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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
閑話2(ヒーロと勇者!?)
52/78

13 勇者リリの冒険 後編3

 弘樹たちは間違いなく邪魔をしてくるでしょう。 

 だからといって行動を先延ばしにしても、問題が解決するわけではありません。


 むしろ逆。


 みんなの特記事項が書かれたファイルを盗み出したのですから。

 


 あたし達5人は、互いに顔を見合わせて、頷きました。

 


 とうとう一睡もできないまま、決戦の朝を迎えることとなりました。

 

 あたしが狙ったのは、錬金術科担当のサイトウ。

 どうもサイトウは、他の講師から一目置かれているようなのです。

 イノダが時折漏らしていましたが、やつ等の策略はほぼサイトウが考えているようです。

 


 教室の置時計の針は4時半を指しました。

 それと同時に、サイトウが教室に入ってきます。



「おはよう。諸君」


「「「おはようございます」」」


「本日の午前中に、急遽わしが、採用試験を担当することになった。猪田先生が担当する予定だったのだが、授業中に飲酒をするわ、大切なファイルはなくすしわ、ここのところたるんどるからわしがこの役を買って出た」


 そこまで言うと、みんなを見渡した。


「という訳で、わしは途中、ちょっと席を空けるが気を抜かぬように。おぬしらを信用していないわけではないが、わしの留守中は高度近代錬金術により生み出した合成魔獣『カンシキャメラ』に番をさせる。『カンシキャメラ』は離れたところにいるわしのもとへ、この教室の情報をリアルタイムで配信してくれる。まぁ転生者なら、この仕組みもよく知っておろうが」



 この後、今日の授業――という名目の強制労働の内容を黒板に書き連ねていった。

 その時だった。

 あたしの机に何かが飛んできた。

 

 丸めたメモ用紙……。

 きっと加夜だ。

 サイトウが板書している隙をついて、あたしに何かを伝えようとしている。

 

 

 あたしもサイトウの目を盗んで、メモ用紙を開きました。


『監視カメラ作動中は、行動をしない方がいいよ。ちょっと前に斎藤の監視カメラを見たことがあるんだけど、センサーが行動している人を認識して、自動でレーザービームが放たれる仕組みになっているよ。席を立っただけで、撃ち殺されたんだ』



 なるほど、それは危険だ。

 ありがとう、加夜。



 どのみち、作戦の決行はオダと入れ替わる――その時と決めています。


 あたしたちは、黙々と薬草をすり鉢ですりつぶしていきます。

 単純作業の繰り返しですが、かなり堪えます。

 時間とともに腕に力が入らなくなっていきますし、指だってしびれてきます。


 予告通りサイトウは監視カメラを設置して、「さぼらぬよう。もしさぼったらこの『カンシキャメラ』の青きいかづちにて絶命することとなるだろう」と言い残し、しばらくの間、席を外しました。


 戻ると、なにやら不機嫌そうにぶつぶつ言っております。


「なんなじゃ! あの誠司とかいう若造は! 生徒どもに夢やら希望やら未来やらを与えるとか、何とたわけたことを言っているんじゃ! はっ? そんなことをしてどうする? まさしく教育者失格じゃ。わしら講師は生徒から奪うから、毎日ウハウハできるというのに、きゃつは何も分かっておらん! まさしく時間の無駄よ。あんなの、猪田に任せておけばよかった……」

 

 サイトウは余程面白くなかったのか、あたしたちそっちのけで、教壇に半身預けたまま、長い間、愚痴をたらたら述べています。



 そして。



 休憩すら与えられず、午前の授業が終わり、午後の授業へと突入していきます。

 昼食すら摂らせてもらえていないので、多くのクラスメートは放心状態のようです。

 

 

 ふと周りを見渡しました。

 弘樹、そして彼の仲間達は、鋭い眼光であたしを睨んでいます。

 あたしが何か行動を起こしたら、絶対に邪魔してくる。

 そう言わんとばかりに。



 あたしは置時計に視線を流した。

 時計の針は、午後2時59分を指している。


 そろそろオダと交代の時間。

 考える力がなくなったところで、卑劣な犯罪行為をさせるのがやつらの常套手段。

 ただし、この悪夢も今日で終わりよ。


 

 あたしは机の中に忍ばせた木製ナイフに手をかけた。

 この学園では致死性の高い武器は一切与えてもらえません。

 戦士科の授業で使用するのは木製のナイフのみ。


 おそらく戦士の資質が上がれば、奴隷兵として戦争をしている国に売られ、最前線の矢面に立たされるみたいなのです。これもイノダが暴露していました。


 ナイフは木製ですが、その先には錬金術科の時にくすねた猛毒をたっぷりぬってあります。サイトウならその致死性の高さも一瞬で理解できるハズです。

 


 オダのハイヒールの音が聞こえてきた。

 あたしは加夜に目配せをする。


 加夜は目であたしに応えた。


 教室の戸がノックされた。

 ノックしたのはきっとオダ。


「およ? 小田先生ではないですか?」

「斎藤教授。まだ授業を続けますか?」


「午前中に面接があってのぉー、思うように量産できんかったからなぁ……。もうちょいとばかり授業を続けたいとも思うが、もうひとつのノルマは果たしているから、小田先生次第じゃ。おろ? こちらは?」



 なに!?

 敵がもうひとりいる……

 三人を相手するのはきつい。



 加夜、そして仲間たちの瞳に、不安が広がるのを感じる。



 このまま決行するべきか!?

 


「しげる先生よ。明日から非常勤講師として戦士科を手伝ってくださることになりました」

「ほぅ。それはそれは」


 あたしはその言葉を聞き逃さなかった。

 新手は、どうも新人のようだ。

 もしかなりの使い手であったとしても、うまく連携を取れないはず。


 とにかく新手の戦闘能力を把握するためにも、教室の外に意識を集中させた。



 あの人、見たことがある。

 たしか悪の巣窟――ヴィスブリッジの前で遭遇した恐ろしいおじさんだ。

 あたしの心臓は猛烈に加速していき、思考はよく分からない方向へグルグル回りだした。



 どうして、あの恐ろしいおじさんが、こんなところに……

 もしかして、あの時、おじさんはヴィスブリッジの入社試験を受けに行っていたとか。

 そして不採用となり、こちらの門を叩いた。

 もしくはヴィスブリッジの社員だったけど、こっちに転職した。

 そう考えると辻褄が合う。

 いえ、おじさんの素性なんて、今はどうだっていい。

 とにかく、あのおじさんの戦闘能力が知りたい。



 サイトウはあたしが抑え、オダはメンバーの中でも一番背が高い男子生徒の洋太が、そして抵抗してくるだろう弘樹達を加夜達残り三人で……


 だけど、敵は更に一人増えたのです。


 サイトウはおじさんに、

「それにしてもおぬし、ブッサイクじゃのぉー! 人間か?」と言った。


 おじさんは、少しムッとした顔になったようでしたが、何やら質問をしました。


「先ほど教授は量産できなかったとおっしゃいましたが、それはどういう意味なんですか?」


「あー。それはのぉ……」

「斎藤教授、私の授業はもう少し押しても問題ございませんわ。むしろもうちょっと後の方が都合よいですわ。生徒たちが思考停止状態になっていればいるほど、授業が楽になりますから」


「まぁ、それもそうか」


「あ、あのぉー。思考停止で授業なんて受けられるんですか?」


「そうよ。魔法は考えるものではありません。極限状態を通り越して、無意識という感覚で掴むもの。まぁ、それも見たら分かりますわ」


 話し合いは続いています。

 加夜が、やつらの目を盗んで耳打ちしてきました。


「あの大きな男性、私がいくよ」

「え? すでに体格差でかなり負けているし、それにイノダタイプだったら危険だよ」


「大丈夫。私がここまで頑張れたのはリリのお陰だし、なんとかやってみる」



 確かにここまで来て、もう後には引けない。



 オダとおじさんは教室内に入ってきた。

 


 加夜は最後にもう一回目で頷くと手を挙げた。


「ね、願います!」


 それは戦闘開始の合図。


「なんだ。生徒5号」とサイトウはゆらりと加夜に近づいてくる。


 加夜は作戦通り、続ける。

「も、もう限界です。お願いです。眠らせてください!」


「ほう。口答えするのか!」


「い、いえ。もう15時間以上、休んでいないし、もちろん食事だって摂れていません」

「ふ。たった15時間ではないか……。だからお前らはいつまで経ってもまともに錬金術を会得できないのだ! このたわけが! 地下に潜るか?」


「ひぃ。ご、ごめんなさい!」


 サイトウはおじさんの方へ顔を向けた。


「まぁ、こんな感じで、少々スパルタではあるが、彼らは確実に技術を身に付けていくのじゃ」


 おじさんが何やら口をはさんできた。


「ちなみに、完成したアイテムはどうされているのですか?」

「もちろん販売して学園の運営費に充てている」


「えーと、わりと重労働に見えますが? ちなみに得た収益で、生徒さんに金銭的な還元とかもさているのですか?」

「は??? こうやってわしのありがたい授業を受けさせてもらっているだけでもありがたいというのに、なんでそれ以上の還元が必要なのだ?」



 もしかして、このおじさん、まとも?



 だけどそんなこと、今は考えている余裕なんてない。


 サイトウはあたしのすぐ傍なのだ。

 しかも間抜けにも、興味の矛先はあのおじさん。


 まさしくこれこそ、絶好のチャンス。

 あたしは隠し持ったナイフを強く握り、サイトウの背後を取ると、ヤツの首元にナイフを近づけ全力で叫んだ。


「サイトゥーー! これにはあんたお得意の猛毒がたっぷり塗ってある。少しでもかすったらどうなるかくらい分かるなぁ!?」


 オダが咄嗟にあたしに手のひらを向ける。

 魔法で応戦するなんて、すでにお見通しよ。

 だから洋太がこっそりしゃがんだまま近づいていったんじゃない。


 洋太は特記事項に『もう限界だ。これからはひっそりと生きる』と書いた。

 彼は致命的な弱点だと顔に暗い影を落としてたけど、決してそうじゃないよ。

 それは大いなる武器。

 だって、オダの反撃を阻止できる役にうってつけじゃない。

 彼はすぐに限界に達するらしい。

 だからこそ、確実に素早く、一瞬でことを済ませると誓ってくれました。


 洋太はオダの首元にナイフを向け「手を下ろすんだ」と小さく、ですが鋭く囁く。


 オダは舌打ちをして悔しそうに手の平を握ると、そのまま下ろした。


 そこまでの連携がほぼ、1.8秒。

 息をする間もない、刹那の時間でやってのけた。

 ワンテンポ遅れて、弘樹たちが立ち上がった。


 同時に加夜達三人も立ち上がる。


 相手は総勢10名はいるだろう。

 数では押される。


 だけどあたしは、ひるまず叫ぶ。


「みんな動くな! 今すぐ座るんだ! あたしは本気だぞ!」と、サイトウの首根っこに更に刃の先を近づける。


 サイトウは蒼白な顔をいっそ青に染めて、尚も強気で言い返してくる。

 

「なんだ! このクソガキ! 分かっているんだろうなぁ! 貴様等、全員処刑だ! し、しげる先生、ほら、あんたもそこそこやるんだろ! ぼーとしておらんで、早く助けんかい!」



 やばい。

 おじさんが動く。


 その時だった。

 おじさんに向かって加夜が走り出したのだ。


「リリが作ってくれたこのチャンスを、絶対に邪魔させない!」


「うおっ、俺、女の子は苦手っす。じゃぁ、俺はこれで」


 加夜が近づいて行っただけで、おじさんは一目散に逃げていった。

 果たして本当に怖くて逃げたのでしょうか?



「し、しげる先生!? なんだ、きゃつは、クビじゃぁ! お、おい、お前ら助けろ!」


 今度は弘樹たちに視線を向けるサイトウ。


 弘樹達の勢いは止まらない。

 あたしの方に走り寄ってくる。


「く、来るな! サイトウが死んでもいいのか?」


 加夜達は、あらかじめ考えていた作戦でそれを阻止しようとする。

 特記事項のファイルから彼らが苦手な物を洗い出して、用意していたのだ。

 野菜なんて嫌いだ。もう野菜なんて見たくもないって子には、野菜のイラストを、怖い人が近くに来たら怯んでしまうという子には、イノダの肖像画、といった感じで。

 特記事項に『リアルな描写ができるすごい画家になりたい』という仲間に。


 だが。

 誰一人、怯むことないのだ。


 な、なんで。

 弘樹の仲間達は、もう目前。

 なんで効かないの!?

 イラストだから効果がなかったの!?

 

 先陣を切る一人が、固めた拳をあたしに叩きつけてきた。


 その瞬間だった。

 ひとりが倒れ、連鎖するようにバタバタと崩れ落ちていった。

 倒れたヤツらは、ゴブリンへと姿を変えていった。


「……いったい何が起こったの!?」


 弘樹があたしに視線を向けた。


「……おそらくこいつらは小田の魔法で人の姿をさせられて操られていたんだと思う。こいつらには、昨夜、パワーが増強するクスリと偽って、睡眠薬を渡しておいた。アクションを起こす直前に飲むように指示してある……」


 そこまで言うと、弘樹は少し俯いた。


「……俺、知っていたんだ。この中にスパイが存在することを……」


 あたしは驚きを隠せなかった。


「……授業中、ずっとあたしの方を睨んでいたよね……?」

「そうさ。リリが行動するタイミングを見逃さないために。もし俺を疑って睡眠薬を服用しない奴がいたら、すぐに沈めないといけないから……」


 弘樹は続ける。


「昨夜、リリの話を聞いた直後から、嫌な予感がしてたんだ。だから俺は、敵対する奴らの特定を試みた。同時にリリの作戦を悟られないよう隔離する必要もあった。俺がああいう態度を示したら、必ずスパイ共は結託すると踏んだ……。俺には特記事項『裏切られてばっかりで嫌になった』ってのがある。だから、誰かが裏切ろうという感情を強く抱いたら、俺は嫌な気分になってしまう。この能力を……俺を……もっと信じていたら、こんなところに来なくも良かったのに……」



「……そ、そうだったの……ご、ごめんなさい。あたし、そうとは知らず弘樹に酷いことを言った……」

「いや、いいんだ……。それに、こちらの方こそごめん……。リリが立ち上がった時、俺はすごく勇気を貰った。だから俺は俺なりに君の力になりたかった……。だけど君を深く傷つけたと思う」


「そんなことない。弘樹がいないと、この作戦はうまくいかなかった」


 だって敵は操られているモンスターまでいたのですから。

 ヤツらは容赦なくあたしに突っ込んできたでしょう。


 とにかく、あたし達はサイトウとオダの人質作戦に成功した。

 後はこいつらを盾に脱出だけ。



 その時でした。


「これは何事だ!」


 教室の戸が強く開かれ、その先にはオオイタ理事長の姿があった。

 やつこそ、みんなを地獄へ連れ込んだ諸悪の根源。

 やつを見た瞬間、あたしの全身に怒りのという感情が宿った。

 あたしは強く奴を睨んだ。


「見て分からないの? あたし達はこいつらを人質にここから逃げる。もしその邪魔をしたら、こいつらは容赦なく殺す!」


 あたしは本気だ。

 その証として、サイトウの首筋にナイフの先で少し撫でた。

 これは触るだけで感染する猛毒。サイトウの首は紫へと変色を始めた。


「た、たすけてくれ!」

「それをあたしたちがお願いしたとき、あんたたちはどう言ったか覚えていますか!?」



「え? え?」


「さっきも言ったじゃない? ここよりも過酷な地下へ送る、と。これ以上の地獄、それって死ねっていう意味だよ。あたしはあなた達からたくさんのことを学んだ。搾取には搾取を、略奪には略奪を。そして制裁には制裁をもって返せということを。今こそその時!」


 あたしは屈しない。

 絶対に逃げ延びてみせる。


 なのに。

 なのに。

 なのに。

 

 どうして、オオイタは涼しい顔をしていられるの?

 なぜ!?

 主導権はこちらにあるのよ?


「ククク。アハハハ。リリ君、なかなかやるじゃないか!」

「なに笑っているの? これは遊びではないのよ。あたしが殺れないと思っているなら、それは大きな間違いよ」


「ふふっ、お優しいリリ君が、先生を殺すなんて絶対にありえないさ。さぁ、今なら、その勇敢さに免じて特別許してあげますから、ナイフを置きたまえ」



 ふざけるな!

 こんなやつ等の言う事なんて誰が聞くものか。


 なのに。


 その感情とは裏腹に、あたしの腕は徐々に下に降りていく。

 ど、どうして?


 サイトウはそれを見逃さなかった。

 ニカリと笑い、あたしを思い切り突き飛ばした。

 あたしの体は吹き飛ばされ、机の山に埋もれた。


 洋太も同様にオダの魔法で吹き飛ばされた。


「さてと」と言いながら歩み寄ってくるサイトウとオダ。

 奴らの指先では魔法のエネルギーが増幅していく。



 クラスメートのひとりが立ち上がった。


「リリちゃんはあなた達の言うことを聞いたんだよ。だから約束通り許してよ。さっき許してあげるって言ったじゃん……」と震える声が聞こえてきた。


「わたしは寛容だ。許してあげます。リリ君は特別許してあげますし、卒業もさせてあげましょう。とっても頑張ったからね。まぁ、だけど、それはわたしの一存だけであって……」

 

 そこまで言うと、オオイタはとぼけた目つきでその視線の先をオダ達に向けた。


「ふふ、おバカさん。許すっておっしゃったのは、理事長。単に理事長が許すってだけで、わたくしは別。こんなおバカさん、許す訳ないじゃん」

「そうじゃ。尊敬すべき教師に手をあげるなんて、なんたる不届きな行為。このうつけめ! 頭がいかれおって。教育的指導が必要じゃ!」


 そう言うと、嫌らしい声で哄笑をあげ、そして膨れ上がった同時に魔法は放たれた。

 巨大な魔弾は近づいてくる。

 もう助からない。あたしは死んだ。本当に悔しい。

 仲間の気持ちに堪えられなくて、こんなところなんかで……


 弘樹、加夜、クラスのみんなが大きな声で叫んだ。

「逃げて! リリィィィーー!!!」


 もう駄目。

 あんなの避けられない。

 悔しいけど、そう思うしかなかった。

 完全に敗北した。



 あたしはギュッと目をつむった。


 だけどどうしたというの。

 一向に痛みが訪れない。

 苦しむことさえなく、一瞬であの世に行ってしまったのでしょうか?


 恐る恐る、あたしは瞼を開いた。


 あたしの前に誰かが立っている。

 まるであたしをかばうかのように、両手を前に突き出して。


 金色に染まった髪が爆風で揺れている。


 青い顔を真っ赤な顔に染めて、サイトウが叫んだ。


「だ、誰だ!?」

「斎藤よ、キサマのような善良な青年に対してわけの分からん自分勝手な曲がった理屈で貶める外道に名乗る名などない」


 そう告げると、さわやかにあたしの方へ視線を流しました。


「大丈夫かい? よく頑張ったね。もう心配はいらないよ」

「あ、はい。あなたは……、誰……ですか?」


「人は僕のことをこう呼ぶ。教育の勇者・アルディーン、と! 指導者の仮面をかぶった腐ったゴミ共に、真の教育を叩きこむ者だ!」


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