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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第一章 新たなる人生の幕開け
4/78

4 街

 ゴブリンの一団を退治した後、街とやらへ向かった。

 俺はみんなの数歩後ろを、黙々とついていった。

 楽しそうに各々の武勇伝を語っている。


 誠司さんは話の輪に誘ってくるが、その都度、苦笑いを返した。

 


 歩くこと4時間弱。

 ようやく高い城壁が見えてきた。

 大きな門を潜ると、レンガ造りの家が並んでいる。

 いわゆる中世西洋風造詣ってやつか。

 

 少し歩くとファーストフード店なんてのもあった。

 看板にハンバーガーのイラストが描いてあるからすぐに分かった。

 時代概念の垣根をすっ飛ばして、俺の好きなジャンクフードまであるなんて、とても助かる。


 戦った後、何時間も歩いたのだからみんな腹ペコなのだろう。

 三人は顔を見合わせて頷き、頬を緩めると、店内に走っていく。



 俺はその様子を、細くした眼差しで眺めていた。



 悪い連中ではなかった。

 誠司さんはいい人だったし、聖華さんの可愛いらしい一面も垣間見ることができた。

 結局ロリっ子の名前は聞けずじまいになったな。

 ごめんな。

 君は俺の中では、ただのロリっ子で終わっちまったよ。


 ここでさよならだ。

 俺はピンでいくと決めている。

 誰の世話にもならないし、誰も世話しない。

 今はまだ、冒険が始まったばかり。不安だから必然的に助けあっているが、いつかは絶対に喧嘩したり裏切ったりするんだ。

 第二の人生では傷つきたくない。自信を持って生きていきたい。


 ……ふふ、ついつい愚痴ってしまったな。

 それよりか、早く1万以上金が手に入る所に向かわなくては、飢え死にしてしまう。


 そんなこんなを考えながら踵を返すと、背中からクーデレの声がした。


「貧乏なしげるさん」


 貧乏は余計だ。

 まぁ今の俺は、あんたより貧しいけど。


 振り返ると、聖華さんはハンバーガーの包みを持っていた。

 その一つはかなりデカい。

 サッカーボールくらいある。

 見かけによらず、よく食うんだな。


「先程、弦を張ってくださったお礼ですわ。ありがたく受け取りなさい」

 とデカい方を俺に差し出してきた。


 彼女なりのお礼なのだろう。

 テリヤキソースのうまそうな匂いに、腹の虫がグーグーとなる。

 誘われるように手を伸ばした。

 ハンバーガーを受け取ろうとした瞬間、

 

 ぐはぁああああああああああ!!!!!!

 

 全身にズドーンと電撃が走った。

 それはいてぇってもんじゃねぇ。

 反射的に身を仰け反り、股間を蹴り上げられたように悶絶した。



 受け取る瞬間、聖華さんの指に触れちまったのか。

『女の子の肌に直接触れたら、1秒間でHPの1割が消耗』が発動したようだ。

 ステータスを覗いてみるとやはりそうだ。

 HPの最大値は581兆。

 その一割となると、約58兆。

 あんたに軽く触れると、そんなにダメージを食らうのか。

 

 HP初期状態は25だった。

 仮に一般人の生命力を25と例えると、今、2兆人死んだ。

 世界中の人口を足しても、たかだか72億人なのだぞ。

 あんたの軽い一撃で、地球規模の惑星が300近く消し飛んだことになる。

 まさに神々との戦いだ。

 

 ぶつかった指先をさすりながら、破壊神の顔をみた。

 どういう訳か、恐ろしい形相でこちらを睨んでいる。

 


「ねぇ。どうして折角私が差し上げたハンバーガーを、私の目の前で堂々と道端に叩きつけたんですか? まだシャツを受け取らなかった事を根に持っているのですか?」


 いえ、そんな遠い昔の話、とっくに忘れておりますが。

 それに捨てるなんて、そんな大それた事しません。

 でも確かにそう見えるか。

 地べたには、べっちゃりとハンバーガーがへちゃげているし。


 あ、聖華さん、今にも泣きそう。目が真っ赤だ。


「ごめんなさい。聖華さんがあまりにも美しいので、緊張したあまり腕が勝手に」

 本音だったらとても言えないけど、いい訳ならすんなりと言える台詞でごまかしながら、へちゃげたハンバーガーを拾って、口に運ぼうとした。

 ばっちいけど、仕方ない。


「……そうでしたか。こちらこそ、すみません。確かに私は美しいと思います。あなたのような不細工な男性が死にそうなくらい緊張しているという点にまで、心配りが至らなかったことを深く反省します」


 すげートゲがあるんですけど。

 とにかく誠意だ。誠意を見せてやれ。

 かつての俺はトップセールスをキープしていた。

 怒らせた客の前では何だってしてきた。

 ってなんで、こんなクーデレなんかツンデレなんか属性がよく分かんねぇお嬢様なんかにご機嫌取りなんてやっているんだ、俺は。

 くそう。早くソロになりてぇぜ、と思いつつも口をつける。


「ばっちいので食べないでください。こちらを差し上げますから」

「え、それでは聖華さんのが無くなってしまいますよ?」


「いいのです。私はお金持ちですから。また購入してきます」


 お金持ちって、600riraしかないんでしょ?

 さっき使ったから、あんたの残金がいくらか知らないけど、それって序盤で貰えるおこずかい程度だと思うよ、きっと。

 だから苦笑いをしてみせた。

 さすがに受け取れないよ。こう見えても、俺、絶対神だし。

 それに君ってかなり天然でしょ?

 そんな身勝手に振る舞っていたら、こんなサバイバルの世界では早々に死んじゃうよ?


「やはりあなたは、私からは物を受け取らないスタンスなんですね」


 え、そう捉えちゃう?

 もしこの子を怒らせてビンタでもされたら、58兆のダメージを食らっちまう。

 くそったれ、早く全身を隈なくガードできるフルメイルみてぇな重装備を手に入れないと。

 


 仕方ないので、

「ありがたく頂戴します」

 と、彼女の指に触れないように慎重にハンバーガーを受け取り、「ありがとう」と頭を下げた。

 

「これくらい、いいのです。しげるさんは矢を見つけて、こっそりと傍に置いてくださったのですから……」

 

 そう言うと、600rira未満しか持っていない自称お金持ちのお嬢さんは、ニコニコしながらまたハンバーガーを買いに行った。



 ――この子、何も知らない天然温室育ちだと思っていたけど……

 ……気づいていたのか。

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