると、変な霊に憑依されたり心霊現象みたいなのに巻き込まれたりするから、ちょっと不安で聞いたみただけだよ。あは、あははは」と、頭をガリゴリかいて適当にごまかす。



 聖華さんは「しげるさん、大変! お祈りあげないと。ナムナム」と、俺に手を合わす。


 あのー。

 嘘ですから。


 どうしてアキトがこの宗教に入信したのかを尋ねると、幸せになるためと答えてくれた。

 彼もまた特記事項で失敗した口で『もう不幸でもいいや。どうにでもなれっ!』と書いたみたいなのだ。


 そんなこと特記事項に書くと、まぁ、そりゃ不幸になるわな。

 色々あったのは分かる。世知辛い世の中だもんな。

 だども、何もこんな不幸連鎖システム爆進稼働中の暗黒集団に入らんでも……。


「でもここは楽しいよ。こんな僕にもみんな親切にしてくれるんです。信者の仲間たち、司教様、先輩、友達、先生、みんな親切なんです!」


「へー。具体的にどんなところが?」


「あ、え、あのー、そうです! ちょっとした時に会話とか楽しくて! そうです。みんな面白いんです。ここに入ったら毎日が楽しいですよ」


 楽しいとか面白いとか抽象的な言い回ししかできねぇってことは、具体的な例はないのか。

 

 それにしても、楽しいのか、ここ?

 ポイントノルマの無限地獄なのにか?

 一人釣ったら100pt、ダブルゲットで300pt、出家10倍ボーナスだもんな。

 そのポイントで何が貰えるか知らんけど、セールス、頑張れよ。


 長年営業職で食ってきた俺にはよく分かるぞ。

 君は自社商品に自信がない営業マンだ。

 

 先輩営業マンとして忠告しておく。自信のないものは売るな、自分を売れ。と、余計なお世話を内心で言っておく。


 必死に会話を盛り上げようとしているアキトだが、彼はどこかよそよそしく、なにか悲しそうな目をしているように見える。


 ……そっか。

 この子、抜け出せないんだろうな。

 そういうシステムが構築されているに違いねぇ。


 アキトの案内は続く。


「ここはお手洗いです」


 はいはい。


「ここは図書室です。聖書がいっぱいあります。この宗教のすばらしい教えがたくさん書かれています」


 目が腐りそう。


「ここは食堂です。食事はとってもヘルシーでおいしいですよ!」


 だったら、なんでそんなに痩せこけているんだ?

 俺は聞いてみた。

 

「もしかして飯食うのに、ホーリーポイントがいるのか?」


「……あ、はい……。梅干しが1ポイント。おにぎりは2ポイント。パンも2ポイント。パンの方がおにぎりより大きいから、僕はパンを強く勧めるよ。お茶も2ポイントするから、雨の日に雨水とか溜めておいた方がいいよ。これ僕だけが見つけた裏技ね。誰にも言っちゃだめだよ。入信したら早く空き缶ゲットしておいた方がいいよ!」


 なんかエグイな。

 どっかの地下収容所じゃあるまいし。

 飯だけでそんだけいるんだったら、100ptゲットしてもすぐ溶けてしまいそうだ。

 こんな暴露話聞いたら、誰だって入信を考えるのをやめそうなものなのに、なんでこの子はそれが分からないんだろう。


「まずは、ホーリーポイントを2000獲得を目指したらいいよ。そうしたら上級信者になれて、みんなからは尊敬されるし、聖なるお勤めもできるようになるし、なにより食事が半分のポイントで買えるのも嬉しい。あ、切上だから1ポイントのものは、それ以上安くならないよ」


「アキト君はいくら貯めたの?」

「頑張って食事とか切り詰めてお風呂もなるべく入らないようにしているんだけど、まだ24ptなんだ。なかなか壺やお札が売れなくて。あ、でも、お姉ちゃんが買ってくれたから、マイナスからプラスになれたよ!」


 風呂もポイントがいるのか。

 出家したら大変だな。


「プラスになったら、何かいいことあるの?」

「すごく幸せになれるよ。罰とかもちろん、追い込みもほとんどなくなるよ」


 おいおい。

 どこのブラック企業じゃ?


 俺達は長い長い廊下を歩いている。

 少し俯いて苦笑いを浮かべているアキトの背中を見つめると、この長い通路はまるで出口のない彼の人生のように思えた。


 聖華さんが歩きながらアキトの方へ顔を向ける。


「アキト君、あなたは本当に幸せ?」

「う……、うん、もちろん! どうしてそんなことを聞くの?」


 明らかに動揺している仕草だ。


「アキト君、初めてみた時、なんかとても必死だった。必死に幸せという言葉を呪文のように繰り返して使っていた。まるでね、幸せって名前のお化けに憑りつかれているみたいだった」


「え……」


「私、思うんだけどね」

「……」


「幸せって追いかければ追いかける程、逃げちゃう気がするんです。手を伸ばして掴もうとしても、するって手の中から消えちゃうんです。そうやって、幸せになりたい、幸せになりたいって思いつけること自体が、しんどいというか、つらいというか、自分を苦しめるというか。私もちっちゃい頃、いろんなことがあって、幸せになりたいって毎日お願いしたけど、あはは、どうだったかな……」


「あの……」

「元気になるおまじない、あげるね」


 聖華さんは、メモ用紙を取り出し何やら書いて、「何か困ったら、これを見てね」と言いアキトの胸のポケットにしまった。


 超視覚のある俺にはその内容が見えてしまった。


『あなたを笑顔にしてみせます。期待は絶対に裏切りません。

                          幸せの旅人さんへ。

                          太陽の聖女より』


 それは俺がその昔、彼女に送った言葉だった。



 アキトはポケットから手紙を取り出してすぐに視線を落とした。

「……お、お、お姉ちゃんが、司教様だったら……よかったのに……」




 アキトは泣き崩れた。




 聖華さんは無茶苦茶成長していた。

 おそらくアキトに最初に会った時に、すでに聖華さんは彼に置かれている境遇を感じ取っていたのだろう。


 そして助けてあげたいって思っちまった。

 そうなんだよな? 聖華さん。


 そしてアキトも彼なりに、何か感じ取ってSOSを送ってくれた。

 だからここをPRするような素振りを見せながら、内情を伝えようとしていたのだろう。

 そういや加藤君の時もこんなことがあったっけ。


 俺は彼の身を案じ、一言付け加えておいた。

「アキト君。まぁこれ以上、無理にしゃべらなくてもいいよ。それよりも早く道場に案内してくれないか」


「……あ、で、でも……」

「どうしたんだい?」


「僕はもう逆らうことはできない。だってこの絶対神教は……」

 咄嗟に俺は、アキトの口を抑えた。

 安藤の後を追って、おおよそのことは掴んでいたからだ。

 まぁ、想像以上にクソだったのは、分かったが。


「それ以上言わなくていい。ありがとう、君の勇気に感謝する」


 悟ってくれたのか、真っ赤に目を腫らしたアキトは静かに頷いてくれた。



 * * *


 俺はこんな会話を繰り返しながら、さっきからずっと瞬間移動で安藤の後を追っていたんだ。


 安藤は人けのない渡り廊下を歩きながら、なにやらブツブツ言っていた。


「あぁ、あなたがそんなにおっしゃるので、きっちりサーチしてきましたよ」


 ひとりごとか?


「おそらくあなたの思い過ごしでしょう?」


 どうも誰かと話しているようだ。

 だが安藤の声はしっかり聞き取れるというのに、相手の声はまったく聞こえねぇ。


 あの聖なる竜がやっていた念波のたぐいか?

 直接俺の脳に語り掛けるもんだから、俺だけ独り言モードのヤバい人状態のあれか。



「はい、確かにヴィスブリッジの職員です。キャッシュでいきなり3万リラも払えるなんてただ者ではないと思い、キチンと裏を取っております。聖華はそこで受付嬢をしております。ヴィスブリッジですか? そこは最近できた人材派遣の会社で、特記事項で失敗した者たちを騙して囲い、強制労働させてウハウハ状態のクソゴミ会社です」


 あんたに言われたかねーよ。


「目の付け所は良いと思うんです。我らの同士たちもその手があったかっていう者が続出しましたから。業務提携を持ち掛ける案も浮上したのですが、聖職者である我々の理念に反しておりますのでわたしはコネクトするべきじゃないかと、あ、はい、はい」


 あんたらと業務提携なんてしないからね。

 誠司さんがぶち切れて、アルディーンになっちゃうじゃん。


「あ、はい、はい、ええ。ですから、サーチによると聖華は梶田をやった勇者アルディーンとは関係ないようです。護衛のブ男も違います」


 ブ男言うな。


 に、しても勇者アルディーンの名前がでてきたか。

 ということは、やはり探りを入れていたのか。


「え、あ、はい、はい。なんですか? わたしのサーチを疑うのですか? もうご存知だから再度お伝えしますが、わたしの特記事項は『わたしを陥れようとするものは、怒りで我を忘れ暴走して狂う』です。勇者アルディーン関係者なら、おそらくここに狙いをつけて探りを入れるために侵入してきたと考えるのが妥当です。だからもしアルディーンの使者なら『わたしを陥れようとするもの』となり、暴走して狂うはずです。このように穏やかな会話ができるはずもないもないでしょう」


 なるほど。

 これにやられて我を忘れた伶亜さんは、リスクを顧みず問答無用で奴を斬りつけたのか。



 それにしてもなんか微妙な特記事項だな。

 恨みをもっている奴に、いきなり斬りつけられるぞ、こいつ。

 まぁ、元いた世界なら、怒りに身を任せて殴った方が負けだから、そういう生き方をしてきたのか、それで人生を詰んだのか、そんなところか。


 まぁ、闇の組織なら人柱には使えるか。

 反逆心をもったやつの、サーチエンジンとして。

 組織内でこいつをうろうろさせたら、反逆者はすぐに切りかかってくるから、そいつがビンゴ。よく反応する便利な巡回マシーンってわけか。

 

 そういや俺は別になんともないぞ。

 こんなクソ野郎、許せないのに、怒りに身を任せて渾身のファイナルディスティネーション改2をぶっ放したいって衝動に駆られなかったぞ。リクエストされたらするかもってくらいだ。


 安藤の念話は続いている。


「……え、あ、はい、はい。まだわたしを疑うのですか? まぁいいですよ。巫女までこちらによこしているみたいなので、もう彼女を頼られたらいいじゃないですか? 巫女が予言されたのですよね? 彼らが今日来るって。あ、はいはい、巫女を頼ってくださいよ。わたしはひたすら巡回を繰り返しますから。あ、今日は8人の信者がわたしのサーチにかかりましたので、とりあえず消しときましたねー。2発パンチを、3発キックを貰いまして、痛かったのですぐに消滅させましたー。あー、嫌だ嫌だ。え、やけくそになっていませんよ。わたしには『もはや神のみを信じる』というのがありますから、どうやってもあなたを裏切れないのですよ」


 神、だと!?

 まぁ、俺も神だから、安藤は同時に『逆らえん』が発動して前者の特記事項を相殺してくれたのか。お嬢様は安藤に対して、敵意などなかった。単にアキトが心配だったから。

 うまく潜り抜けられたものだぜ。


「あ、はい、はい、そうですね。もしアルディーンの仲間だったらどうしよう、いきなり斬りつけられるのではとヒヤヒヤしていましたが、今回もなんとか生き延びられました。あ、腕、くっつけてくださってありがとうございます」



 なんか、哀れだな。

 悪党に同情なんかしねぇが、とにかく最期の日まで頑張れ、中間管理職ボルボ安藤。



 俺達は道場の前までやってきた。

 アキトは震えている。


 彼がなんかよそよそしいのも、巡回サーチを恐れてか。反抗心を抱くと、巡回マシーンに容赦なく消されちまうからなぁ……。そこを付け込んで骨の髄までしゃぶろうとするなんざ、これまたどうしようないゲスの集団か。アルディーンでなくともブチ切れるってぇの。


 俺はアキトの震える肩をポンと叩いた。

「アキト君、終わるまで何も心配しなくていいからな」


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[一言] 少年アキト、キャラ立ちそうですね
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