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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第二章 異世界での起業編
31/78

31 悪党共の宴

 弱者の血肉をすする悪と、悪と称する者の戦いが、今、始まろうとしている。



 海堂かいどう元治げんじ

 レベル:181

 タイプ:魔戦士



 リア

 レベル:67

 タイプ:魔道士



 レベルだけで計算しても3倍近い敵だ。

 それにしたって相性がかなり悪い。

 魔道士と戦士の戦いは、少々のレベル差があろうとも先は読めない。なぜなら、互いの長所短所が違い過ぎるからだ。戦士はレベルが高い魔道士だろうが、その俊敏性と剛腕を活かして急所に直撃さえ入れれば勝てる。魔道士も同様のことが言える。相手は魔法防御が低い。間合いを取りながら一撃必殺を狙うことができる。

 

 

 だが相手は魔戦士。

 魔戦士はバランスタイプが多い。

 純粋な戦士と比べ、体力と攻撃力は落ちるものの、魔力、魔法防御は比較にならないほど高い。

 

 

 つまりこの組み合わせ、特記事項が効いているとはいえ、リアが圧倒的不利。

 それにリアは努力ができない。

 2分弱で顔は土気色に変わり、3分以上、息が続かない。

 長期戦に持ち込まれたらアウトだ。

 勝負は一瞬だ。





 月明かりが差し込む深い森林の奥。湖のほとり。

 先ほどまでの虫の声は聞こえない。

 闇の空間をつんざくのは鋭い金属音、そして大地を震わす爆音だ。

 海堂は一歩、二歩、そして猛烈に加速。リアがいる木に、身の丈を超える大剣を叩きつける。大木は派手に砕け、爆風と共に葉は宙を舞う。



「リア、どこだ!?」



 大剣を握りしめる海堂は、空を見上げ叫ぶ。

 

 刹那――

 

 ひとひらの木の葉が地に落ちたと同時に、リアの猛攻が始まる。

 海堂の前に躍り出たと思うと、一呼吸に16連打の突きを繰り出す。

 

 海堂は数発浴びるが、もろともせず大剣で応戦。リアに斬撃を叩き込む。リアが真っ二つに割れた。海堂はニヤリと笑うが、俺には分かっていた。

 

 あれは幻影。

 次の攻撃をするための撒き餌だ。

 海堂が斬ったのは、リアが魔法で生み出したイリュージョンだった。

 

 海堂の背後に現れたリアは、灼熱魔法『ヒートウェイブ』を詠唱。

 赤い炎に包まれる魔戦士だったが、さすがに魔法防御は高い。

 

 火だるまになったまま、リアの脳天に大剣を突き落とす。

 あぶねぇ。

 だが、それも幻影だった。

 海堂の背後に現れたリア本体は、ゼロ距離射程から真空魔法『ソニックアライザー』を放つ。

 海堂の兜が宙を舞う。

 そして奴の額からは、一筋の赤い血が流れている。




 リアが使う幻術は、確実に海堂を苦しめている。

 紫の霧を作りだし、己の幻影で敵を翻弄、虚をつき死角からダメージを与えていく。


 悪を華麗に翻弄する、悪を狩る女。




 膝を崩してギィと睨みつけてくる海堂に、リアは容赦しない。すでに1分以上経過しているのだ。リアは上空へ飛び上がり、海堂目がけて両手を突きだし爆裂上級魔法『ハイ・エクスプロージョン』を詠唱する。

 あれはバカのように魔法力を消耗する。

 つまりフィニッシュってことか。

 閃光弾が炸裂。

 辺り周辺は派手に吹き飛び、クレーターが生まれた。

 

 

 

 リアは地にトンと足をつけると、肩で息をした。

 2分以内に敵を仕留めた。

 まさに分殺の女だ。



 華麗に髪をかきあげて立ち去ろうとした、その時だった。

 海堂の体が宙に浮く。



 リアはそんなバカなという顔で奴に視線を向ける。

 海堂は半透明な球体によって守られていた。



「な、なぜ。ハイ・エクスプロージョンをガードできるシールド魔法を、魔戦士が使える筈ない……」


 海堂はあごでクイと、周辺の背の高い木々を指し示す。


 


 そこには無数の人影があった。

 その一人がシールド魔法を詠唱したのだろう。きっと奴の仲間。黒装束に黒い甲冑。闇の集団という代名詞が妙に当てはまるいでたちだ。数にして10……いや20人はいるだろう。



 海堂は大笑いをする。

「あぶねぇところだった。ありがとよ」



 黒装束の一人が答える。


「礼などいい。同業が立て続けに消されたんじゃあ、おちおち商売ができないからな。それに、これはビジネス。取り決め通り、一人あたり、レベル×1000rira(10万円)の報酬を頂く」



「あぁ、分かっている。安い買い物だ。といっても、おたくらレベル100以上あるよな? 1000万円×20人か。2億なんて大金すぐに用意できんが」


「まぁ保険から支払うことだ」


「あぁ、そうさせてもらう」



 悪党ギルドみてぇな団体さんか。

 やべぇな。

 リアの息は完全に上がっている。

 顔は真っ青だ。

 木々の上から、闇の集団のような剣士や忍者、魔道士がリアに照準を合わせている。

 さっきの話によると、奴らは全員レベル100以上。悪党の親玉集団ってことか。



 しょうがねぇ。加勢してやるか。

 敵集団を再度確認した。

 


 まずい。

 嫌な汗を全身に感じる。

 悪党共に紛れてあいつまでいるじゃねぇか。

 仮面の女。絶対神カリナだ。

 海堂の特記事項は神を信じない。

 だから海堂とパーティを組めないから安心はしていたが、暇なカリナのことだ。

 悪党共のピクニックに紛れてやってきたとでもいうのか?

 


 とにかく時間がねぇ。

 ささっと片付けて、リアを安全な異次元にぶっこんでトンズラするしかねぇ。



 木の陰から出ようとしたとき、背後に気配を感じた。


「リーズか?」


「いいのですか? あたしは忠告したはずです。これ以上踏み込むと、あなたは本当に呪われてしまいますよ」



 そういえばリアにはもう一つ特記事項があった。

 それは神をも凌駕すると言っていた。

 俺の心を奪うと。


 だけどリアは悪党じゃない。

 振り返ると、リーズは悪魔っ子に変身していた。

 大いなる悪を目にしたら、覚醒するんだっけ。

 ここは悪党だらけだしな。


「俺はリアを救いたい」


「そうですか。

 リアが大いなる悪でないと知った以上、あたしが止める理由が無くなりました。

 特記事項すべて読み上げます」


『もう泥臭い努力なんてしたくない。

 あたくしは華麗なる悪女。

 バカや阿呆をたぶらかして、あたくしは優雅に振る舞うの。

 神さまって本当にいるの?

 もし本当にいるのなら……

 あたくしの心を知って少しでも同情してくださるのなら……

 お願いです。助けてください。

 時にカッコイイ白馬の王子にでも扮して、人知れずあたくしを守ってください』



 リーズは続けた。

「どのような悪でも、悲しい過去はあるはず。

 それによって悪の道を進むものだって少なくはないでしょう。

 しげるさんは心の苦しみが分かる人です。

 腐った化け物にはそのような心はありません。

 だからリアを知ると、あなたは彼女を守り続けなくてはならなくなります。

 あなたはもう呪われてしまいました」



「別にかまわねぇよ」



「ふふ、分かりました。

 先程も言いましたが、リアが大いなる悪でない以上、あたしが止める必要はありません。

 それにしても想定外でした。あのような者まで存在するなんて。あの仮面の女は、あなたにしか抑えることができないでしょう。今ならまだ逃げるという選択肢もあります」

 

「リーズ、教えてくれ。カリナは? あの絶対神の能力は……」

 

「恐ろしいのは驚異的な魔力。数字にして8京。カリナとまともに渡り合える者はあなた以外、この地上には存在しないでしょう。特記事項に脅威はない。しいて言えば神を見つける目。負荷は愛する者から口づけをされたら泡になって消える。とにかく敵は動き出しました。ご決断、急いでください。戦うのでしたら、あたし達は加勢します。雑魚は任せてください。そろそろ加勢も来るころです」

 

 

 あたし達?? 加勢が来る???

 まさか、伝説の勇者に太陽の聖女か???

 

 

 

 リーズはニカリと笑う。

 

「あたしは嘘がつけませんから」



 颯爽とアルディーンが登場。

 そして夜空からエルカローネも舞い降りてくる。


「悪党共の臭いがする!」


 そしてリアを取り囲む闇の集団を指さした。


「僕が来たからには、お前たちの好き勝手にはしない!」


 やばいよ? 誠司さん。

 あいつら梶田クラスよ?

 それが20人もいるんだよ?



「そうよ。この太陽の聖女エルカローネがバッチリお仕置きしますから!」



 お嬢様も敵を指さして何だか決めポーズなんてしちゃって。

 駄目だよ。



 俺は急いで誠司さんのところまで走って行った。



「だ、誰だ! 君は?」



 え? 俺? しげるですけど?



 リーズがそっと俺の前に立ち、手鏡を向けてきた。

 



 なんじゃこりゃあああああああ!!!!


 ハゲ散らかしていた俺の頭部は、カールの入ったエメラルドグリーンの髪にボリュームアップされ、目元には仮面舞踏会を連想させるようなベネチアマスク。

 厚ぼったい唇や、丸い三重あごは、すっと気品のある何かに。

 全身がモデル体型の9頭身になっている。

 

 

 あ、そっか。

 

 

 リアがピンチになったら、神はカッコイイ王子に変身するんだっけ。

 

 仕方ないので名乗っておいた。



「彷徨える月影、ジークシュナイダー。さぁ行こう、アルディーン」



「ど、どうして僕の名を!!」



 あー。

 もーめんどくせぇお人だ。

 正体をばらそうぜ、と、喉元まで出かけているのを、大海のように広い心で引っ込めて、



「ヒーローギルドでは、あなたの事が、もうかなりの噂になっている」


「そ、そうでしたか。もうそのような所まで僕の名声が……。彷徨える月影、ジークシュナイダーでしたね。僕も君と出会えて光栄です」

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[一言] まさかの主人公行方不明
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