34 ヒーローたちの柄の間の休息?
例の組織の一角である『聖・勇者学園』とかいう極悪施設を叩き潰して、リリを無事救出、そんでもって次に目指すはピッツ村。
てな俺達は、今、移動中の馬車の中。
リリの話によると『聖・勇者学園』の奴らに実効支配されているとのこと。
村ひとつ支配するなんて、マジでイカレた連中だ。
学園に向かう前、ヴィスブリッジの加藤君達にも別行動してもらい、村で落ち合う算段である。
カカともそこで合流。
こっそり俺は一番口の軽そうな猪田をさらって山奥に移転し、怖い魔法をチラつかせて、知っていることを洗いざらいすべて吐かせた。
なんでも奴らの村でのルーティーンは完璧に出来上がっており、年貢の搾取以外暇だから敵の主力部隊は学園に集中していたとのこと。そこはぶっ叩いたから、残った仕事は残党狩りって感じか。
とりあえず今回は、馬方を雇っての移動。
後部座席でちょっぴり楽できる。
休める時はしっかり休んでおくべきだと提案したのは俺。
先の戦いでみんなかなり体力が消耗しているだろうから。
――ってな建前で、体力全快な俺は「やれやれ」と膝を崩し、馬車で揺られながらリフレッシュタイムを満喫している。
俺はポテチの袋に手を突っ込み、ガサリとさらうと口へと頬張る。
バリボリ。
うめぇ。
それにしても、いろんな悪党がいるもんだ。
初心者ナビもどきから始まって、カジノに闇金、そんでもって学園を隠れ蓑にする団体さんまでいるとは。
海賊風オヤジの時は別にして、手ごわい相手の時には必ずといってあの組織が絡んでやがる。
なんか舌を噛んじまいそうな名前だけど、もう完璧に覚えちまった。
――オルドヌングスピア。
やべぇ特記事項を持った連中が、組織化して裏で好き勝手している。
俺達はそいつらを狩って回っているのだから、そろそろあちらさんの指名手配をくらってもおかしくないような気がする。
そう考えると、やべぇ発想も浮かんじまう。
ピッツ村に応援要請されていたらどうしよ……
それにいくら俺が絶対神といえど、やべぇ『特記事項』にお手付きしたら一発アウトになっちまう可能性だって拭えない。
組織と戦う時は、臆病くらいまで慎重になって丁度いいくらいだ。
まだまだ気が抜けないな。
だけどこの人には、その緊張感がまったくないんだろうね……
俺はチラリと緊張感ゼロのお花畑をみた。
聖華さん。
なんか嬉しそうに紙にいろいろ書いている。
そういや誠司さ……じゃなくて教育の勇者・アルディーンが、聖・勇者学園の講師陣を退治してその別れ際に言われたんだっけ。
「待ってくれ、聖女ピンク。君にしかできないお願いがあるんだ」
「なんでしょう? アルディーン様」
「どうやら君と黒髪の女の子は、仲良しみたいだから、もしかしたら彼女からから聞いているかもしれないが、会った時に直接お願いしようと思っていることがあるんだ。勇者戦隊・ファイティーンファイブの主題歌の歌詞を作ってくれないか?」
また面倒なものを引っ張り出して。
えーとね。
勇者戦隊・ファイティーンファイブってのは、とある夕暮れだっけか、誠司さんから俺にしかできない相談があるとか言って呼び出されて提唱された、俺だけ二役の痛い妄想ファンタジーなんだけどさ……
勇者レッド……不屈なる紅蓮の魂:アルディーン
聖女ピンク……太陽の聖女:エルカローネ
悪魔ブラック……闇の閃光:悪魔っ子
ナイトシルバー……彷徨える月影:ジークシュナイダー
ブルータンク……鉄壁の巨兵:ゲール・ウォーリア
だったかな。
詳しくは:閑話2(ヒーローと勇者)『1 組織の謎』を見てね。
「メロディーラインは大体できている。イメージはこんな感じだ」
と、アルディーンは、どっかで聞いたことがある勇者シリーズだったか戦隊シリーズだったか、そんな暑苦しい主題歌っぽいサビのところを、ガガガッ・ダダダッという単一であるがこれまた熱量の高い擬音だけで熱唱した。
うわ。
おい、リーズじゃなくて、悪魔っ子!
お前の兄貴が大変だ。頼むから止めてくれ。
俺はきょろきょろ首を振った。
なんだと。さっきまでそこにいたってのに、どこ行ったんだ?
こんな時に限って姿を消しやがって。くそったれ。
アルディーンは続ける。
「もちろん僕も真剣に考える。だけどどうも捻りが効いていない気がしてならないんだ。君なら僕が気付けなかった繊細で優しいパートにも気を配れるんじゃないかと思ってお願いをしてみたんだけど、嫌かな?」
頼む。お嬢様、嫌ですって言ってくれ。
あんた、俺がお願いしたらいつも言うじゃねぇか。
『嫌です』って、満面の笑みで。
そうだ。嫌なことはキッパリ断ってくれ。
――そんな気持ちでお嬢様に視線をぶつけた。
「はい、よろこんで!」
なんだよ、ちくしょ。
これでテーマソングの完成速度は2倍速になっちまったじぇねぇか。
――そんなことがあった。
俺はお嬢様が一生懸命ノートに書いている文字をチラッと見た。
『あーつーくー。あーつーく。命を燃やせーー』
あ、それ、誠司さんの担当パートだから。
俺は地図を見た。
時間にして、あと2、3時間ってとこか。
「誠司さん。疲れは十分、取れました?」
「あ、しげるさん。えーと、なんでしょうか?」
それにしても誠司さん、さっきまであんなに暑苦しかったってのに、今はなんかとても静かなんだ。時折話しかけてくるみんなの言葉に対しても なんだか上の空って感じなんだ。
まぁ、ハードな闘いを更に勝手に感情まで込めてヒートアップしながら戦っているから、そりゃきっとお疲れなのでしょう。
「村に着くまでもう少し時間がありますので、もし仮眠するのでしたら、どうぞ休んでください。俺起きていますので」
「あ、大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけなので」
「そうですか。分かりました。あまり体を酷使しないでくださいね」
「すいません。何だか気を遣わせたみたいで」
「良かったらコーヒーでも飲んでリラックスしておきましょう」
俺は水筒からコーヒーを継ぐと、誠司さんに手渡した。
「ありがとうございます。頂きます」
お嬢様にもコーヒーを手渡そうとしたけど、なんか「あーつーくぅー、あーつーくぅ、命を燃やせーー、はぁーはぁー♪」と、ぶつぶつ口ずさみながらワンツー猫パンチしてたから、やめた。