41 聖なる呪文と竜の試練!? 後編その2
勇者戦隊★ファイティーンファイブ、見参!
「勇者レッド!」
「聖女ピンク!」
アルディーンとエルカローネが、なんかこっちを見ている。
え? 俺?
「……ブルー……タンク……ッス」
「最終試練を目前にして、よくぞ集まってくれた! 勇者戦隊の諸君、そして冒険者のリーズ君」
やめたげて! リーズはきっと、どんびきしてるよ。
ほら、誠司さんや聖華さんがどこへ行ったのか、突っ込みすらしない。
俺?
ブルータンクとかいうのに変身しているから、突っ込めないっす。
もうこんな茶番劇、とっとと終わらせて、早く寝ましょうよ。
「さぁ、みんな、行くぞ!」
と、誠司さんは最終試練への扉に手を掛けて中へと入っていった。
俺達の視界に広がったのは、ドでかい空間。
洞窟の中とはとても思えねぇ。
そしてその中央にドラゴンが体を丸めて眠っている。
『……よくぞ、ここまでやってきた。では最後の試練を与えよう……』
こいつが、偉大なる竜か?
「偉大なる竜にひとつ断っておくことがあります」
『……なんだ?』
「本来ならこの試練は誠司という青年が受けるべきでありましたが、彼は最終試練を目前にして突如腹痛に襲われた為、代わりにこの試練の勇者・アルディーンと」
「この太陽の聖女エルカローネと」
こっち見んな。
くそったれ、この流れ、俺もなんか言わんといけんのかよ。
「……この鉄壁の巨兵、ブルータンクが受けてやるぜ!」
つーか、バレバレじゃないのか?
声、一緒だし。
『……何を言っているのかさっぱり分からぬが、まぁ、良い。99の試練を乗り越えてここまでやってきのだ。その誠意は認めようぞ……』
「ありがとございます! では最後の試練を」
『……そなたらが持ってきた『竜の涙』を元あったところへ戻し、我が心を満たす呪文を唱えよ。それをもって試練の完了とみなす』
「……え、ボス的な強敵とかいるのではなかったのですか?」
『……そなたらはピッツ村の村長に依頼されたのであろう。残りの試練は、長老から預かった呪文を読むだけだ。ここまでの試練を、よくぞ乗り越えた。おめでとう。あと少しでミッションコンプリートだ』
え、なんか、やさしいな。
だけど誠司さ……ではなくて、アルディーンはお困りのご様子。
それもそうか。
呪文を読めるのは、アルディーンじゃなくて誠司さんって設定だったもんな。
もう本当に面倒なお人だ。
『どうした? さぁ、早く呪文を唱えよ』
「えーと……ですね……」
『……何故、唱えようとせぬ? さては貴様ら、ピッツ村の村長に依頼されたというのはデタラメであったのか?』
「い、いえ……」
『ならできるだろう? ここまでは何もためらうことなく前進しておったのに、ここにきてなぜ今更急に躊躇しておるのだ?』
「あ、あのですね……」
『……もしや……、貴様らの目的はなんだ? もし貴様らが嘘まやかしを吐きとおす外道の類であったなら、容赦はせぬぞ』
やばいぞ、アルディーン。
俺はアルディーンに話しかけた。
「ここは俺がなんとか時間を稼ぎます。早く呪文を唱えることができる誠司さんという人を見つけて呼んできてください」
「あ、ありがとう! ガチタンク」
アルディーンは踵を返した。
『……逃げる気か?』
俺は「偉大なる竜さん。ちょっとだけ待っててください。呪文の書かれた巻物を持った人は、今腹痛でして、あっちで休んでいるんです。これからあの赤い人が呼んできますんで!」と言うけど、『……なにを異なことを申す! そやつはそこにいるであろう。何をたくらんでおるのだ?』と突っ返してくる。
まぁそうなんだけどさ、あの人はこの人であっているだけどね、こっちにもいろいろ事情ってのがあってね。
早くどっかに隠れて変身を解いて、適当な言い訳をしながら帰ってくるんだ、試練の勇者アルディーン。
つーか、もうめんどくせぇな。こうなったらこの竜、経験値にして食っちまうか……
『……もしや、おぬし、我を狩ろうとしておらぬか……』
ピンポーン。
じゃなくて、ドキッ。
「と、とんでもございません! 俺なんかが偉大なる竜であるあなた様に勝てる訳がないでしょうが!」
『……貴様、力を隠しておるな? 感じるぞ……。我と等しく神的な何かを……』
ピンポーン。
じゃなくて、ドキッ。
「勇者アルディーン様は嘘なんて言いませんわ。待っている間、しりとりをしましょう!」と、ビビりながら聖女エルカローネは言った。
『……しりとり……だと?』
「しりとりは初めてですか? えーと、私が『しりとり』って言いますので、次は竜さんが『り』から始まる単語を言うゲームです。最後に『ん』がつく言葉を言ったら負けってゲームです。面白いですよ! あはっ、あはははっ……」
エルカローネ、結構、ビビっているな。
まぁ、竜の圧、すげーからね。
『……試練に試練で返すか、面白い!! その挑戦、受けて立とうぞ……』
「しりとり!」
『……り……立身出世』
さすが、自称、偉大。
難しい言葉、知っているな。
「イチゴ!」
「五臓六腑」
「プ……プリン! あぁ!!!」
お嬢様、弱ぇ!!
『……ククク……アハハハハ!! 我が勝利のようだな。敗者にはどのような罰があるのだ?』
「え? ま、まだ負けていないですよ? 勝った方が負けた方にあっち向いてホイをするんですよ!」
『……なんだ? それは』
「あっち向いて、ホイって言って指差すんです。つられてそっちを向いたら負けってゲームです」
お嬢様、強引過ぎ。
『……なるほど。おもしろい!』
おもしろいのか?
『……だが我が肉体は眠っておる。今、意識しかないのだぞ。この状態でどうやってその試練を受ければ良いというのだ?』
「声とかで?」
『……なるほど、では行くぞ。あっち向いて、右』
あ、お嬢様、右向いている。
お嬢様、クソ弱ぇ!!
『……ククク……、アハハハハ、我の完全勝利のようだな! 敗者にはどのような罰があるのだ?』
「……え、えーと、負けた子は、歌を唄わなければなりません。では、はーい、エルカローネ、唄います! 勇者戦隊★ファイティーンファイブの主題歌(仮)を熱唱します! さ、竜さんも手拍子で、ハイッ、ハイッ」
お嬢様、なんか変なスイッチが入ったぞ。
『……お、おう……』
マジか、竜!?
もうやめて! 誠司さん、早く戻ってきて!!
俺の願いが天に通じたのか、誠司さんが「はぁ、はぁ」と息を切らしながら、変身を解きーの、そんでもってちゃんと元の装備に戻しーのして走ってきた。
「お待たせしました。偉大なる竜よ」
『……いや、ちゃんと戻ってきたしそれはいいが、貴様が聖なる呪文を詠唱したら、我は完全に眠ってしまうのだぞ……』
「あ、はい、それがあなたのお望みなんでしょ?」
『……まぁ、そうなのだが……。あの……歌とやらはどうなるのだ?』
知らねーよ。
俺は「偉大なる竜さん、もしかして聞きたかったの?」と問うてみると、『……ま、まぁ、折角試練に勝ったことだし、まぁ、少しくらいは聞いてあげてもいいかなって……』
ツンデレかよ、お前は!
もう歌とかどーでいいからさ、とっとと永眠させちゃってよ、この変な竜。