1 ブサメン罪
こんにちは(^^)/ ここまでお読みくださいまして、本当にありがとうございます。
閑話としまして、4話程度、ショートストーリーを挿入します。
ヴァレリア公国でのちょっとした日々の物語になります。
(読み飛ばして頂いても、今後の展開に支障はございません)
俺は心地よい陽だまりのもと、街中をぶらぶらと散策していた。
ヴァレリア公国は今日も平和だ。
「おい、そこのブサメン!」
俺は鎧を着こんだ憲兵の一団に取り囲まれてしまった。
団長らしき髭づらの男が俺を指差してきた。
「極悪な人相だな。どう見ても犯罪者だ! 人さらい、強盗、強姦、殺人、一通りして、尚、悪事を働こうとしているのだろう。俺には分かる! 者ども取り押さえろ!」
「お、おい。なんだよ。それ! ちゃんと犯行を見て言っているのか?」
「だから言っているだろう。お前は犯罪者の相をしているのだ。悪人のオーラを全身にまとっている!」
ざけんな!
なんつー屁理屈だ。
かつて俺の人生を狂わせたあの事件でも、もうちょっとそれっぽい理由があったぞ。
ムカつくおっさんだ。
まぁ、いっか。
捕まってもどうとでもなる。
暇だったのでまったく抵抗せず、捕まってやった。
手かせをはめられ、連行された。
俺を捕まえた憲兵は笑いながら、「やったぜ。10人捕縛。これで俺は憲兵長に昇格できる!!」と嬉しそうにはしゃいでいる。
なるほど、そういう理由だったのね。
俺がいるってのに、聞こえないと思ってまだ話を続いている。
一応ヒソヒソ話でやっているが、俺の聴力はかなりのものだ。
ちょっぴり意識を耳に集中するだけで聞こえてくる。
「オオイタ隊長。ところで、この者の悪事は何なのですか?」
「知るか」
「えー」
「ククク。どう見ても悪党面の豚じゃねぇか? 後で適当に調書を作成しても、上に疑われることはない」
「えー、いいんですか? 先輩」
「絶対に言うなよ! 俺が昇進したら、おごってやるから」
「やったー!」
なんだよ、ここは。
捕まった者からすれば、たまったもんじゃねぇぞ。
はぁ~。
この国には、まともな法律がないのか。
この施設は、後程爆破決定だな。
俺は事務室で装備を没収されて、簡素でちぃと臭う囚人服を着るように命じられた。
そして鉄格子の中へとぶち込まれた。
汲み取り式のトイレが、むき出しの状態であるだけだ。
雑誌くらい置いていないのかよ。
これでは余計暇になってしまう。
この際だからステータスをしっかり確認しておくか。
壁を挟んだ隣の牢から、何やらヒソヒソと話し声が聞こえてくる。
聞き覚えのある声だ。
ちょっぴり懐かしく、そして結構ムカつく声をしている。
「恭史郎さん、決断してくださいましたか?」
――恭史郎!?
あ、思い出した。
人さらいをやっていた海賊風のおっさんか。
俺は小指の先で、壁をゆっくりとついた。
極小の穴が開く。
そこから中の様子をうかがった。
お、恭史郎だ。
俺と同じ縞模様の囚人服を着ており、あぐらを組んでいる。
ちいとは反省したのかな?
その隣に座っている色黒の男が、何やら熱心に話しかけている。
「恭史郎さん! 恭史郎さん!」
「なんだ? なんだ? 面倒な奴だな……。新入りよ、てめぇ、名前はえーと……」
「黒田です。先日お話したあの件ですが、考え直してくれませんか?」
「……先日? ……あぁ、確か脱走の話だったな……」
「恭史郎さん。あなたは裏の世界では、かなりの切れ者と噂されていた。いつまでもこんな所にいるような方ではありません。私は捕まる前は、小さな盗賊団の頭をやっていました。素早さと器用さには自信があります。あなたと私が組んだら、脱走なんて容易にできます。そして、その後は結託して……」
恭史郎は、なんともやる気のない顔で、気怠そうに耳くそをほじっては、ふぅと息で飛ばした。
「……黒田だったな。お前は知らねぇのか? この世には、正義の勇者ってのがいるんだぜ?」
「なんですか?? それは?」
「もし俺が再び悪事を働くと、必ず奴は現れる。そして正義の鉄拳を下す。奴はそう約束をして立ち去ったんだ」
もしや、そのお方とは――
恭史郎は黒田に顔を向けると、声を一段と落とした。
「不屈の勇者、アルディーンよ」
ですよね。
「その人は強いんですか?」
「強いってもんじゃねぇよ。必殺技は、高速の聖なる稲妻、オーロラ・シャイニング・レスティネーションだ」
「……よく分かりませんが、あなた程の人が言うのですから、相当の手練れなのでしょう。ちなみにその人は転生者ですか?」
「あぁ、そうだ、転生者だ。変身までするが、奴は地球からやってきた正義の味方だ。そして初心者の連中を引き連れて、冒険ごっこをしていた」
「ごっこ……ですか?」
「おうよ。てめぇは強いのに、どういう訳か弱い奴らに交じって冒険をしているんだ」
「……それに何の意味が?」
「知らねぇよ」
「でも、先ほどの話に面白いくだりがありましたよ」
「ああん?」
「変身する……。つまりそれは特記事項の恩恵ですよね?」
やべぇな。黒田は結構カンがいいみたいだ。自信に満ちた表情で話を続ける。
「ふふふ、特記事項に特別な能力を書き込むには、それ相応の代償が必要です。何かあるハズですよ。アルディーンの決定的な弱点が」
「そういえば、あの野郎、妙なことを言っていたな。確か……絶対に誰も裏切らない、そう誓って必殺技を手に入れたらしい」
黒田は大笑いを始めた。
「ククク。アハハハ。なるほど、それはいい事を聞きました」
「どうした。何がそんなにおかしい?」
「恭史郎さん。あなたと私が組んだら、100%勝てます!」
「それは、どういうことだ!?」
「裏切れない――それが奴の弱点です。だからそこを逆手に取ればいいのです」
やばいぞ。アルディーン。こうなったら、今すぐ俺が、この壁をぶち破って、2度目の熱い鉄槌を……
と思い、行動しようと思ったその時だった。
恭史郎の目つきが急に鋭く変わった。
そして黒田を睨みつけ、胸ぐらを掴んだ。
「え、恭史郎さん!? ど、どうされたんですか?」
「アルディーンを甘く見るんじゃねぇ!」
「甘くなど見ていません! 私の考えた作戦はこうです。人相の良い悪党仲間に金を渡して、アルディーンのパーティに入って貰います。そうすることによって裏切れないという特記事項が発動するので、寝込みを襲い……」
「ククク。やはりその程度か。そんな幼稚な策で、アルディーンに勝てるとでも思っているのか!? 奴はすぐに裏切ってしまうようなくだらない輩を、崇拝者にしてしまうくらい大きな器を持っているのだ」
「――と、いいますと?」
「あの野郎は、いじきたない心を持った醜い豚まで改心させて味方にしているのだ。見た目はオークのような化け物なのに、俺が金や女をちらつかせていくら誘惑しても、まったく動じないんだぞ!」
――それ、もしかして俺?
「どうしてアルディーンは、傍に危険な者を置くのですか?」
「簡単よ」
黒田は恭史郎の答えをじっと待っていた。
恭史郎は、右の頬でニヤリと笑った。
「それだけ奴が強ぇってことだ」
その言葉に、黒田は言葉を失ってしまった。
恭史郎は肩でひとつ笑う。
「ふふ、まぁ、俺だっていつまでもこんな汚ねぇ場所に居ようとは思っていない。だが、それは打倒アルディーンの戦略を立ててからだ」
黒田はコクリと頷いた。
「まずはオーロラ・シャイニング・レスティネーションの攻略から考えなければならない」
「その技の特徴は?」
「高速とかいうわりに、えらくのんびりとしたパンチだった。あれこれと大げさな動きをしていた。当たっても痛くねぇかなって錯覚しちまうくらい、スローなパンチだった」
「……もしかして意外と弱いんじゃないんですか?」
「ざけんな! じゃぁどうして俺がここにいるんだよ! アルディーンはめちゃくちゃ強ぇんだよ!」
「すいませんでした。アルディーンは強いです。では、オーロラ・シャイニング・レスティネーションの攻略から考えてみましょう。パンチはゆっくりなんですよね? なら、回避すればいいのではないでしょうか?」
「黒田、てめぇは全然甘ぇよ。アルディーンには、まだまだたくさんの必殺技があるんだぜ? 他の悪党仲間から聞いた話だが、その他、レッドカッターや紅十文字砲ってのがあるんだ!」
「なんですか? それは?」
「すべては謎のベールに包まれている。だが、ひとつだけハッキリ分かることがある」
「それは?」
「奴の怒りが頂点に達したとき、奴は黄金の光に包まれ、奇跡の勇者アルディーンへと覚醒するんだ。そして色々な奥義が使えるようになる」
「なるほど。でしたら変身前に速攻をかければ、もしかしてあっさり勝てるのでは?」
「……黒田、今、お前、何ていった?」
「あのですね……。変身前に攻撃を仕掛ければ、と言いました」
「……そっか……。そういえば、そうだよな。どうして俺たち悪党は、いつもヒーローが変身するシーンをきちんと待っているのだろう。変身時は隙だらけだってのに……。まったく気付かなかったぜ。アルディーンが怒る前に、やっちまえば……」
恭史郎はニカリと笑い、黒田の肩を叩いた。
「黒田よ、おめぇ、頭いいな!」
悪党共は熱い握手を交わした。
おいおい、打倒! アルディーン。ヒーローがプッツンして変身する前に倒してしまおう編が、今、始まろうとしているのか?
ほっとく訳にもいかねぇから、俺はしばらくここに居座ることにした。
だけどその日の夜、俺は無害だと判断して、牢屋からおさらばすることにした。
恭史郎が眠りについてから、幾度となくうなされているからだ。
「あーん。あーん。アルディーン、怒らないでよ。怖いよー」
きっと俺の想像を絶するくらいの恐ろしい夢を見ているに違いない。
そうそう、出る前に『アンロック』を唱えて牢屋から抜け出して、事務所を散策してみた。
俺を捕まえた憲兵の名前は、確か……オオイタだったな。
オオイタの事務机を見つけ引き出しを探してみた。
鍵をかけているようだが、俺には魔力1兆で補正された強力な『アンロック』があるので意味をなさない。
偽装した調書が、わんさかでてきた。
牢屋の壁にそれらをペタペタ貼り付けると、鼻くそを飛ばして壁をぶち破り、撤収した。
すぐにたくさんの足音が集まり騒がしくなる。
俺は屋根の上へと移動し、その様子をながめた。
「脱獄だ! 脱獄者が現れたぞ!」
駆けつけている憲兵の中には、オオイタの姿もある。
「あのブサメン。やっぱ、とんでもねぇ悪党だったな。ククク。どうよ、俺のカンは! 逃がしたのは看守の不手際だな。このことを上に提言して昇進してもらうぜ。これからもこの優れたカンだけで片っ端から捕まえてどんどんと極刑にしてやって、最速で獄長を目指すぞ。ククク、アハハハ」
――と、大はしゃぎしながら、俺がさっきまでいた豚箱へ向かっている。
そこには色々とおもしろい置き土産がある。
さて、どうなることやら。
もうちょっと騒がしくなるだろうけど、ここから先は俺の仕事ではないな。
俺はマントをひるがえすと、取り戻していた装備で身を包み、夜の闇へと姿を消した。




