6 カチコミ1
「待たせたな! 勇敢なる者よ!」「お待たせしました!」
待ってねぇーよ!
俺が待っていたのは誠司さんと聖華さんだよ。
でも、つっこむ気力すらなく、その次の行動も条件反射的に行ってしまった。
そう、中身を知りつつも、「あれ? 誠司さんと聖華さんは?」
その言葉に、もはや感情すらこもっていないと思う。
例えるなら寝る前にはふと気づいたら無意識で歯磨きを、知り合いに会ったら特に何も考えずこんにちは、ありがとうと言われたら条件反射でどういたしまして的なやつ。
【方程式】
朝起きる → 歯磨き
知り合いと合う → こんにちは
ありがとう → どういたしまして
アルディーン登場 → あれ? 誠司さんは?
そして次にくる回答も知っている。
確変するとしたら、誠司さんが先か、聖華さんが先か、それくらい。
この会話の楽しめるところは、どっちが先に返答するかくらいしかない。
お、今回は聖華さんか。
聖華さん、「黒髪の女の子とトイレでたまたまばったりお会いしまして、あまりにもしんどそうだったので、救急馬車を呼びました」
あんたらと遭遇する時は、いっつも腹痛&救急馬車じゃん?
まー、もーえーよ。
そこで会話を膨らませる気など毛頭ない。
「で、誠司さんも腹痛で救急馬車なんですね? はいはい、お大事に」
「い、いや。えーと。違うぞ」
「へー、違うんですか?」
「うむ。違うのだ。毎度、毎度、腹痛になってたまるか」
「ほー」
「そうだなー、えーとだな……、つまり、あのだな、あ、そうだ! あまりの怒りで思わずトイレの便器を殴ってしまったようだ。力がセーブできず、便器は大破。次の人が困るだろうから、修理を急がねばと思っていたところ、たまたま私が通りかかったので彼の意思を受け継ぐことになったという訳だ。ふっ、代理の勇者・アルディーンだ!」
……THE 負けず嫌い
で、教育の勇者じゃなかったの!?
俺は軽く深呼吸をすると、今回の作戦を説明していった。
* * *
聖・勇者学園の正門までやってきた。
明日になれば講師として席を用意してくれるみたいだけど、わざわざ明日まで待つ必要はない。採用された利は、前日でも十分発揮できる。
俺は堂々と正門を潜り、建物を目指した。
俺に気付いてか、巨漢のおっさんが駆け寄ってきた。
胸板の厚いムキムキボディーにこの世界にジャージには似つかわないジャージにランニングシューズ。
一言でいえば熱血体育教師って風貌だ。
手にある竹刀で肩をポンポンと叩き、「見ない顔だけど、おたく、どなた?」と、恫喝しているような野太い声で問うてきた。
「俺はしげる。大板理事長から明日から非常勤講師として来るように言われたんだけど、居ても立っても居られなくなって、今日からでも何かさせてもらえねぇーかなって思って、気付いたらここに来てしまいました。てへっ」
熱血体育教師風おっさんは、指で鼻の下をかいてにかりと笑った。
「ほう、あんたがしげるか。学園長から聞いているぜ。ちぃーとばかし待ってな」
そう言うと、熱血体育教師風おっさんは建物の中へ走っていった。
『戦士君、出番はまだか!?』
誠司さんは正門の裏から半身をのぞかせ、拳を強く握りしめたまま、こちらをガン見しているよ。
『戦士さん! すでに準備はできていますから!』と、聖華さ……ではなく、エルカローネも正門から首をひょっこり&ガン見。
あの……、こっちはまだ準備はできていませんから。
見つかるからあんまり乗り出さないの!
あんたの顔、さっき受験した人とまったく同じだから、普通に怪しまれるよ?
『戦士君! 僕の怒りは既に頂点に達しています! 早く指示を!』
『戦士さん! 聖なる光はいつでも発動できますよ! 早く指示を!』
『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』『早く指示を!』
うるせぇ!!
俺は正門まで走って戻った。
「しぃ! もうちょっとおとなしく待っていてください。確かにあなた達は強いですが、敵は転生者である可能性もあり、つーかほぼ100%転生者で、強力な特記事項を持っている可能性だってあり……てかこんな学園まで作ってサイコな教えを徹底指導しているくらいなんだからそーとーヤバイと見るのが普通です。それにリリの状況も確認できていません。カチコミと言いましたが、なるべくスマートにかつ安全に事を済ませるために、さっき段取りを話しましたよね。ちょっと自重してください」
「「すいません」」しゅん
「い、いえ。俺も言い過ぎました。あ、さっきの人が帰ってきましたので、俺も戻りますね」
「はっ!」「はっ!」しゅぱん!
大丈夫かなぁ……このヒーロー達。