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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第三章 腐った化け物と消えた嘘
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46 絶対神教の調査1

 謎の宗教組織--絶対神教オルドヌング・レイス。

 その仰々しいネーミングに、もはや嫌な予感しかしねぇんだけど。

 

「伶亜さん、なんだかすごく疲れているみたいですね。どこかゆっくりできるところはないでしょうか?」と聖華さんは心配そうに言った。


「人目が着くところはちょっと……」


「では僕のオフィスとかはどうでしょうか? 関係者以外、立ち入り禁止ですから」


「いや、しかし、そこまでは……」


 彼女は相当人目を気にしているようだな。

 一度は訪問したくらいだから、そこまでは大丈夫かと思い誠司さんも提案したのだろうけど、彼女は頑なに首を横に振る。



 でも、まぁ、その気になればなんとでもなる。

 

「あ、俺、探偵御用達の変装グッズを持っていますよ」


 俺は高速移動で、あっちへ行き、異次元魔法アナザーゲイブに手を突っ込み、こんな時に使うだろうと隠し持っていたブツを取り出して、元居た場所に何事もなかったように戻る。


「はい、どうぞ!」


 それは宴会の余興などに使う鼻のついた牛乳瓶の底眼鏡と、ベレー帽と怪しげなマント。


「これをつけろと?」とこちらを睨むが、俺は平然と「はい、完璧に正体を隠せます」と突っぱねた。


「逆に怪しまれるだろ!?」と言いながらも嫌々身に着けてくれた。



*  *  *



 ヴィスブリッジのオフィスの一室。

 会議テーブルを囲んで、皆は話し合っている。

 メンバーは、誠司さん、聖華さん、伶亜さんと俺。

 わりと物騒な話だったので、まずはこの最小メンツで話を固める予定だ。



 俺はコーヒーに口をつけた。

 はぁ、おちつく。



 組織の学園、実効支配された村の解放、竜の封印、そして今度は迷子のリーズの探索に邪悪な教団のおでましか。


 俺はチラリと誠司さんをみた。

 全然疲れている様子はない。むしろ足掛かりをつかめたことでテンションが上がっているみたいだ。やや前傾姿勢で話にのめり込んでいる。なかなかのヒーロー魂なことで。



 あ、そうそう。

 どうも伶亜さんの話によると、この世界の裏には現在躍進中の超巨大宗教組織があるらしい。そのことをブルータンクのこととかファイティーン★ファイブのことを言及することなく、すんなりと打ち明けてくれた。


 総本山の場所は特定できていないが、その組織はわりと広域にその裾の尾を広げているようで、大きな都市なら大抵、その支部があるみてぇなのだ。

 

 奴らは霊感商法を駆使しながら、ありがたい壺やら札やらを高額で販売して、儲けたお金を総本山に送金しているとのこと。


 どの世界も同じ事やっているんだな。



 誠司さんは、

「でもどうして伶亜さんは、そんな危ない教団と戦っているんですか?」


「最初に話したけど、とても戦っているってレベルじゃないんだ……、とにかく奴らは、ろくでもない集団で……」


 伶亜さんは少しの間うつむいていたが、ゆっくりと話し出した。

 それは何ともいえないくらい苦痛を秘めた表情だった。


 話は数か月前までさかのぼる。

 伶亜さんは俺達と別れて以降、ひとりで旅をしていた。

 過去に複雑な事情があることはよく知っている。

 それもあってか可能な限り町や村にも立ち寄らず、なんとか工面していた。

 人里離れた川で今晩のおかずを釣っていた時に、老夫婦の気配を感じた。

 

 彼女は目が見えないが、歩き方と声でそう感じたそうだ。

 

 咄嗟に隠れようとしたみたいなのだが、今、釣れそうな獲物はなかなかの大物。

 逃がすのも惜しいし、まぁ相手は老人。殺気だった気配も感じない。張り詰めた竿を思い切り引き寄せ、一刻も早く獲物をゲットし、さっさと立ち去ろう、そのようなことを考えていた。

 川から姿を見せたのは、全長1メートル以上はある異世界魚。(一応モンスターだけど、食べられるやつね)

 

「おお。これは大物じゃ! もしかしてここの主かや!?」

 老人の声に、伶亜さんは身をひるがえした。


「ほっほっほ。怪しい者ではない。この先に住んでいるただのじじぃとばばぁじゃ。お嬢さんは旅の者かや」


「まぁ、そのようなものです」


「随分と長旅をされたようじゃな。装備も随分とくたびれておる。もう遅いし、よかったらうちで休んでいったらどうじゃ?」


 その言葉に最初は疑っていた伶亜さんだったが、そもそも自分を追いはぎしたところで大した武器もアイテムも所持していないことは一目瞭然だろうに。

 まぁ、今晩のおかずはゲットしたから、まともな財産はこの魚くらいか。


「さてはこの魚が狙いか?」


「よくぞ見破った!」そうおじいさんが言うと、おばあさんは腹をかかえて笑った。


 おじいさんもつられて大笑いをしている。


 すぐに分かった。

 絶対に違うって。

 老夫婦の狙いは魚なんかじゃない。

 嫌らしい空気を微塵も感じない。本当にただの親切心なのだろう。

 聞いた自分が恥ずかしい。


 それにしても、咄嗟にこんな面白い返しができるなんて。

 伶亜さんも思わずぷっと噴き出した。


 人と話すなんて何か月ぶりだろう。

 伶亜さんの顔から、自然と笑みが溢れ出た。


「お礼と言ってはなんだが、良かったら旅の話でも聞かせてくだされ」

「ええ、喜んで」


 伶亜さんは大魚を背負うと、老夫婦と並んで彼らの自宅へと歩を進めた。

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