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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
閑話2(ヒーロと勇者!?)
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1 組織の影!?

 誠司さんが起業して、どれくらい経っただろうか。

 毎日が重すぎて……いや、マイナス的な発言はやめておこう、毎日が面白すぎて、一日一日をとても長く感じてしまう。


 そんな俺はヴィスブリッジの事務所に座って、悶々と考えていた。


 なんつーかね……いつも思うんだけどさ、

 俺をカウンターに座らせていて、いいの?

 ほら、何も知らずに初めて入ってくる一見さんがあの戸を開いた途端「ぎゃー、オークだ! ブサイクなオークがいる!」と言って走り去っていくよ。



 これは何かの拷問か?

 この不愉快なループ現象を、後何回見ればいいのだろうか。



 お嬢様は俺を見て「オーク? どこにいるのですか?」と首を傾げている。



 ふぅと、短い嘆息を吐く。

 そういや、この短期間で、アルディーンが124回も登場したな。

 続いてエルカローネが108回。

 悪魔っ子は、強敵の時しか登場してくれない。

 だから全5回と、わりと希少的存在。



 ジークシュナイダー?

 あ、あの人の変身条件は、結構難しいんだ。

 だからあの回限りの、超レアな存在になっている。

 誠司さんにとってね。


 



 また戸が開く。

 今度はリアか。



 華麗に髪をかけあげながら、ヒールを鳴らしてやってくる。



「バカと阿呆の区別がつかない輩なんてほっとけばいいのよ。それより楽していっぱい稼げるお仕事はないかしら」



 相変わらずだな。

 お嬢様はにっこり笑ってファイルを開き、指さす。



 おい、お嬢様。それ、やばいやつッスよ!?



「へぇ~。地下に潜む盗賊ギルドな悪い子ちゃん達の解体か。面白そうね」



 見かねて言ってやった。



「おいおい、やめておいた方がいいんじゃねぇのか? 敵は団体ギルドさんだ。しかも国の目をかい潜って堂々と商売をしている手練れ集団。そんでもって推奨レベル150以上の高イベだぜ?」



 リアは俺の方を見て、なんか妖艶に目を細めた。

「だから、なんですか?」


 だから、なにって?

 だってお前、楽な仕事したかったんじゃねぇのかよ?

 そー言ってたじゃないか。

 それ、まーまー、ハードだからね。

 もう絶対に手伝ってやらねぇぞ。



「ふふ、しげるちゃん。心配してくれてありがとう。でも大丈夫。困ったら、カッコいい神様が助けてくれるから」



 は?

 なんだと?


 あんた、もしかして、敢えて困ろうとしているのかよ?



 ……やめてくれよ。



 リアは優雅に踵を返して手を掲げると、瞬間移動魔法アナザーワープを詠唱してどっかに行った。



 はぁ~。溜息しかでねぇ。



 ちなみにリアが初登場時に受けちまったブラックドラゴンの生贄の仕事――

 あれ、どーなったと思う?

 

 

 業務内容:竜の生贄。

 

 山林に囲まれた国――エルファランドに突如現れた巨悪な闇の竜が、生贄を要求してきた。

 まーつまり、生贄に扮した美女ドラゴンバスター派遣業務ってやつ。

 

 

 結局、俺とリアで片付けることになったんだ。


 巫女に変装して、ブラックドラゴンを返り討ちにするハード設計なミッションだ。

 近くに潜んで加勢も考えたが、どうもブラックドラゴンは慎重らしく、約束を反故すると怒り狂う仕様らしい。

 めんどーなやつだが、ここは俺が抑えておくしかねぇと思う。




 深い谷の道が続く山間やまあい


 巫女に変装した俺とリアは、棺に入ったままブラックドラゴンの指定した場所でスタンバっていた。




 しばらくして、風が吹き始めた。

 風はだんだんと強くなる。


 どこともなく不気味な声が轟く。


「グフフフフ……」



 そう笑いながら、奴は俺の棺を開けた。



 こいつがブラックドラゴンか。

 とてつもないドでかい図体をしている。


 でも、どうしたのだろう?

 髭を垂らした大口を開けたまま、固まっている。


 奴は、なんと「チェンジ」と言いやがった。

 そんでもってブラックドラゴンが怒鳴りつけてくる。


 その声で空気が揺れる。

「なんだ、お前は! 誰がオークを差し出せと言った!!! うぐぁ! 目が腐る!」



 ――誰がオークだ!



 間髪入れず、『時空魔法クイックタイム』を詠唱してやった。

 一時的に時の流れが急上昇して、高速に動ける効果がある。

 だけどこれは、使うときには要注意が必要な魔法だ。

 だって俺の魔力は1兆。

 通常なら、スロータイムをかぶせて微調整するのだが、そいつを素で容赦なくブラックドラゴンへ向けてぶっ放ってやった。




「なんだ、なんだ。目が痛い。見えなくなる。体がしんどくなる。なんだ、この気怠い倦怠感。もしや醜い豚を見たせいか。豚め! よくも! ごほん、ごほん」と超早口で言いながら咳き込み、みるみる老衰していき、あっという間に寿命を全う。


 その場に崩れ落ちる。






 リアも棺から出てくる。




「??? ブラックドラゴンは、どうされたのですか?」


「寿命のようです。その生涯をまっとうされ旅立たれました」







 そんなことがあった。

 まぁ、楽しい毎日ではあるんだよ。



 でもね……

 きっと誠司さん、忘れていると思う。

 会社をするときにした、俺とした約束を。



 完全にこの街に根を下ろしてまったりしているが、果たしてそれで良いのだろうか。

 誠司さんは王様になるべき人だ。

 そして俺は、その黒子になると誓った。

 お嬢様のしつけをやりつつ、彼らは大いなる世界へと旅すべきではないのだろうか。



 この世界は悪の特記事項を武器に好き勝手やっている輩が、あまりにも多すぎる。

 この世界にやってきた初っ端から人さらいと出会い、次にはカジノを使って好き勝手やっているサイコ野郎。そんな奴らが束になっている謎の黒い集団――『オルドヌング・スピア』までいて、更に俺以外にも絶対神が何人かいる……。

 


 こんなところでのんびり慈善事業なんてやっている場合じゃねぇんだぞ。



 だから今日こそ言ってやる。

 王になるための冒険を、再開させましょうと。


 

 俺が決意をして立ち上がったその時だった。

 誠司さんがオフィスに帰ってきた。

 なんだか真剣な顔をしている。



「しげるさん。ちょっといいですか?」

「実は俺も誠司さんに話があります」



 ちょっとだけ重たい空気に、みんな黙り込んだ。



「場所を変えましょうか?」

「はい」



 会議室に移動した。

 


「……しげるさん。安心してください。僕はあなたとの約束を忘れてはいません」



 それが最初の一声だった。

 そして重たい沈黙を溶かすかのように、ニッコリと笑った。


 良かった。

 誠司さんは覚えていてくれたんだ。



「そして時が来たと判断したので、しげるさんにご相談しようと思い、こうしてお時間を頂きました」



 そうでしたか。安心したよ。



「本題に入る前に、見て欲しいものがあります」



 誠司さんが指差したホワイトボードを見て、俺は言葉を失った。

 



 なんだ!?

 あの痛い物体は!?



 ホワイトボードには黒い文字でデカデカと、『勇者戦隊★ファイティーンファイブ』と書かれてある。


 更に下には……


 勇者レッド……不屈なる紅蓮の魂:アルディーン

 聖女ピンク……太陽の聖女:エルカローネ

 悪魔ブラック……闇の閃光:悪魔っ子

 ナイトシルバー……彷徨える月影:ジークシュナイダー

 ブルータンク……鉄壁の巨兵:ゲール・ウォーリア



 えーと……

 ゲール・ウォーリア??

 誰、その新キャラ??




「しげるさん。ちゃんと僕との約束を守ってくれて、ありがとう。

 今まで僕の正体を秘密にしていてくれて、心から感謝します。まずそのお礼を言わせてください」




 ……えーと。

 約束ってそのこと???



「この国には悪党が多すぎる。だから僕はこの国を守るために、正義の戦隊を結成しようと思っています!」



 なんか手を握りしめて、力強く宣言しているし……



「そのためには、選ばれし5人のヒーローが必要なんだ。4人まではすぐに見つかったけど、どうしても今日に至るまで、5人目となるスーパーヒーローを見つけることができなった……。僕は毎日、足を棒にして必死になって探していた……」



 左様でしたか……。



「だけどよく考えてみたら、5人目はほんの身近にいることに気付かされたんだ」


 

 そう言うと誠司さんは、青い帯を手渡してきた。

 二つの穴が開いている。

 えーと、これは……



「しげるさん。これを顔に巻いてくれませんか?」



 言われるがまま、俺は顔に巻いた。



 誠司さんの持ち出した手鏡を覗く。

 なんか怪盗団にいそうだな。



 ……って!?

 嫌な予感しか、しないんだけど……


 誠司さんは俺の手を取った。


「ブルータンク。いや、鉄壁の巨兵、ゲール・ウォーリア!! 僕に力を貸してくれませんか?」



 え??

 ゲール・ウォーリアって俺?

 そして俺だけ二役?

 いやなんですけど。


「実を言いますとね……」

「はい」


「名前なんですが、ブルータンクの前はガチタンクにしようと思っていたんです。でも一人だけ色がないのはおかしいと思い、ガチブルーに書き直したんだけど、どうもしっくりこなくて、結局ブルータンクにしました。でも、しげるさ……いえ、ゲール・ウォーリアが、ガチタンクが宜しければ……」



 再びホワイトボードを見た。

 ブルータンクの事だけ、妙に黒ずんでいる。

 たくさんの時間を使って考えてくれたようだ。

 ここは、ありがとうと言うべきか。



「ブルータンクで大丈夫です……。ですが、あのですね……」


「はい?」


 俺はあの事を言おうとした。

 でもどう言えば、一番伝わるのだろうか。

 裏切らない特記事項があるから、それを利用するという手もあるけど、本人がその気になってくれなきゃ、この冒険の意味がない。

 きっとこの人、欲や野望といった自分の欲求はもちろん、名誉の為でも行動しないんだろうな。


 燃え気分が上がった時の行動力は半端ないけど。

 なら、そっち系でいくか。



「一つだけ約束してください」


「なんでしょうか?」


「世界の平和を守ると」


「もちろんです」


「約束しましたね?」


「はい。僕は絶対に裏切りません」


「よっし! ではこれから世界へ向けて冒険を始めましょう。では旅支度をしましょう!」


「え? え?」


「さっき約束したではないですか? 世界の平和を守ると」


「え。あ……」


 言葉を詰まらせた誠司さんだったが、俺をまっ直ぐ見つめると、

 

「……さすがです。しげるさん。

 会話を続けながら、そのように持っていくとは……。

 僕もちゃんと覚えていました。あなたと誓った言葉を……。

 あなたは僕に王を目指せと言いました。でも、今でも思うのです。正直、僕に王の器があるとは……。僕は権力者には……」


「これからたくさんの国を歩き、たくさんの王様に会いましょう。そうすると何か見えてくるような気もします。それで嫌でしたら、俺はもうこれ以上、言いません」



「……分かりました。ガチタンク」



 えーと。

 ブルータンクだったのでは?



 その時でした。

 戸がノックされた。


「誠司さんにお客様です」



「やばい、ガチタンク! 聖華さんだ。さっきまでと服装が同じなので、正体がバレてしまう可能性がある。早く変身を解くんだ!」



 えーと。

 目に巻いた布を取ればいいのね。



 聖華さんが会議室に入ってきた。

 ホワイトボードを見た途端、妙に目をキラキラさせているよ。




「勇者戦隊ぃ?? ファイティーンファイブぅ?? 太陽の聖女エルカローネぇ!? これはいったい何ですか???」


「えーとですね……」と慌てる俺の肩に、誠司さんはそっと手を置いて落ち着いた表情で口を開いた。


「彼らはこの世界の平和を守る謎の秘密戦隊です。

 実は僕も数度助けられたことがあるんだ。

 こっそり僕は調査して、なんとかコンタクトを取ることに成功した。

 僕達の会社は彼らのスポンサー企業になろうと思っている。僕達が出した利益を、正義のために使って貰いたくて。そのことで、しげるさんと相談していたんだ」


 

 すげーよ。この人。

 咄嗟の機転で、こんな返しができるなんて。

 さすが元社長。


 聖華さんは手を挙げた。


「はーい。はーい。賛成です。私もスポンサーになりたいです。二人とも、ちょっと怖い顔をしているから心配していました」


「そりゃそうさ。僕たちは真剣な気持ちで会議してたんだから。だってスポンサーになるためには、最初に一番の難関がたちふさがってるじゃないか?」


「えーと、資金的なことですか?」

「それもだけど、もっともっと重要なことさ」


「えーと、、、分かりません」と、お嬢様は首をかしげる。

「勇者戦隊の主題歌の作成だ! 登場時に盛り上がるかどうか、すべては主題歌にかかっていると言っても過言はない!」


 えー!?


 お嬢様はにっこり「わかりましたー」と手を上げる。


 マジか。

 分かったのか。

 つーか、もしかしてこの人、変身して戦うだけじゃ飽き足らず、登場時になんか歌う気か!?


 とりあえず確認してみた。

「それ、みんなで歌うの?」


 誠司さんは、親指を立てて眩しすぎる笑顔。

 ガチだ、この人。

 とにかくこれ以上、この話題は危険だ。


 俺はお嬢様に、

「ところで、お客様はどんな方なんだい?」と話題をすり替えた。


「あ、そうでした。えーとですね。ヴィスブリッジで働いてくれている子なんだけど、なんかとても慌てている様子で……。誠司さんに相談があると……」


「分かった。すぐ行く!」



 俺と聖華さんは、とりあえず応接間で待つことにした。


 応接間--かつて梶田が商談に使っていたあのゴージャスだった部屋なのだが、一変。


 天井にあったいかついシャンデリアは涼しげな直管の蛍光灯に……ってこの世界には蛍光灯ってあったのか!? エネルギー源は? まーいっか、洞窟内に冷蔵庫もあったことだし。そして四方の棚にあった高級ワインやウィスキーは書籍へと、清潔感溢れる空間へ様変わりしていた。

 



 しばらくして誠司さんが戻ってきた。



「何か大変なことでもおきましたか?」

「はい、緊急の案件です……。すいませんが、迅速に準備を! 説明は道中で追々……ですが……」


 そこで一呼吸を置いて続けた。


「おそらくは今回の敵は、例の『組織』です」



 ――組織……『オルドヌング・スピア』か……


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