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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第三章 腐った化け物と消えた嘘
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35 聖なる呪文

 ピッツ村に着いた俺は仰天させられた。 


 なんと加藤君がこちらに向かって、ニコニコしながら手を振っているではないか。


 彼がいるのは、村の一部が見渡せる程度のちょっぴり小高い丘。

 彼の周りにはヴィスブリッジの腕利きスタッフ6名とお縄になっている悪党共――数にして15人ってとこか。そして数名の村人たちも集まっている。

 レザーアーマーにトゲのついた肩当てをしている、イカつくてわりと強そうなのも、結構混ざっているぞ。


 俺達が馬車から降りると、加藤君が駆け寄ってきました。

「お疲れ様です。会長、みなさん!」


 俺は、

「これ、加藤君がやったのか?」と問うと、


「えーと、まぁ。やったのはぼくだけじゃないのですが、判断したのはぼくです。えーとですね、到着してしばらく遠巻きから観察していたんですが、どうも連中がざわつきだしたんです。これは直感なのですが、おそらく会長が敵本体を倒したという情報をこいつらは何らかの方法で掴んだ可能性があると思いました」


 誠司さんは、

「倒したのは僕じゃないんだ。実は今回も出番はなかったんだ。勇者アルディーンとその仲間達に先を越されて」


 はいはい。


 加藤君も慣れてきたのか、適当に愛想笑いを浮かべながら相槌でかわすと、

「で、例の組織も関係していると聞いていたので、応援を呼ばれたら大変です。今なら戦力的にはこちらが上だと分析もできていましたので急いで行動に移しました」


 なんか、しっかりしてきたな。

 まぁ、たったひとりで梶田とやりあってきたくらいだ。

 これくらいの判断力は、当然か。


「それに今回は上級魔導士のリアさんもいましたので、確実に優位に戦えると思いまして……」


 思いまして?

 なんか急に渋い顔になったぞ?

 どうした? 加藤君?



「……えーと……ですね……、リアさんとは初めてパーティを組みましたが……、なんと言いましょうか……なんで、彼女は敢えてピンチになるようなことばかりするんでしょうか!? まぁ、それでも勝てたからいいものも……、いえ、良くないです!!! 敵に攻撃力が上がる魔法をかけてみたり、もうちょっと倒せる相手を回復させてみたり……、もう二度とパーティなんて組みません!!」



 華麗なる悪女は、ピンチになると神がカッコいい王子に変身する設定だからね。

 随所でピンチになりたいんでしょ?

 絶対に出てやらんけど。


 あ、リアだ。

「しげるちゃんだ」と、俺に向かって手を振ってきたので、しぶしぶ振り替えしておいた。


「今回も王子様に会えませんでしたわ」と、しょぼくれている。



 一生、会えんわ!



 そんなことより。

 リリとカカは手を取り合って感動の再開を果たした。

 聖華さんももらい泣きしている。


 誠司さんが、

「早くご両親のところへ行って安心させてあげて」と言うと、二人は大きく頷き、「ありがとう! 絶対にお礼するね!」と返してきた。


「お礼なんていいから。早く元気な顔を見せてあげて」


 リリは誠司さんに、

「ちょっと待っててね。すぐ戻ってくるから!」

 と言い、二人はおそらく家のある方角なのだろう、走っていった。


 なんかえーものくれるんかな?

 金はいらんぞ。触ると溶けるからな。


 まぁ、とにかくこれで一件落着か。


 でも加藤君は、まだ渋い顔をしている。

 よっぽどリアにピンチにさせられたのか。

 まぁ、精神修行と思って……と、一人で妄想を膨らましていたら、加藤君が話を続けだした。


「愚痴ってすいませんでした。リアさんのことは精神修行と思い、ひとまず心中に仕舞います。実は会長、到着早々で申し訳ないのですが、別の事件が発生しまして……」

「何があったんですか?」


「すぐそこに長老もいますので、直接お話を聞いてもらっても宜しいですか?」

「ああ、もちろん」


 長老らしき老人が、お縄になっている中ボス的な風格をかもしだしているスキンヘッドのおっさんを杖でビシバシぶっ叩いている。


 まぁ摂れた穀物の9割を年貢として取り立てていたくれぇだから、ムカつくのはよく分かるぞ。心置きなく鬱憤を晴らせばいい、という気持ちで長老に近づいていった。


「このバカタレが!」

「す、すいませんでした!」


「どうしてくれるんじゃ!」

「長老ぉー、もはやどうしようもありません。無責任でごめんなさい。でも、もう逃げましょうよ!」


「そうはいくか!」


 誠司さんは、

「長老様ですね? 何かご相談があると彼から聞きました」


 加藤君は長老に軽く会釈をする。


「おお! あなたが勇者様ですか! 本当にありがとうございます!!」

「いえ。僕達は当然のことを行っただけです。ですが今回の一件の真の活躍者は、勇者戦隊★ファイティーンファイブです」


「ふぁいてぃんふぁいぶ?」


 ややこしくなるのでやめなさい。


 やっぱり誠司さん、この手の話になるとどうもダメだ。

 目が燃え滾っているよ。


「えぇ、そうです。彼らは謎のヒーローでして、その存在には謎要素も多く……」


 誠司さんが勇者戦隊★ファイティーンファイブについて熱弁しそうだったから、俺は「で、ご相談とは?」と話を軌道修正。


「あ、そうじゃった! こやつらが大変なことをしでかしてくれたんじゃ! もう、村は、いや世界はおしまいじゃなんじゃ!」


 そう言うと長老は、また悪党共を杖でボコスカ殴り始めた。

「すいません」「ごめんなさい」土下座、土下座。


 こっちはこっちで、話しが前に行かん。


 俺は、

「長老、俺達でできることがありましたら協力しますので、まず落ち着いてください。そして順序立てて詳しく教えてくれませんか?」と、コーヒーを差し出す。


 ごくごく。


「うまぃのぉ。おぬしブサイクじゃが、なかなか気が利くではないか」


 村を救った英雄にそれはないでしょう。

 だが反論したら余計に話が前にいかないので、俺は苦笑いで返した。



 一息ついて、長老は話し出した。


 長老の話はとにかく分かりにくくて、長かった。

 話しはあっちこっちへ飛んでいき、その随所で感情的になり悪党共を杖でガツン。


 まぁ、とにかくだ。

 内容をまとめると、こうだ。

 

 この村の奥地には『眠れる竜のほこら』ってのがあるみたいなんだ。

 村を実効支配していた悪党共が、そのほこらから勝手に『竜の涙』と呼ばれている宝玉を盗み出したみてぇで、どうもほこらから『竜の涙』が消えちまうと、時間にして48時間で『偉大なる竜』とか呼ばれているめちゃくちゃ強ぇ化け物が目覚めちまってデタラメに暴れだすって仕様らしいんだ。


 ちなみにその宝玉は、加藤君らが悪党共を捉えた時、所持品を確認していたら出て来たみたいだ。そんでもって今は、長老の足元に置かれている宝箱の中にある。



 俺はこの話を聞いて、ピーンときた。 

 経験値アップに使えそう、と。

 強敵復活万歳!


「倒しませんか? 誠司さん」と、俺。


「ダメですぞ、勇者様! 偉大なる竜は神と呼ばれている存在ですじゃ。いくらあなた様が強くても」


 俺、絶対神。

 格上のカリナも倒せたし、いけるかもしれん。

 経験値アップ! 経験値アップ!


「倒しませんか? 誠司さん」と、俺。


 バフいっぱいかけちゃうから、みんなでレベルアップしちゃいましょう!


「しげるさん、倒すという選択肢はどうもうひっかかります」

「え? と、言いますと?」


「その竜は古くからほこらで大切に祭られているくらいですから、村にとって、きっと守り神的な存在なのだと思います。ですよね、長老?」


 長老は頷く。


 えー。

 こんな悪党が村を実効支配していても助けてくれないのに、そんでもって宝石を取られると八つ当たりしてくるのに危なくてわがままな奴なのに、守り神認定!?


 そんな薄情者、経験値にしておいしく食べましょうよ。


 ――と、思うが、ここはリーダーには従うか。

 俺、たぶん、ダークモードに突っ走ろうとしているみたいだし。


「時間はあとどれくらいありますか?」

「盗んだのが、昨日の昼間とか言っていたから、まだ丸一日の猶予はありますじゃ」


「そこまでどれくらいかかります」

「歩きで半日くらいかのぉ」


「僕たちには馬車がありますので、もっと早くつけると思います。急いで戻してきますよ」

「それが駄目なんじゃ」


「どうしてですか?」

「言い伝えによると、聖なる呪文を唱えないと安置できないと言われておるのじゃ」


「言い伝え……ですか?」

「もう長い間、『竜の涙』を盗もうなどと不届きな者など現れなかったからのぉ、実際のところやったことないんじゃ。わしもわしのじいさまもそのまたじいさまも、先祖から安置する方法のみを教わっているだけじゃからのぉ」


「とにかく僕が安置してきます。その呪文はどう唱えたらいいのですか?」

「実はこれがそうなのじゃが……」


 老人は懐から紐で括られた巻物を取り出した。


「さっき蔵から出して、開いてみたのじゃが、何を書いてあるのかさっぱり分からんかった。まるで暗号文のようでのぉ。それに一部、虫に食われておってのぉ……。どうしようもないんじゃ……。この悪党め! どうしてくれるんじゃ!」

 

 そう言うと、また杖で悪党をボコリ。


「すいません」「ごめんなさい」と、土下座、土下座の悪党。


 誠司さんは、

「暗号に一部虫食い問題。それならご安心ください」


 お、誠司さん、かなりの自信。

 もしや秘策があるのか。

 さすが元IT社長にして我らリーダー、そんでもって近未来の王。


「僕の仲間に元探偵がいます」


 え?

 まさか?


「探偵とな?」

「はい、彼の名推理にいつも助けられています。先の戦いでは短時間で敵の特記事項じゃくてんを見破り、その前の戦いでは――」


 あ、それ、全部、リーズね。


「しかも元弓道部」と、聖華さんも自信満々にフンスと胸を張る。


 弓道部は関係ないからね。

 

 まぁ俺の神クラスのスキルでどうにかなるかもしれねぇ。

 見るだけならと、長老から巻物を受け取って開いてみた。


 

 なんじゃこりゃ!

 さっぱり分からんぞ。

 つーか、なんで英語表記??

 グー〇ル翻訳もない世界で、これをどうしろと?

 もうだめだ。やる気すらおきん。



 誠司さんは、

「元探偵、如何でしょうか?」

「いや、さっぱりです。でも誠司さんは英語も得意だったみたいだし、誠司さんなら読めるかも」と誠司さんの方に向かって開いて見せた。


 誠司さんは固まった。

 さすがに元IT社長でも無理か。

 虫食いだし。


「……これ……、読めます……」


 え?


「だって、これ……、僕が書いたプログラムコード…………」

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