49 絶対神教の調査4
お嬢様と俺は道場へと向かった。
カジノの時同様、俺は聖華さんの護衛設定。
みんなと別れ際、伶亜さんは「うちも行きたいけど……今回のミッションは足手まといだな。身バレしているし」と漏らした。
「大丈夫です。情報収集だけですし、ここは俺達に任せてください」
俺達の身バレの可能性も考えたが、ぱっとやってきた体験者を相手する下っ端にまでちゃんと情報がいきわたっていないだろうし、仮にバレたらバレたで、武力で脅してさっさと情報を聞き出しちえばいいだけのこと。くくく。
え? 俺もダークサイド?
やめてよー、スマートかつ合理的って言ってくださいよ。
そして道場入口。
なんか教会みてぇにベルや十字架はあるのに、屋根は瓦か。
えらい中途半端な和洋風な屋敷だな。
看板には筆文字で『デパルト支部道場』と力強く書かれてある。
入口で出迎えてくれたのは、話に聞いていたススまみれの痩せた少年。
「あ、来てくれたんだ! ありがとう、お姉ちゃん!」
そう言って満面の笑みでこちらに駆け寄ってきた。
聖華さんは、
「こちらの方は私のボディーガードなのですが、ご一緒しても大丈夫ですか?」と訊ねる。
「うーん、大丈夫と思うけど、一応、司教様に聞いてくるね」
しばらく待つと、少年と一緒に聖なる経典と書かれた分厚い本を持ったシルバーオールバックの男がやってきた。
「ようこそおいでくささいました。私はボルボ安藤良和と申します。あ、ボルボというのは、私のホーリーネームです」
こいつが伶亜さんの言っていた、村を無茶苦茶にした外道か。
体格はなかなかの筋肉質。黒縁眼鏡に四角い顔。黒いハットと白い衣は、なんともミスマッチな組み合わせに思えた。まぁ、こいつのおしゃれセンスなんてどうでもいいか。俺も人のことを言えた立場ではないし。
ボルボ安藤良和。
名前からして、転生者の可能性がある。
特記事項が気になる。
トラップワードがあるかもしれねぇ。
発する言葉には要注意だな。
「え。あの、私の右腕ばかり見ているようですが、何か?」
やべぇ。
こいつ察しが良すぎる。
伶亜さんが叩き落とした腕が再生している。
もしかして特記事項の恩恵じゃねぇかと観察しまくっていた。
適当にごまかさないと侵入した意味がなくなっちまう。
「あ、いえ。立派な筋肉だなと」
「僧侶たるもの肉体の鍛錬を怠る訳にはいきません。いつ何時も、信者達を悪から守るという重大な役割がありますからね。それはそうと、そういうあなたもなかなかご立派な体格ですよ」
「ま、俺も、一応護衛職ですから」と、ごまかす。
「そうでしたね。どうぞ聖華様とご一緒に、一日体験をお楽しみください」
え? 名前、知られている?
そういや確か、壺、着払いで送って貰ったんだっけ。
やべぇな。いちいち個人情報なんて上が把握なんてしねぇと踏んでいたが。仕方ねぇ。探りを入れてみるか。
「あの……、主の名前をご存知のようでしたが、どこかでお会いしましたか?」
少年がニコニコしながら、
「ここの幸せになれる教えにホーリーリストってのがあって、入信しそうな人、壺やお札を買いそうな人、機関紙をとってくれそうな人の名前や住所を書いて提出するんだよ。そうしたら、ホーリーポイントが書いた人、書かれた人、それぞれ5ptもらえるんだ。だから僕はお姉ちゃんの為に着払いの書類に書いてくれた時にしっかりと文字を記憶して、提出してあげたよ! 良かったね。いきなり5ptからスタートだよ」
はい、いらないお世話。
そんでもって、ポイント制かよ。
安藤司教は、
「まさかかの有名なヴィスブリッジの職員様が、わざわざ体験に来られるなんて、我々も気合が入ります」
めちゃくちゃバレてるじゃん。
えーの?
そんな俺達を招き入れても。
あんたらの仲間の梶田ん家を改装して商売してんすよ?
なのに、なにさ、この白々しい対応。
絶対になんかあるに違ぇねぇ。
安藤は、
「なにも心配する必要はございません。我ら絶対神教は、信じる者に対しては寛容なのです。ささ、どうぞ、修行の間へ。巫女もお待ちです」
巫女……
なんでそんなのが、一見の俺達を待っているってんだ?
つーことは、もしかしてこっちから乗り込んだつもりが、逆に先手を取れているのか?
なんか嫌な予感がしてきたぜ。