5 嵐の熱血タクティクス・オーロラシャニング学園バーニング大作戦・改
「何故だぁーー! 何がいけなかったのだ!?」
「なんでよぉー! 完璧に回答したと思うのに!!」
昼間の公園。
なんつーか、まー、荒れてるよ。
このお二人、缶ジュースとお茶なんかで、酔っぱらっているのか!?
俺は鼻水まで流して悔しそうに泣いているお嬢様にハンカチを差し出す。
お嬢様は俺のハンカチに、ぶー。
「不合格だったのは残念ですが、目的はリリの救出と、組織のしっぽを掴むこと。作戦の軌道修正を行うことが先決と思います」
「そ、その通りです。悔しいが、まったくもって悔しいしか浮かんでこないが、確かに新しい手で挽回するべき……。さすがしげるさんです……。悔しいですが……ここは……ぐぅ」
さすが不屈の勇者。
拳を強く固めて立ち上がった。
でも駄目だよ。
誠司さんはわりと腕力上げているのを自覚しないと。
言わんこっちゃない。手にしていたペットボトルのお茶が粉々に粉砕された。
お茶は誠司さんの顔にべしゃり。
キレちゃ、ダメだよ。
アルディーンになっちゃ、ダメだからね。
「あのぉ、俺に案があるのですが……、その名は、オーロラシャニング学園バーニング大作戦・改」
「さすがしげるさんです。その案を教えてください」
「聞きたいです」
「実は俺は……」
これを言うと反応が怖かったが、隠していても仕方ないので正直に話した。
「明日から、聖・勇者学園に講師としていくことが決まりました」
「え!?」「どうしてですか!?」
「たまたまここに学園の理事長が通りがかって、なんか意気投合したのかな? いや、一方的に誘われて、それで採用さてしまったんです」
「ずるーい!」と聖華さん。
「いえ、俺、思うんですが、なんかこれ、おかしくありません? だってわざわざ採用試験までもうけてふるいをかけているのに、なんもしていない俺なんかを採用するなんて」
誠司さんは黙って腕組みをしている。
「……それはしげるさんは元探偵ですし、満ち溢れる才能を理事長が瞬時に見破ったとしたとしか……」
「それはないと思いますが……。それより、誠司さん、聖華さん、試験はどんな感じだったんですか?」
俺の質問に、まず聖華さんが答えた。
「受験者は私を入れて10人程度。最初は一般常識でした。それが終わると、えーと……、ひとりずつ個室に入るように言われ、なんか変な質問ばかりされました」
「個別面談のようですね。ところで、変とは?」
「……変な問題です……」
「具体的に……」
なんか聖華さんがまた泣きそうな目つきになった。
「あなたのパーティは全滅しかけています。あなたは魔法使い、瞬間移動ができます。ですが、一緒に連れて逃げられるのは一人だけ。さて、どの仲間を救いますか?」
ほうほう、なかなか。
「1.今までみんなを命がけでまとめて来たリーダーである勇者の兄。
2.今までみんなの太陽となって守ってきた僧侶である幼馴染。
3.今までみんなの影となり勝利へと導いてくれた策略家である賢者の弟」
「で、なんて答えたんですか?」
「わたしはなにがあっても全員助ける、と」
「そうだ! 僕も命に代えても絶対に全員救うぞ!」
いや、誠司さんには聞いていないから。
「でも問題は誰か一人しか助けられないのですよね? この問題にどういう意図があるのか、これだけでは判断しかねるのですが、全部だとダメだと言われませんでしたか? どれかひとつに絞れって」
「はい。試験管の方は、その回答はダメですとおっしゃいました」
「それで不合格になったということですか?」
「いいえ、特別答えを教えてあげるから、そのように答えなさいと」
は?
「で、正解は何番だったんですか?」
「1,2,3、すべて不正解だそうです」
はいっ?
「全員見捨てるのが正解だそうです。誰かを助けたら、その人から、仲間を見捨てたという事実がバレて不名誉にもなり世間体にも悪いから、全員見捨てて、パーティを組んだ事実すら隠蔽するのが真の勇気ある者の道だそうです。パパっとみんな見捨てて早く楽に後ろ指差されないように再出発して、生計を立て直すことこそ勝利者の近道だそうです。
そして全員見捨てるって言ったら合格にしてあげるから、言ってごらんって言われました。
わたしはしばらくの間、何も言葉にできませんでした。
そうしたら、うつむいている私に試験管の先生はやさしい声で耳元にそっと、大丈夫、この学園に入ったら、みんな立派になれるのよ。圧倒的な地位も名誉も財産も欲しいがまま。お金持ちになりたいでしょ? みんなに尊敬されたいでしょ? なにも心配いらないから、みんな見捨てるって言って。さぁ、早く。
わたしはその手を振り払い、勇気を奮って、あなたの考え方は間違っていると言ったら、そこで即、不合格と大声で怒鳴られ部屋を追い出されました」
「腐っている!」
やばい。誠司さんプッツンしそうだ。
「ちょ、誠司さん。聖華さんの話は大体わかったから感想は後にして、誠司さんはどうだったんですか?」
「……はぁ、はぁ」
「はい、一回、深呼吸」
「……スー、ハー、スー、ハー、……え、えーと、僕の方は簡単なプロファイルを書かされて、狭い個室に通されました。もちろんこちらの情報がバレたら大変だからプロファイルには、あらかじめ擬装用に登録しておいたダミーを使いました」
擬装用の個人情報まであるのか。
さすがだ。
「そこでは僕も聖華さんと同じように筆記試験からスタートしました。最初はどこでも見るような一般常識のような問題でした。そして後半は試験管との面談でした」
「また阿漕な選択を要求されたとか?」
「いえ、こちらはフリートークでした。テーマは『理想的な講師像』です。僕は夢中で語りました。生徒一人一人の笑顔を思い浮かべ、彼らの正しき未来像をイメージし。そして、すべての生徒が笑顔で安心して夢を追いかけていくためには……、と口にした瞬間でした。
急に試験管が怒りだしたのです。
なんだ、キサマ! それでも講師志願者か! と一喝されました。
どういうことかさっぱり分からなかった僕は、一度頭をさげ、もし問題点があれば修正するので教えて欲しいという意図を伝えたのですが、キサマに話すことなど何もない! 不愉快だ! もちろん不合格だ! 出ていけ! と部屋から無理やり追い出されました」
ひとつ深呼吸をすると、誠司さんは俺に向き直った。
「しげるさん。僕のどこに問題があったと思いますか?」
「問題なんてありませんよ。おかしいのは学園側です。聖華さんの時の試験管と同じ思考回路のやつだと思って頂ければ、すぐ理解できるかと」
誠司さんは、ハッとした。
なんだんだよ? この学校。
まぁ、どーしょーもない奴らの巣窟ってことは理解できた。
で。
なんで、俺、採用されたの?
もしかして……
べたべた自分の顔を撫でてみた。
もしこのカンが当たっていたら、超ムカつくんですけど。
俺は片手を小さく上げて見せた。
「それでは発表します。新タクティクス・オーロラシャニング学園バーニング大作戦・改を」
「あ、はい」「お願いします」
俺は学園を指差した。
「これからあそこにカチコミをかける」
「え? まだ確固たる証拠をつかんでいないのに」
証拠?
ほぼ分かったでしょ?
さっきのアホみたいな尋問で。
「今頃、学園長を囲んで、へんちくりんな会議をしていると思うよ。カモを何人落としたとか、でも、どーしようもない不作も混ざっていたとか、そんでもって、明日、欲にまみれた豚がノコノコやってくるとか」
俺にはサバイバルスキル『サーチ』と『音感知』がある。
それも神クラスの。
学園の方へと耳を澄ます。
俺のアンテナは、さっき会った男と同じ声音を捉えた。
「誠司と聖華……、こりゃ、正真正銘のクズだな。何が正義だ。何が愛だ。しかもそのくせ、面倒なことになかなか強い意志を持ってやがる。金やブツをチラつかせても転ばない輩は予め排除すべし。ああいうのが混ざると後々面倒だからな」
なるほどね。
「ククク、そしてな。お前らに朗報だ。明日、欲にまみれた豚がくるから仲良くしてやれ。奴は金が大好物だ。金のことしか考えていない。試しに綺麗ごとを並べていた時はまったく興味無さそうな顔をしていたのに、ちょっと金をにおわせると、おいそれすぐに乗ってくる。面白いくらいちょれーわ。だから金の魔力でメロメロにしてやれ」
「はっ!」「はっ!」
やっぱり、あんたにはそう映っていたのね。
ムカつくが、俺よりも二人の方がイラ立っているようだ。
「もし、しげるさんのおっしゃったのが真実でしたら……罪のない人を傷つけるなんて……私……」
それ以上は我慢するんだ!! 変身しちゃうぞ!
「……なんて卑劣な……。仲間を見捨てるような発言を強要するなんて、もはや指導者ではない! この教育の勇者、アルディー……」
あーあ、半分言っちゃったよ。
でも、これはやばいぞ。
俺は公園の隅を指差した。
「男性用トイレはあっち。女性用トイレはその向こう。急いで!」
ハッとした二人は「すいません。胃がムカムカするので」「ちょっとお腹が」と、お腹を抱えたまま、トイレへとかけていった。
あーあー。
あの空間から出てくる時は、なんかピカピカ光っているのね。
まぁ、いっか。
どーせ、これから起きることは『オーロラシャニング学園バーニング大作戦・改』だし。