36 いざ、眠れる竜のほこらへ1
悪党共の後処理は、加藤君達に任せて、
さぁ、いざ、眠れる竜のほこらへ!
ただ解せないことが何点か。
竜の涙を安置するのに必要な『聖なる呪文』が、誠司さんが作ったプログラムコードってどういうことなんだ?
それも相まってか、先程の馬車の中以上に、シリアスな表情を浮かべている。
まぁ、バトルに長旅で疲れているのに、更に新しい任務、そんでもって奇妙な偶然。
コードなんてさ。
似たの、いくらでもあるんでしょ?
そんでもって古代異世界帝国は、現代社会より反映しており、云々……
だから偶然の一致なんだろう、と、俺は無理やり理由をこじつけようとしていた。
誠司さんは、しばらくの間そのコードとやらが記載されている古びた虫食いつきの紙切れ、おっと失敬、巻物を眺めていたが、鞄にしまうと、「さぁ、次は眠れる竜のほこらを目指そう!」と元気よく出発の号令を出した。
「さぁ、時間も限られている、みんな急ごう!」
と、馬車に乗り込む誠司さんに、長老は、
「ゆ、勇者様、お待ちを!」
「なんでしょうか?」
「勇者様、『竜の涙』をお持ちいただかないと……」
「あ、おっと、失礼」と慌てて、馬車から降りる誠司さん。
てっきり誠司さんは、俺か聖華さんあたりが持ってくると期待して先に乗り込んだんだろうなと思い込んでいたが、マジか。
肝心のアイテムを置いて行こうとするなんて。
おい、ちょっと大丈夫か?
まぁ、しんどいと意識も散漫になるわな。
てか、こういう時はどうしたらいいんだ?
俺はリーズに耳打ちした。
「おい、リーズ。誠司さん、さっきからなんか元気ないな」
「あたしもそう思っていました。ちょっと心配です」
「なぁ、こういう時、どうやって元気づけていたんだ?」
「え!? えーと……」
リーズも困っている。
兄妹でも、こういうシチュエーションは少なかったのかな?
うーん。
一発で疲れが吹っ飛ぶ、特効薬ってのはないのか?
うーーん。
うーーーーん。
うーーーーーーん。
あ。
あった!
「おい、リーズ。良い方法を思いついたぞ」
「なんでしょうか?」
「アルディーンを褒めろ! メタメタに褒めちぎるんだ!」
「……え? 誠司さんではなくて、アルディーン……を、ですか?」
「そうだ」
「……、え? え?」
「リーダーには元気になってもらわねぇと、この先俺達も困ることになるからなぁ」
「……そ、それは、理解できますが……。その役目、あたしでなくともしげるさんや、聖華さんではだめなのでしょうか?」
メチャクチャ嫌がっているじゃねぇか。
まぁ、分かるよ。
でも、ここは引けねぇ。
「みんな誠司さん=アルディーンってことは知っているけど、誠司さんの中では俺しか知らないことになっている。だから正体を知っている俺がそれをしてもわざとらしくなっちまって効果は薄い。聖華さんは普段からアルディーンのことを褒めちぎっているから、これまた効果は薄い。つー訳で、普段からアルディーンのことになったら一切口を開かないお前が言うと一番効果的なんだ。これだけ頼んでもダメか?」
「……ち、沈黙を……お許しください……」
「頼むよ」
「あたしは嘘が……」
「嘘でなくて本心から出た言葉ですごいって言うんだ! アルディーンはすごいだろ!? すごいと思い込むんだ! アルディーンはすごいんだ!」
「……ち、沈黙を……お許しください……」
リーズはガチで拒否ってる。
体が受付ねぇのは分かる。
だけど今の誠司さんを元気にできるのは、あんたしかいないんだよ。
「そこをなんとか! 頼むよ、リーズ」
しばらくの間、おつむから湯気をあげていたリーズだったが、遂に決断したか、ふらふらと誠司さんに向かって歩き出した!
頑張れ、リーズ。
今の誠司さんを元気にできるのは、リーズしかいない!
「……あ、あの、誠ちゃ……、ア、ア、アル……」
か、固いぞ、リーズ。
誠司さんが不思議そうに首を傾げているじゃないか。
もっと自然にいけ!
その時だった。
「おーい! ちょっと待ってぇー!」
リリとカカが息も絶え絶えに走ってきた。
「はぁはぁ、ちょっと待ってよ! 行っちゃう前にお礼をするって言ったでしょ? これ、どーぞ」
綺麗に包装されている板のようなものを誠司さんに手渡してきた。
「早く開けてみて」
こ、これは!?
ちぎったノートに書かれた超リアルな木炭画のようだ。
それが額縁に入っている。
木炭画の内訳は、勇者アルディーンとその御一行――アルディーンを中心にエルカローネに悪魔っ子、そんでもって、これ、まさかガチブルーじゃなかったブルータンク!? が、戦隊カッコよさげなポーズしている。
「学園で出会った絵がうまい子に、別れ際、お願いして描いてもらったんだ。その時の所持品で絵が描けるものといったら支給されたノートくらいしかなくて……」
なるほど。
なんかいたね。
特記事項の恩恵で、超リアルに絵が描ける子が。
で、お礼にと思ったけど、さすがに破ったノートじゃぁ様にならないと思って額縁を取りに行ったのか。なんとも律儀な。
でもこれは、誠司さんの体力を限界値まで回復させてくれる、もっとも効果的なアイテムに違えねぇ。
ほら、なんか誠司さんの肩やら唇がプルプル震えている。
幸せのボルテージマックス、嬉しさにつられて気力もHPも全回復、今すぐ飛び上がって喜びたい感情を全力で堪えているようにしか見えないぜ。
「本当にカッコよかったです! ありがとうございます」とリリはぺこり。
「あ、ありがとう!! こ、これは、アルディーンに会ったら必ず渡しておくよ。アルディーンは絶対に喜ぶに違いない!」
「え? え? あ、あの……」
お嬢様が、
「エルカローネさんに会ったら、私からも責任を持ってお伝えしますね」
「……あ、あの……」
誠司さんは急いで『竜の涙』の入った宝箱を手にすると、
「急ぎの案件があるので ありがとう! リリ君」と、急ぎ足で馬車に乗り込んだ。
きょとんとしていたリリだったが、俺と目が合った。
「あの、しげるさん。あたし、何か失礼なことでもしましたでしょうか?」
俺は親指を立てて笑顔で、
「とんでもない、グッジョブ!」と伝え、馬車に乗り込んだ。