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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
閑話1(ヴァレリア公国での日常)
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6 手紙

 ここは正義の派遣会社ヴィスブリッジ。


 事務所では、誠司さんがなんだか嬉しそうに手紙を読んでいる。

 きっと良い知らせなのだろう。

 ここのところ色々と働き尽くめだし、そっとしておこうと思い、踵を返そうとした。



 背後に気配を感じた。

 俺は小声で問う。



「リーズか?」

「はい」


 この登場シーン。やばいことが起きた時のお決まりのパターンだ。


「どうした? 近くに特記事項のやばい奴がいるのか?」

「はい、それはあの手紙です」



 ――手紙?



「……何が書いてあるんだ?」


「恐ろしい内容です」


「……罠か?」


「そういった次元を遥かに凌駕しています。あまりにも恐ろしい……。あの手紙は一刻も早く破棄させなければなりません」



 なんだって!?



「そしてあの手紙自身が転生者なのです。有効特記事項読み上げます。ボクは――」



 そこで声が途切れた。

 どうしたんだ? リーズ?



 振り返るとリーズがいない。

 足元には、リスのイラストが入った可愛らしい便箋用紙が落ちている。


 俺は手紙を拾った。そこにはこのように書かれてある。


『すいません。あたしの解釈が甘かったようです。敵の特記事項精度を見誤ってしまいました。あたしは手紙になってしまいました。これ以上、身動きが取れません。後はお願いします。誠司さんを守ってください。一刻も早く、あの手紙を破棄させるのです』




 これは、リーズが残してくれたメッセージなのか?

 つまり最後の助言!?



 ――なんてことだ……

 この手紙、かなりヤバイ奴のようだぜ。


 すぐさま破り捨てるか!?

 だが。

 このまま手紙を破棄させて、果たしてリーズは元に戻れるのだろうか?

 


 ギリギリまで接触して、様子を見るしかねぇようだな。



 俺は平然を装い、誠司さんに声をかけた。



「嬉しそうですね。その手紙、なんて書かれてあるのですか?」

「……あ、いや……。なんでも……」


 誠司さんは手紙をさっと畳んで隠そうとしたが、


「そういえばしげるさんは、僕の正体をご存知でしたよね」


 え、えーと……?


「実はですね。これはヒーローギルドからのお誘いの手紙なんです」


 満面の笑みを浮かべて、そう答えた。


 やばいぞ、誠司さん!

 それは手紙ではない。転生者だ。

 だから、これは――


「誠司さん。きっとそれ、罠です!」


「……しげるさん。ご忠告ありがとうございます。でも仮に罠だとしても、僕は行かなくてはならない。罠を仕掛けるということは、差出人は悪党ということ。僕は悪と戦う宿命にある。もしそうでなければ、それはそれで折角誘ってくれているのだから断るのは申し訳ないですし。どちらにしても、僕に後退はないのです」



 そう言って誠司さんは身支度を始めた。

 お、おい……!

 どうしたらいいんだ?

 どうすれば、この弱点だらけのスーパーヒーローを救えるのだ!?


 手紙の正体が転生者であることを伝えてやりたいが、相手の能力が分からない状態で動く訳にはいかない。もし下手に口にするとリーズのように手紙になってしまうかもしれないのだから。


 くそったれ!

 

 思わず机を叩きそうになっちまったが、机は悪くない。

 それに俺の攻撃力は神クラス。地中深くまでドデカい穴が空いちまう。

 だからグッと堪えた。

 

「あ、そっか。もしかしてしげるさんも本当はヒーローギルドに行きたいんですね?」



 いいえ、まったく。



「よかったらご一緒しませんか? みんなに紹介しますよ。しげるさんにもヒーローの資質がある、と」


 折角のご親切ですが、ガチで遠慮したいです。


「はーい! 私も行きたいです!」


 お嬢様までやってきた。

 面倒なことになってきたぞ。

 てか、あんたら、自分にヒーローオプションがあるってことは内緒だったのでは?


「ところでヒーローギルドは、どこにあるんですか?」と聖華さん。


「うーん、実はこの手紙には場所まで書いていないんだ?」


 しめた!


「あの、良かったら見せてくれませんか? 俺、元探偵なので何か分かるかもしれません」


「あ、そうでしたね。お願いします」


 誠司さんから手紙を受け取った。

 俺は部屋の端まで行き、小声で手紙に話しかけた。


「おい、手紙よ! てめぇ、いったい何を企んでいる? てめぇが転生者ってことは、知っているんだ。もし変な事をしてみろ? 俺の体に異変が起きたと同時にビリビリに破ってやるからな。俺の素早さは神クラスだ」


 手紙の表面には、今までの文字がスゥと消え、新たな文字が浮かび上がった。


『……えっ、えっ、急になんですか? 苛めないでください……』

 

 俺の言葉が理解できるようだな。


「まずリーズを元に戻せ」


『……元に戻す?? え、え、えーと?』


「てめぇがリーズを手紙にしちまったんだろうが! それを戻せと言っているのだ!」


『何もしていませんよ……。だから苛めないでください』


「苛めるも何も、てめぇが先に異能かなんかで攻撃してきたんだろうが!」


『え? え? ボクは、どうも自分の能力がよく分からないのです』


 こいつの特記事項が発動したから、リーズは手紙になったんじゃないのか?


「お前の特記事項はなんだ?」


 何か異変が起きたらすぐに対処できるように、空いている左手を皆の死角になるように後ろに回して魔法の詠唱も始めている。


『え? え? え? え?

 ととと特記事項には――

 ボクは人の顔を見て話すことが苦手。でも手紙を通じてなら何とかやってこられた。だから誰とでも自由に意思の疎通ができる、純粋な手紙のようになりたい。

 手紙だったらゆっくり考えられるし。

 でもやっぱ、人前にでるのは怖いな……。

 悪口を言われるのも怖いし……。

 内緒にしている趣味だって多いし……。

 ボクのことを陰で悪く言う人達は、ボクの立場になって、ボクの気持ちを理解して欲しい。そして手紙を通じて、真の友達になりましょう。

 ――と、書きました。まさか自分自身が手紙になってしまうなんて……』



 こいつの負荷は話せない。

 そしてスキルは、奴の特記事項を陰で悪く言うと……か。



 なんか微妙なスキルだな。

 だが、これに、リーズはやられてしまった。

 

 リーズは手紙の特記事項を俺に教えようとした。

『ボクのことを陰で悪く言う人達は、ボクの立場になって、ボクの気持ちを理解して欲しい。そして手紙を通じて、真の友達になりましょう』というくだりが反応して――つまり手紙になった……ということか。



 小声で告げた。


「安心しな。リーズはお前を苛めない。陰口を言うつもりもない」


『リーズって誰? 誰かボクを苛めていたの?』



 お、おい!?

 お前がリーズを手紙にしたんだろう?



 あ、こいつ、自分の能力がよく分かっていないんだっけ。

 リーズ手紙を見た。

 リスのイラストがある可愛らしい便箋用紙なのだが、なんだか黒いオーラが満ち満ちている。呪いの手紙級の威圧感がある。

 どういう訳か、こっちまで身震いしてしまう。



 リーズ手紙に「俺に考えがあるから、何もしなくてもいい。殺気を消してくれ」と告げて机の陰に置いた。すると、リーズは元の姿に戻った。

 

 

 

 この手紙野郎、本人はまったく自覚のないまま、スキルを暴走させていたのか。

 迷惑な野郎だぜ。

 

「しげるさん。ヒーローギルドの場所、分かりましたか?」

「あ、えーと。もうちょっとです」


 俺は手紙に視線を戻した。


「おい、手紙! なぜ誠司さんに近づいた? あんたの目的はなんだ?」


『あ、えーとですね……。ここの社長さんが特記事項で失敗した人達のために人材派遣の会社を作ったって新聞になってしまった転生者から教えてもらって……。だからここに来たのです』


「そこまでは分かった。ちょっぴり同情もしている。だけど許せないのは、あんたが誠司さんを騙そうとしたことだ」


『え? 騙すも何も、ボクは素直な気持ちを手紙に込めただけです』


「なんて書いたんだ?」


『誠司様へ。

 あなたはヒーローです。いえ、ヒーローになるべきお人です。だからボクを見つけてください。ボクはここにいます』


「は? マジでそれだけ?」


『はい。ボクの体は手紙なので、一字一句間違うことなく文字を複写できます』


 誠司さん、あんた。これをどう読んだら、ヒーローギルドからのお誘いになるんだよ?

 いや、あんたがヒーローギルドへ行きたい燃え気分だけは、よく分かったよ。


 そしてリーズが脅威を抱いた意味もね。

 確かにこれは、恐ろしく危険なメッセージだ。

 誠司さんがその気になる前に、さっさと破棄しろって気持ちが、よく分かるぜ。


 聖華さんもワクワクした目で誠司さんと話しているし。


「ヒーローギルド。どんなところか楽しみですね!」


「そうだね。謎の力を隠し持った伝説のヒーロー達がたくさんいるに違いない。きっと僕たちは、今、試されているんだ!」


「そうですね!」


 お、おい。

 ヒーローとヒロインは、変身後のあんたらでしょ?


 はぁ……。


「おい、手紙。可哀そうだから、ここで雇ってやってもいい」


『え、本当ですか! うれしいです!』


「その前に入社試験だ。あの二人の哀れなスーパーヒーローに、ヒーローギルドなんてないことを教えてやれ」


『え? え?』


「大丈夫だ! お前は手紙の中の手紙。キングオブレターだ! 文字の力で、真実を伝えることができる天才だ……と思う」


 手紙にそう告げると、誠司さんの方に振り返った。



「すいません。さすがにこれだけだと情報が少なすぎて分かりませんでした」と言って、手紙を返した。



 さぁ手紙よ!

 見事試練を乗り越え、誠司さんにかけられたヒーローという名の呪縛から解き放つのだ!


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