8 カチコミ3
東塔2階の一室で小田は足を止めた。
窓の向こうでは白衣姿の講師がなんか叫んでいる。
その容貌は、蒼白くもやしのように細く手や腕は血管が浮き出ており、それでいて黒い丸眼鏡がよくマッチしている、一言でいえばマッドサイエンスじじぃ。
「あらあら、錬金術科の授業が押しているみたいですね」
「錬金術科は何をするんですか?」
「薬草や毒消しの作り方、アイテム調合といった高度なスキルを学びます」
ほうほう
でもなんか、マッドサイエンスじじぃが一方的に脅し上げているようにしかみえない。
「見学されます?」
「あ、はい。ぜひ」
小田は軽くノックすると、マッドサイエンスじじぃが出て来た。
「およ? 小田先生ではないか?」
「斎藤教授。まだ授業を続けますか?」
「午前中に面接があってのぉー、思うように量産できんかったからなぁ……。もうちょいとばかり授業を続けたいとも思うが、もうひとつのノルマは果たしているから、小田先生次第じゃ」
『こいつだ! 僕を不合格にした不届きな悪党は!』(柱の声)
あ、そうなのね。
おっと、教授がこっちを向いたぞ。なんだ?
「おろ? 知らん顔じゃの?」
「しげる先生よ。明日から非常勤講師として戦士科を手伝ってくださることになりました」
「ほぅ。それはそれは、ほっほっほー」
そういうと斎藤教授は、ニカリと歯を見せた。言っちゃ悪いがズバリ骸骨みてぇな風貌。その笑みがちょっと不気味でもあるが、俺も笑顔で返した。
「それにしてもおぬし、ブッサイクじゃのぉー! それでも人間か?」
あんたに言われたかないわ。
ドクタースケルトンめ!
だけど折角なので、気になったことを聞いてみることにした。
「先ほど教授は量産できなかったとおっしゃいましたが、それはどういう意味なんですか?」
「あー。それはのぉ……」
「斎藤教授、私の授業はもう少し押しても問題ございませんわ。むしろもうちょっと後の方が都合よいですわ。生徒たちが思考停止状態になっていればいるほど、授業が楽になりますから」
「まぁ、それもそうか」
「あ、あのぉー。思考停止で授業なんて受けられるんですか?」
「そうよ。魔法は考えるものではありません。極限状態を通り越して、無意識という感覚で掴むもの。まぁ、それも見たら分かりますわ」
うーん?
俺は小田の後について、教室へ入った。
なんじゃこりゃー。
小田は、「私たちに構わず授業に集中してください」と言っているが、誰一人こちらに視線を向けない。生徒達は一列に隊列を組んで、ひたすら動く板のような――ずばりベルトコンベアーから流れてくるお皿に、草やら液体やらを振りかけている。
年齢は12、3歳……いやもう少し下くらいか……。
目の下には隈ができており、みな放心状態で、指先も震えている。
俺の目には子どもが強制労働させられているだけにしか見えなかった。
こいつら、いったい何をしているだ!!
「ね、願います!」
一人の女の子が手をあげた。
「なんだ。生徒5号」と教授はゆらりと近づいて行く。
「……も、もう限界です。お願いです。眠らせてください……」
「ほう。口答えするのか!」
「……い、いえ……。もう15時間以上、休んでいないし、もちろん食事だって摂れていません……」
「ふ。たった15時間ではないか……。だからお前らはいつまで経ってもまともに錬金術を会得できないのだ! このたわけが! 地下に潜るか?」
「ひ、ひぃ。ごめんなさい」
地下?
教授は俺の近くまでやってきた。
「まぁ、こんな感じで、少々スパルタではあるが、生徒らは確実に技術を身に付けていくのじゃ」
いや、ライン工しているだけだから、専門的な技術や知識は手に入らんと思う。
「ちなみに、完成したアイテムはどうされているのですか?」
「もちろん販売して学園の運営費に充てている」
「えーと、わりと重労働に見えますが? ところでこういった作業で得た収益についてですが、生徒さんに何らかの還元をさているのですか?」
「は??? こうやってわしらのありがたい授業を受けさせてもらっているだけでも感謝せんとかんというのに、なんでそれ以上の還元が必要なのだ?」
聞いた俺がバカだった。
ちなみにここに来るまでにリーズと遭遇できた。
もちろん小田がいるので、面と向かって会話をしたわけではない。
すっと俺の背後に近づいて、メモをくれたくらいだ。
そのメモでリーズの調査結果を知れた。
どうやら学生名簿を見つけたみたいで、リリの居場所の特定を急いでいるとのことだった。
そしてこの学園で、危険な特記事項を持つのは、小田、斎藤、
そして最もやべぇのが理事長の大板。
メモ視線を落とし、大板の特記事項を再度確認する。
『教育なんてクソくれぇだ。
我こそが、すべての英知。
我の教えに逆らう者は、大いなる罰を体現させてやる』