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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第二章 異世界での起業編
32/78

32 絶対神カリナ

 片膝をついたリアの前にズラズラと勢ぞろいする伝説の勇者、太陽の聖女、地獄の使者……そして彷徨える月影の貴公子??? でいいのかしら??

 外見だけで判断すると、俺もヒーローご一行様といても違和感なしのようだ。



 聖華さんは、リアに向かって手をかざす。

 先程まで真っ青だったリアの顔色に、血の気が戻る。



 リアは、

「あなた方は誰ですか?」



 リアも気付けよ。

 昼間会っただろう?

 人材派遣会社ヴィスブリッジで受け付け&ジョブカウンセリングしていた聖華さんだよ。



 アルディーンはリアに手を貸して立ち上がるのを手伝うと、



「僕達は通りすがりの正義のヒーローだ。そして君もその資質がある。きっとヒーローギルドで噂にされるだろう」



 リアは頭に『?マーク』を3つほどつけて困惑している。

 って和んでいる場合じゃねぇ。

 

 取り囲んでいる敵共は、杖や手裏剣を構えてこちらを睨んでいるんだ。一触即発の緊張状態。

 海堂がギラリと大剣を月に向けて構えたのを皮切りに、総勢20人の黒い集団が襲いかかってきた。

 


「アルディーン。危ない!」



 アルディーンは腕を十文字に構え、「僕の拳が真っ赤に輝く。悪を裁けととどろき唸る。ゆくぞ! 必殺! 紅十文字砲!!」


 そして「ぬおおおおぉぉぉ!!」と咆哮を上げる。

 アルディーンの両腕は紅蓮に燃える。


 

 主砲――紅十文字砲。

 目標――不気味な巨大戦斧を持った2メートル以上の重装戦士。

 ファイヤ――――――――!!!!



『~砲』って叫んだが、それは飛び道具的奥義ではなかった。

 腕をクロスに組んだまま、一直線に敵に突っ込んでいったのだ。

 やばいぞ、アルディーン。

 あんたの防御力は限りなく低い。鎧だってねぇんだぞ。

 まさにこの奥義は、十死零生、さらば友よのカミカゼアタックだ。


 重装戦士は斧を横殴りに斬りつける。真空波がアルディーンを襲う。

 回避不能。

 アルディーンの右腕が吹っ飛ぶ。

 だがエルカローネの超回復で瞬時によみがえる。

 

 そのまま重装戦士を貫通。見事撃沈。



 海堂は目を丸くして驚く。

「な、なんだと!? レベル287の狂戦士タイプの城戸がたったの一撃でやられたなんて!? それに奴が放ったのは攻撃力999のデビルアックスによる真空斬だ。それが効かないなんて……。て、てめぇ、いったい何者だ!」



 いや、かなり効いているよ。一瞬で復活しただけ。

 しかしアルディーンは、カッコよく海堂を指さすと、


「フ、悪党に名乗る名などない。だが冥土の土産におしえてやる。人は僕の事をこう呼ぶ。さすらいの勇者アルディーン。地獄の鬼にあったらそう伝えておけ!」



 名乗るか名乗らないか、どっちかにしろよ。



 海堂は、

「おい、てめぇら。勇者アルディーンだけは要注意だ。気を付けろ。おそらくこのパーティで最強だ。弱いヤツから倒して数を減らしていけ。だれかレベルサーチできるものはいないのか?」



 忍者風の男が俺達をグルリと見渡す。

「頭に輪のある天使風の女が最弱。次にリア、その次は勇者アルディーン、そして……」



「お、おい、ヒエン。どうした?」



 さすがリーズ。

 地獄からの使者は仕事が早い。したたかに忍者風男の背後に忍び寄り、身の丈を超える大鎌で一刀両断に切り裂いたのだ。



「て、てめぇら!」

 誰かが叫び、その声で、乱闘が始まった。


 レベル100以上の乱戦は凄まじいものがある。

 木々は薙ぎ倒され、湖は蒸発。次々にクレーターが生まれる。



 しかしヤバイな。

 お嬢様が狙われている。




 リーズは横目で俺を一瞥すると、口早に話す。

「しげるさ……いや、ジーク……シュ……ナイダー……だったな。ここはいい。あいつを」



 リーズが見上げた先には、カリナ。

 奴は夜空に浮遊していた。


 あいつ、いつのまにか人差し指をたてて魔法の弾を生成していやがった。

 上空から狙い撃ちにするつもりか。


 俺の超視覚が、カリナの瞳孔を捉えた。

 仮面から覗く緑の眼球には、リアが映っている。

 最初の狙いはリアか。



 ―-もしかして何か恨みでもあるのだろうか。



 奴の視界はピクリとも動かないのだ。

 カリナとリア。レベル差は明確。天と地。神と人。

 それなのに、ターゲットを狙うスナイパ―の如くリア一点のみに集中している。



 ただの思い過ごしかもしれねぇ。

 

 と、とにかくだ。

 カリナの魔力は8京もある。

 軽く詠唱するだけで、リアは跡形もなく消滅してしまう。


 

 二つ潰した絶対神とまともに渡り合えるだろうか。

 とにかく最善を尽くすしかねぇ。

 カリナは魔道士系。だが20京のボーナスパラメーターをぶっこんでいる神クラスの大魔道士だ。その数字、俺の2倍。

 

 

 左手で素早くステータスウィンドを開く。



 残りボーナスポイントは、10京と飛んで、12634185100ある。



 いよいよこいつを使う時が来ちまったか。

 相手は魔力8京だ。それに魔法が乗っかる。つまり『ファイナルディスティネーション改2』を発動させると、仮に魔力1でも半径30メートル圏内が跡形もなく消滅する。そいつが8京倍になるのだ。木星の表面積が確か約600億平方キロメートル。たった一発で木星規模の巨大惑星が銀河のチリになっちまう。

 体力、魔法防御を上げた所で、とても防ぎきれねぇ。

 だったらぶっこむのは、これしかない。



 素早さに6京。

 攻撃力に1京。

 体力、防御力にそれぞれ5000兆をぶっこんだ。


 体力、防御力を鍛えたのは、ちょっぴりかすったり、魔法が炸裂した後の爆発に巻き込まれたりした程度で死なないようにだ。

 そして素早さ補正は、単に回避力増加だけではない。

 極度に早い素早さは、攻撃補正にもなる。

 猛烈に突進しながら一撃を決めることができれば、勝てるチャンスが生まれるはずだ。


 

 これで高速、いや神速のブタになっちまった。



 ボーナスポイント残:2京と12634185100

 これはどうするか……

 てか、もう時間がねぇ!



 そのまま地を蹴りカリナに突撃。

 地が大きく割れたかと思うと、視界が真っ赤に変わった。

 大気を削りながら、青い閃光と化して突き進んでいる。

 わずかな距離なのに長く感じる。

 まるで脳内に大量のドーパミンが発生して、目の前の出来事をスローモーションに感じるというアレのようだ。

 顔にぶつかる空気抵抗がデタラメに痛ぇ。

 移動するだけで、HPが削られちまう。



 詠唱が終わる前に、カリナの前まで躍り出た。

 風圧で奴の仮面が飛ぶ。 

 カリナの長髪が虚空で舞った。



 かつて出会ったカリナは、表情のないとぼけた口調の少女だった。そんなカリナが、鋭い眼光で俺を睨んでいたのだ。


「邪魔するな!」

 

 カリナの鋭い一括が空気を揺さぶる。指の照準は俺に向けられ、指先で光る豆粒くらいだった赤紫の魔弾は急激に膨れ上がっていく。それは瞬く間にカリナの体を覆い隠すくらいの球体へと成長した。

 バチバチと電撃を放つ魔力8京のエネルギー弾が回転を始める。

 こんなところでぶっ放すと、地上が消し飛んじまう。

 

 

 俺はあらかじめ念唱していた『異空間魔法アナザーゲイブ』を発動させる。

 黒い異空間へのトンネルが生まれ、俺を中心に膨れ上がり、カリナを飲み込むと音を立てずスゥと閉じた。


 


 同時にカリナもぶっ放つ。



 俺は顔を傾けてかわす。

 右頬スレスレを通り過ぎた。ワンテンポ遅れて、はるか後方から閃光と同時に炸裂音がとどろき、霧のかかった異空間が激しく揺れる。

 間一髪、間に合った。



「カリナ! てめぇどういうつもりだ!? あんなのをぶっ放したら国もろとも破壊されちまうじゃねぇか?」



「しげる君が悪いんだよ。邪魔するから。それにしげる君。本当はカッコよかったんだね。それなのに普段は仮面をかぶって世間様をだましているんだね。ちょっぴり嫌いになっちゃったよ」


「この姿は俺であって俺でない。俺はリアがピンチになるとだな――」


「そっか。リアさんの為だったら本気になるんだ。なんか感じ悪い」


 そう言うと指先をこちらに向け、間髪入れず魔弾を放ってきた。


 最高速を誇る光魔法『シューティングアロー』だ。

 秒間100発以上の光の閃光が、俺を襲う。


 だが肉眼で捉えることができた。


 身をひるがえし、直撃をふせぐ。

 素早さを補正していて助かった。

 なんとか紙一重でかわすことができた。

 だが頬に熱を感じる。

 触ると血がついていた。素早さ6京でもギリギリなのか。



 カリナは表情のない冷たい目で俺を見ている。ただ以前出会った時とは明らかに様子が違う。敵意むき出し。入れてはならないスイッチが押されてしまった、そんな形相だ。


「てめぇ、正気じゃねぇな。どうしちまったんだ?」


「私は正気だよ? それに君は私の何を知っているというの?」


 何も知らない。

 知っているのはてめぇが絶対神という名のわがままなガキってことくらいだ。



 カリナは続ける。


「……私は知っちゃったんだ」


「何を?」


「私の双子の妹を刺した人物を」



 もしかして、てめぇ。

 白鳥京子の姉貴だったのか。

 


「……復讐なのか?」



「は? どうして私があの子の復讐を? 京子は私が殺す予定だった。あいつだけは殺したかった。私のすべてをかけて。

 京子がすべて奪った。

 私の笑顔も、悲しみも、怒りも、感情も……

 私から表情を奪ったのはあいつ……。

 ねぇ、知っている? 人形になりたかった女の子のお話。

 カリナはね、人形のお名前なの。

 私が大切に持っていた子の名……

 すべて忘れていた。

 忘れたことにしていた。

 せっかく忘れていたのに……

 なのに……

 うぅ……

 だから私はリアを追い詰めなくてはいけないんだ。

 徹底的にリアを追い詰めて、生きていくことが嫌になるくらい追い込んで……

 そうすれば……きっと……

 おしゃべりはここまで」



 そう言うとカリナは、両手を広げて、腕を上空に掲げる。すべての指には光弾が生まれる。光魔法『シューティングアロー』か。

 10本の指から、デタラメに放ってくる。

 秒間100発×10指の高速閃光はダテじゃない。


 だが俺だって素早さ6京の足がある。

 網の目をくぐるように、かわし続ける。


「へぇ。なかなか速いんだね」


 カリナの視線が右や左に交錯する。


 俺は素早さ補正によって強化された動体視力で、カリナの目に注目する。

 彼女の瞳孔には俺が映っていない。

 つまり俺を捉えていないということ。

 その証拠に、『シューティングアロー』は俺のワンテンポ、いやツーテンポ以上後を追いかけてきている。どうやらカリナの素早さを凌駕しているようだ。



「ここはすでに異空間の中。瞬間移動のような異空間経由が必要な魔法はいっさい無効だ。攻撃力だってある程度補正している。このまま戦うと俺が勝つ。もうやめとけ」



「このまま戦うと俺が勝つ? あはは。なにそれ? 周りをよく見てみなよ。私はわざと魔法を外していたんだよ」



 なんだって。

 すぐに気づかされた。

 飛び散る閃光は異空間で破裂。煙が巻き上がり、俺達を包んでいく。

 カリナは俺を狙っていたのではなかった。

 爆風を起こし視界を悪くするのが狙いだったのか。


 

 カリナは闇に消えた。

 俺にはサーチスキルがある。それはカリナだって同様だろう。

 サーチスキルと言っても、視認できているわけじゃない。なんとなく気配を感じるだけだ。

 だから、どちらの精度が上かで優劣は大きく異なる。



 どこともなくカリナの声がこだまする。


「言ったよね、私の特記事項。私は神を見つけることができる。暗闇の中でも容易に君を発見できる。私の狙い――それは君から逃げる術を奪う事。君がリアさんを守ると言うなら、君から消せばいいだけのこと」




 こいつ。

 単にステータスが高いだけじゃない。

 己の力に溺れてなんかいない。

 ガチで強ぇ。

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