39 聖なる呪文と竜の試練!? 中編
偉大なる竜が課した100の試練。
それは、同じところを行ったり来たりグルグル回る迷路だったり、突如天井や床が崩れだすトラップだったり、モンスターが襲ってきたり、まぁバリエーション豊富なアトラクション。
時折、間食をパリポリつまみながら、なんだかんだで9合目までやってきた。
残すところ、あと10個。
誠司さん聖華さんが、試練をガンガン攻略してくれるから、俺はただついていくだけでOKな感じだった。
懐中時計に視線を落とした。
かれこれ17時間は、ほぼぶっ通しで進んでいるのに、わりとみんな元気だ。
それもそのはず。
お嬢様は、
「次はどんなご褒美がもらえるんでしょう?」とニコニコしながら、さっき手に入れたガラクタ――もとい、木の矢5本を嬉しそうに眺めている。
試練を終えると宝箱が現れる。
たまに良いアイテムが現れるが、ほぼガラクタ。
薬草とかどくげしとか、こん棒とか木の矢とか。
もしかしたら回復アイテムや武器の補充できるようにゲームバランスを考えてくれた親切な設定にしてあるんかもしれねぇが、俺達にはアイテム補充する必要なんてねぇ。
「聖華さん、何度も言いましたが、不要なアイテムは破棄してください。あまりたくさん持つと行動に付加がかかるだけではなく、体力の消耗にもつながります」
と、最初の頃、誠司さんに言われてしゅんとしていた聖華さんだったが、俺が「ほら、聖華さんには無限アイテムボックスがあるじゃないか?」と耳打ちしたら思い出したのか、にっこり笑って『異空間魔法アナザーゲイブ』を発動させ、自慢げにガラクタ……いや、アイテムをゲットしては、異空間にぽいぽい放り投げ、次のミッションでもまた自慢げにガラクタ……いや、アイテムをゲットしては、異空間にぽいぽい……
そしてにっこり誠司さんの方を見て、自慢げな笑みを浮かべて親指を立ててみせた。
毎度ガラクタをゲットする度に、上位時空魔法を詠唱するなんて、MPの無駄撃ちにしか思えんが、さすがの誠司さんも都度自慢げにこっち見るから、そのことについては何も言わなくなった。
まぁ、二人は元気だ。
おしゃべりとかしながら、『試練91』という文字が刻まれている扉をおもむろに開き、「さぁ、次はどんな試練だ!?」と叫んで元気に突入していく。
ヘトヘトなのは俺くれぇか。
ただみんなに着いて行っているだけなのにね。
あ、大ムカデの軍団を殲滅し、またひとつ試練をクリアした。
誠司さんは、
「さすがに今回のは手強かったな。こういう時に勇者アルディーンがいてくれれば……」
「そうですね。こんな時に、聖女エルカローネがいてくれたら……」
おるが!
あんたら、何がしたいん?
そう、俺を苦しめているのは、竜の試練ではなくて、もうひとつの別の試練なのかもしれない。
ちなみに今までアルディーンが3回、エルカローネが2回登場した。
20毎のキリ番の試練では、中ボス的な強いモンスターが用意されているみたいで、そのパターンを誠司さんは2回目で気付き、聖華さんは3回目で気付いたみたいなんだ。
試練91突破、92突破、93,94、95……
俺は不安で仕方なかった。
試練100の時、絶対にあいつら変身するよ。
試練98を目前とした、その時だった。
誠司さんが俺に耳打ちしてきた。
「ちょっといいですか?」
「あ、はい」
「しげるさんも気付いているかもしれないけど、試練は20毎に強敵が現れるようなんだ」
「あ、はい。そうみたいですね」
「気付いていたとはさすがです!」
あんたらが毎度変身するから、そりゃもう普段よりインパクトあるから記憶に鮮明に残りますよ。
「おそらく最後の試練100、かなりの強敵が現れると思います」
「はい、そうだと思います」
「みんなが力を合わせないと勝てないような気がするんです」
「はい、そうだと思います」
「だから僕はアルディーンに変身する。しげるさんもガチタンクに変身するんだ!」
えっ!?
「今、なんと?」
「一緒に変身して戦うんだ! 最後の試練を攻略するにはこれしかない!」
えーー!!
まぁ、誠司さんは特記事項とかも効いているから、変身すればそれなりに強くなるとは思うよ。
俺? 変身してどうなるん?
設定、わりと雑じゃん?
怪盗団のような布を目元に巻くだけじゃん?
視界が悪くなるだけで、なんも変わらんじゃん?
あとね……。
俺のコードネームはブルータンクっすよ?
「99番目の試練の後にもトイレ休憩を入れますので、岩陰とかに行った時に変身を」
99番目の試練の後に『も』?
後に『も』?
無意識で『も』を付けちまったか……
今までやってたもんね。
だから『も』って言っちまったんだろ?
キリ番の前にトイレ休憩をはさんでいたことくらい、もちろん知っていましたとも。その度に疲労感が蓄積していったよ。
そんでもって最後には、その訳の分からんヒーローごっこを俺にも強要するのか?
俺がいつまでも黙っていると、誠司さんはさらに押してくる。
「どうしてもダメですか?」
「もし断ったら?」
「この世界から愛と正義が奪われてしまいます」
誰に?
たぶん奪われないと思うけど。