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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第二章 異世界での起業編
30/78

30 悪女になった女

 待つこと20分少々。

 再びリアが出てきた。

 雰囲気はガラリと変わっていた。

 先ほどまでのケバイ衣装ではなかった。ハイヒールは木製のくつへと変わっており、服装は黒い法衣に。高級バッグを持っていた手には魔力を帯びた杖、腰にはそうとう使い込んだだろう血の臭いのするレイピアがある。

 木から飛び降りると、森の奥へと歩いていった。



 俺はリアが消えるのを待って、木の上の小屋に忍び込んだ。

 派手な生活をしていると思っていたが、そこは質素な空間だった。

 たいてい悪魔召喚をする奴が持っていそうな、魔法陣、ホルマリン漬けの目玉や脳みそ、胎児とか、そういったものは見当たらない。

 あるのは机と本棚、洋服ダンス、木の葉でつくったベッドくらいだ。

 


 窓から入る風で、机の上にあった本がペラペラとめくれていった。

 


 びっしりと文字が書かれてある。

 日記なのか?

 どうも計画書のようだ。

 


 それには、名前と日付が書かれてある。

 名前の横には借金総額と返済期日、そして×や○が書かれている。


『伊藤ヒロコ 借金総額20,822,965 rira 返済期日**月**日  ○

 柿谷ヨシキ 借金総額9,922,985 rira 返済期日**月**日  ○』

 

 ともに返済期日は今日だった。

 その額は本日リアが立て替えた金額と一致していた。

 

 更に記載は続いている。

『もっと早くあの子達を知っていれば、ここまで借金が膨れあがっていなかっただろうに……。とにかく今回は間に合ってよかった』


 

 そして×を記載した横には、震えるような文字で、

『ごめんなさい』

 と書かれてあった。



 

 リアはデタラメな借金を抱えて苦しんでいる子どもたちを助けていたのか。

 でも、どうして?

 お前、人の不幸が面白い人種なんだろ?

 悪女なんだろ?

 それを誇張するように言っていたし、その足枷だって持っている。



 俺は本をめくっていく。

 俺達の会社『ヴィスブリッジ』についても書かれてあった。



『この世界には弱い物を食い物にする輩が多すぎる。

 そしてまた非道なる会社がヴァレリア公国に生まれた。

 場所は、エルラ地区4154-xxx。カジノ跡地だ。

 業務は、特記事項で失敗した者をかき集めて労働に従事させるとある。

 弱い物を食い物にするつもりに違いない。

 どうしてこの国には次から次へと悪が湧いてでてくるのだろうか。

 資本金額から考えても、敵は今までと比べものにならないくらい強大だ。

 あたくし一人でどこまで渡り合えるだろうか。

 とにかく明日、調査する』



 俺達を疑っていたのか。

 だからあれほどまでツンとしていたのか。

 数行あけて、続きがある。

 この文面は、先程書いようだ。


『前言撤回。

 久々にまともなことを考えるやつに遭遇した。

 良いヤツほど早死する。

 ヴィスブリッジは永続して欲しいものだ。

 派遣会社のあの男には悪いことを言ってしまった。

 一目見た時、悪党だと思った。

 だから、あの力が発動するか試してみた。

 だけど赤くならなかった。

 男は青色に輝いた。おそらく『バカ』に属する者。

 あたくしがバカと呼んだあの人と同じ性質を持つもの。

 だから視界に入ってきて欲しくなかった。

 たぶらかしてしまうから……。

 ――とにかくヒロコとヨシキを助ける資金の調達も成功した。

 そしてようやく海堂元治が、自分の特記事項を暴露してくれた。

 決戦は今夜だ。

 あたくしは悪を狩る悪女』




 ……。

 どうして彼女は己に悪女の烙印を押したのだ。

 ページをめくった。



 俺は目を疑った。

 思わず手に取った日記を落としてしまった。

 そこには彼女の前の世界での生活が克明に綴られてあった。




 こ、こいつ、やはり菊名Learだったのか。




 再び日記を拾うと、文面に視線を落とした。

 


『とにかく男の人が怖かった。

 父は、母と幼いあたくしに暴力を振るっていました。あたくしにただただ恐怖と不安を与え続けるだけの人でした。

 そんな父はある日、失踪しました。それでもあたくしの父。何度も父を捜しましたが、手掛かりすらわかりません。

 あたくしは、母を助ける為に新聞配達、コンビニのバイト、なんでもやってきました。それでも父の残した負の遺産は消えることがありません。アパートの集合ポストには、いつも借金取りの催促の手紙で埋め尽くされています。同じアパートに住んでいる方たちからは、冷たい視線で見られていました。

 18になったあたくしは、夜のお仕事を始めました。

 しかしホステスという仕事は、甘いものではありませんでした。

 あたくしはそれほど美しいわけでもなく、会話だって苦手。

 世間から逃げるように生きてきたのですから、スーツ姿の男性を見るだけで心臓が破裂しそうでした。

 金融屋さんからは、もっと稼げる仕事を紹介してやる、横になって股を開くだけで、ガッツリ稼げると言われていました。

 どういうところか想像はつきます。どこへ行っても逃げることはできません。それに言葉の不自由な母を置いて、あたくしだけが逃げるなんて……

 あたくしは、もう終わったと思いました。

 その日も、トイレでたくさん泣いて、いつもの『clubマーガレスト』に向かいました。このお店も今日でお別れ。

 明日からは、あたくしは……。

 そんなあたくしを、神様は見捨てていませんでした。

 この日、あたくしの運命を変える人が現れたのです。

 常連客のAKUTOKU商事の部長に連れられて、あの人がやってきました。

 こういう店は苦手だと言って、ソファーの隅で小さくなっていました。

 他のホステスが話しかけても、作り笑いを浮かべているだけです。

 きっと気を使って、場の空気に合わせているだけなのでしょう。

 その姿がちょっぴり可愛く思えました。

 先程まであんなに辛くて苦しかったのに、不思議とクスッと笑っていました。

 その人は指名をしておらず、次のチェンジであたくしが彼の横に座ることになりました。

 彼は何もしゃべりません。

 あたくしは何か話題を作ろうと必死に考えました。

 彼は一言、「気を遣わなくてもいいよ」と言ってくれました。

 あまりにも下手な会話しかできないから怒らせてしまったんでしょうか。

 だけど彼は、あたくしを指名してくださりました。

 結局、会話もないまま閉店の時間がやってきました。

 

 最後にぽつりと口を開き、「明日、後輩を連れてくるから」だけ言い残して帰っていきました。


 明日……。

 あたくしに明日はありません。もうこのお店をやめています。


 だけど店のオーナーからは、


「よくやった。お前の何が良かったのかまったく分からんが、AKUTOKU商事の営業マンは派手に金を使うことで有名だ。頼む、特別ボーナスを出すから、もうしばらくいてくれ。大丈夫だ。お前はたいしたホステスではない。いずれボロがでて違う子にチェンジになるだろう。それまででいいからいてくれ」


 酷い言われようでしたが、オーナーは正論です。

 後から知ったのですが、彼はAKUTOKU商事のスーパー営業マンだったのです。

 店のお荷物だったあたくしにとってこれは快挙でした。

 

 あたくしのどこを気にいってくださったのかまったく分かりませんが、次の日、彼は後輩を5人も連れてお店にやってきました。

 後輩は1、2時間程度で帰って行かれましたが、彼だけは閉店までいました。


 この日も会話はありません。

 あたくしが作った焼酎の水割りを黙って飲んでいるだけでした。


 帰り際、「Learさん、占いできる?」と問われました。

 占いなんて信じたことがありません。手相なんて嘘。いくらステキな線があったとしても、あたくしの運命は変わることがないのです。


 彼は手相占いの本を、テーブルに置き、「俺は占いに興味があるんだけど、本を読むのは面倒だし、よかったらちょっと勉強して俺の手相を見てくれない? また明日くるから」


 そう言って、この日も帰っていかれました。

 本自体、それほど分厚くもなく、頼まれたのだからやってみることにしました。



 次の日、お店にやってきた彼の手相を見ました。


 それは脅威の悪相でした。

 近い将来、金運は1万倍落ちる。

 結婚線もなく、女性と関係を結ぶと死ぬとまででていました。

 そしてお顔もたった数年で、剥げた豚になると、手相にはでています。

 だから手相なんて信じていないのです。大成功している営業マンに、こんな悪相がでているのですから。

 言葉に困っているあたくしから手相占いの本をペラペラめくり、「おお、俺、スゲー手相がある!」と叫んだのです。

 

 ソロモンの環。

 それは300人に一人あるかないかの、神を暗示する強力なものです。

 

 彼の手を見ましたが、そのようなものはありません。

 彼はボールペンで人差し指のまわりをクルリと囲って、ニカリと笑いました。

 なんとも清々しい笑顔でした。

 なんとなくですが、彼が何を言いたかったのか分かりました。

 そして、それからだったのです。

 あたくしの人生が変わったのは。

 手相占いを始め、タロット、水晶、姓名判断、ありとあらゆる占いの勉強をしていきました。話をつなげることの苦手だったあたくしが、お客様を楽しませるすべをしったのです。

 黒いコートで魔女風にコスプレして、それっぽい恰好で、お客様を占って差し上げました。

 こんなこともありました。

 倒産寸前の社長さんが、もう駄目だ、明日首をつろう、その前に最後の晩餐だ~なんて恐ろしいことを言いながら酒を胃袋に強引に流し込むような飲み方をしていました。


 あたくしは、いつものように社長さんの手相を見て差し上げます。


「Lear。どうせろくな相がでていないだろ? ふふ、もういいんだ」


 あたくしは彼がやったように、ボールペンで社長さんの人差し指の周りにクルリと弧を描き、


「これは300人に一人いるかいないかの強運の相です。かつて強大な力をもったソロモン王にちなんで、ソロモンの環と呼ばれています。この相が現れた者は近いうちに、大成功を成し遂げます」


 社長さんは、一瞬、何をバカなという顔をしてあたくしを見つめていましたが、突然大笑いをして、


「そうだな。俺が諦めたらそこまでだ。Lear、あんたの言うとおりだ。運命は自分で切り開くもの。どうせいつかは死ぬんだ。死ぬまで死ぬ気で頑張ってみるか!」

 

 社長さんは、半年後、会社設立50周年記念パーティーにあたくしを招待してくださいました。大勢のスタッフ関係者の前で、絶対に当たる占い師だと紹介してくださいました。

 

 お店には連日連夜、占ってほしいお客様が訪れます。

 ちまたでは絶対に当たる占いの女神とまで噂されるようになりました。

 でも、それはあたくしの力ではありません。

 お客様が、自らの力で運命を切り拓いているだけです。

 あたくしは、落ち込んでいるお客様に、ほんの少しだけ勇気を与えているだけなのです。

 


 毎晩のように、あたくしを指名するお客様が殺到しました。

 父が残した借金をすべて返すこともできました。


 

 実はAKUTOKU商事の同僚の方から聞いて知っていました。

 彼が、占いができないなんて嘘。

 占いは彼の十八番。営業手法のひとつだそうです。それは落ち込んでいる取引先の方に勇気を与えるツールだったのです。

 あの日、彼は、トイレで泣いているあたくしに気付いていたのでしょう。

 しばらくあたくしの頬を見ていました。

 ちょっぴり化粧の落ちた一筋の頬を、細めた眼差しで優しく……



 だからあたくしは、彼に向かって彼の手を握り「バ……カ……」とつぶやきました。



 そんなある日のことです。

 彼がお店に訪れました。

 嬉しくて嬉しくて仕方ありませんでした。

 手にしたお金で、整形をしたのです。

 キレイになったあたくしを一番最初に彼に見て欲しかった。


 だけど、どうも様子がおかしかったのです。

 あたくしと目を合わせようともせず、うつむいたまま、手は小刻みに震えていました。


 それでもあたくしは、

「どうですか? あたくしは生まれ変わりました」


 しばらくして彼は、「前の方が好きだった。お母さんが悲しむよ」と小さくつぶやきました。


 カチンときて、「なによ! あたくしだってキレイになりたいのよ。それにあたくしの稼いだお金をどう使おうが勝手じゃない」

 みっともなく声を荒げてしまいました。

 彼は「ごめん。じゃぁ」と言ってお店を後にしました。

 それから彼がお店に現れることはありませんでした。

 あたくしは自分の投げかけた言葉を後悔しました。それに様子だっておかしかった。急いでAKUTOKU商事に連絡しました。

 彼に起きた事件を知り、あたくしは手にあったスマートフォンを落としてしまいました。



 信じられない。

 彼が痴漢をしたなんて。

 あんなに誠実な彼が、どうして!?

 絶対に嘘よ。何かの間違い。そうに決まっている。



 だけどそれ以降、彼は商談もまともにできなくなり、社を退職していたのです。

 とにかくあたくしは彼を探しました。思い当るところなんてどこにもありません。とにかく市内を隈なく駆けずり回りました。


 彼を見つけたのは、ハローワークの前でした。

 どうやら中に入ろうとしているようです。

 あたくしは彼に声をかけました。

 彼は怯えるようにあたくしから逃げて行ったのです。



 ――あたくしが誰か分からないの?



 彼を追いかけようとしました。彼があたくしにしてくれたように、あたくしも彼に勇気を与えたかった。

 でもそれが彼を見た最後でした。


 そんなあたくしに声をかけてくる少女がいました。

 それは車いすで顔には包帯が巻かれた黒髪の少女でした。


「あなたは風の旅人さんのお知り合いですか?」



 ――風の旅人?



 きっと吉岡しげるさんのことを言っているのでしょう。


「はい、あの人はあたくしを救ってくれました」


「そうですか。私も風の旅人さんに救われました。お礼が言いたくて、言いたくて、旅人さんとした約束通り頑張って大学に受かって、そしてやっと見つけたのに。旅人さん、すごく元気がなくて、すごく落ち込んでいて、私だけが夢を叶えてしまって……。なんて声をかけて良いのか分からないのです」


 少女の言葉はゆっくりでした。

 半身不随のようで、ところどころ発音ができていません。

 すぐに分かりました。

 きっとこれ程までにハンディーを背負っている少女の心も、彼は救ったのだと。



 そんな折、ひとつのことが分かりました。

 彼は濡れ衣をかけられたのだと。

 犯人は白鳥京子。

 痴漢冤罪の常習犯でしたが、未成年ということですぐに釈放されました。

 あたくしは白鳥京子に近づき、彼に謝罪するように説得しました。



 直接本人が改心して、頭をさげれば、彼の心だって……

 そんな単純なやり方しか思いつきませんでした。



 彼女のマンションの前。

 戸から半分だけ顔をのぞかした白鳥京子は、「はぁ? なんでうちが? ブ男に人権はねぇんだよ!」と言い放ち、戸を締めようとしました。


「ま、待ってください! 彼はあたくしを助けてくれました。あたくしだけではありません。彼は困っている人、心の折れかけた人に勇気を与えることができる、白馬の騎士なんです。あなただって本当の彼を知れば……。だ、だからお願い!」


「はあ? 

 なるほど、あいつはブ男。そうやって優しさをアピールして女に媚びるだけの豚なんだよ。考え方の根底から意地きたねぇ豚だ。そして豚に騙されたあんたらは、脳みそがお花畑の世間知らずってことだ。

 鬱陶しいんだよ。バーカ」



 バタンと勢いよく戸が閉まりました。



 それは、あたくしの心に強烈な殺意が生まれた瞬間でした。

 この阿呆を殺したい。殺したい。殺してやりたい。

 そのためにはあたくしは悪にだってなってやる。

 その日から白鳥京子の観察を始めた。



 一週間後の深夜。


 終電に乗り過ごした白鳥京子は、駅のまわりをぶらぶら歩いていた。

 手ごろな男をつかまえて、泊めてもらう気なんだろう。

 あの女のやりそうな事は熟知している。

 長かった髪をハサミでバッサリと切り落とし、男装したあたくしは、白鳥京子に近づいていった。


 白鳥京子はあたくしに気付くと、

「ねーねー、お兄さん。綺麗な目しているね。黒い瞳の中に、ブルーサファイヤのような輝きがある。良かったらカラオケでも行かない?」


 黙って、ひとつ頷きました。


「お兄さん、名前、何?」


「リ……。レイ」


「レイさんか。それ、今夜だけの名でしょ?」


「そう、今夜だけの名」

「そうやって、明日は違う女に、レイって名乗る気かな?」


「いいえ、この名前は、君だけの為に考えた名……」


「嬉しい事、言ってくれるね」



 そして白鳥京子は疑うことなく、あたくしの腕に手を通してきた。

 ホテルに連れ込み、懐に隠していたナイフで女の胸に幾度となく怒りを込めて突き下した。勢いよく血が噴き出る。

 女には、赤い血が流れていた。

 あたくしは犯罪に手を染めてしまった。

 自分を抑制することができなかった。

 どうしてもこの女だけは許せなかった。

 そして目標を達成した。

 持ってきたノートパソコンを開き、母へ思いを募った。



 あの人のために頑張った。

 だけどこれで良かったのだろうか。

 きっと誰もあたくしを称賛する者はいないだろう。

 怒りに身を任せて復讐しただけなのだから。

 スマートフォンの中の一枚の写真を見つめた。



 吉岡しげるさん。

 

 

 もう一度、彼に「バカ」と言って、ホテルの窓を開けて飛び降りようとした、その時だった。

 ノートパソコンが青く輝き出したのです。

 何が起こったのかよく分からなかった。

 一番下の特記事項という欄に、ふと落書きしてみた。



『もう泥臭い努力なんてしたくない。

 あたくしは華麗なる悪女。

 バカや阿呆をたぶらかして、あたくしは優雅に振る舞うの』




 *



 

 俺は日記を閉じると、急いでリアを追いかけた。


 深い森の奥。

 月明かりに照らされた湖の前にリアの姿があった。


 懐中時計を見る。

 深夜0時過ぎ。海堂との約束の時刻は過ぎている。

 


 そして海堂の姿もある。

 黒の重装備で、背中には大剣がある。



「リア。期日は過ぎた。俺は1秒たりとも待たん主義だ。これからお前を麻痺させて奴隷商に売り飛ばすが達者でな」


「いつ、あたくしが遅延しましたか? 借用書をよく見てみなさい」


「ククク。あぁ、読んでやるよ。まぁ、そうやって時間稼ぎをして逃げる魂胆なんだろ? 鬼ごっこは嫌いじゃねぇ。だが、いくら逃げようが俺からは逃げられない」


 含み笑いを浮かべる海堂は、懐から借用書を取り出すと月明かりで読む。


「は? なんだこれ。期日が明日になってやがる。て、てめぇ。どうやった。こんなの無効だ!」


「何を言っているのかしら? わたくしは明日返すと言っているだけ。あなたのお金を無心などしていない」


「……て、てめぇの魂胆は何だ? どうやってこの文字を書き換えたんだ?」


「だって言ったじゃない。あたくしの特記事項は、バカや阿呆をたぶらかして、あたくしは優雅に振る舞うの。

 あたくしは、彼を追い詰めたあの女を心から罵倒した。

 あの女に向かって幾度となく阿呆と蔑んだ。

 あなたのようにどうしようもない悪党のことを、あたくしはいつも阿呆と呼んでいる。あなたは紛れもなく阿呆あく

 あなたの全身が真っ赤に輝いていた。それは悪である証拠。

 だからあなたの借用書に細工をするなんて、至極容易」


「ふん。墓穴を掘ったな。つまり金を返す気なんてないんだろ? まもなく俺の異能が発動するはずだ」


「だから返してあげると言っているじゃない。あなたの屍の上に、あなたの大好きなお金をお供えしてあげる」


「て、てめぇ! 許さねぇ!」




 海堂は背中の大剣を抜刀する。




「それはこちらの台詞」


 リアは優雅に身をひるがえし、木の枝に着地する。

 満月を背に冷笑を浮かべ、腰のレイピアを抜き海堂に向けた。



「あたくしは悪を狩る悪女、リア」

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[一言] 日記に全て書き連ねる心理なんだろう? ガチファイターかっこいいな
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