27 お嬢様のピンチ!?
リアはお仕事一覧がファイリングされた本をパラパラみている。
あの女、対俺用の特記事項を持っているとのことだ。
追い返してぇが、それもうまくいかず、とりあえず距離を置いてお嬢様との会話を監視している。
「あ、これ。やってみたいわ」
「え、そのお仕事は、ハイスキルを要しますよ?」
「あたくしのスキルを疑っていますの?」
「い……いえ」
「じゃぁ決まりね。明日からお仕事のようね。契約してちょうだい」
「……は、はい。ありがとうございます」
俺は止めようとした。
止めたかった。
ガチで。
だけどお嬢様は、契約書に手をかざして呪文を唱え、クライアントに転送してしまった。
契約は成立したのだ。
リアが選んだ仕事、なんだと思う?
外見は、毛皮にハイヒール、長い金髪はエクステでボリュームアップし、リザードマンの革財布をちらつかせている派手な恰好のお姉系。
そんな彼女の派遣先は、超高額給与の業務。
それは女性にしかできない仕事。
モデルや社長秘書でもなければ、ホステスのような夜の蝶でもない。
そんな次元をはるかに凌駕する、高難度、超ハイスキルを要するお仕事だ。
業務内容:竜の生贄。
山林に囲まれた国――エルファランドに突如現れた巨悪な闇の竜。
竜は生贄を要求してきやがった。
『我が魂の安息を願うなら、聖魔石の数だけ、神聖なる巫女を差し出せ』と。
生々しい言い方をすると、ワシがウハウハしてぇから、年頃でいい感じの生娘を20人よこせ、さもないと予告なしに大暴れする、と言っている。
これだけ好き放題いうドラゴンなのだが、かなり用心深いようで、普段は姿を見せない。
だから巫女に化けることができる強力な女ドラゴンハンターを派遣して欲しいそうだ。
奴が油断して姿を現した時に、一気に狩るのだろう。
超高額の仕事で日当200000rira。日本円換算で2000万円/日ってことだ。
まぁ大抵死ぬ。だからこんだけ高い。
要求しているレベルは95。
参加できる最低レベルは65を提示されてある。
どういう計算かは知らんが、クライアントは強いヤツしかいらんと言っているのだろう。
リアは参加レベルには到達しているが、ギリギリである。
彼女のレベルは67。これでは、かなりきついと思う。
それなのに、リアには更に負荷がある。
・努力ができない。
・泥臭いこともできない。
つまり、ここ一番で踏ん張れない。
つーか、あんた、やる気ないんだろ?
絶対にばっくれる。
だって、あんた。
バカや阿呆をたぶらかして、優雅に振る舞う人種なんだもんね。
最低な奴だ。
それなのにお嬢様は結局、日当2000万円を先払いした。
そしてドラゴンハンター確保の連絡までしちゃった。
明日、リアが行方をくらましたらどうするのよ?
うちの派遣会社の女性陣でレベルが高いのはお嬢様かリーズだけ。あとはリーチ寸前のいたいけな少女か、腰の曲がったばあ様しかいねぇ。
リーズで行きたいが、彼女は嘘がつけないからこの業務はできない。
残るはお嬢様。
レベルは全然足りんが、消去法でいくとお嬢様しかいない。
お嬢様、あなた、生贄兼ドラゴンハンターになっちゃうのよ。
まぁお嬢様もばっくれればいいが、すでに村ではそれなりに準備しているだろうし、その他19人の生贄の女の子だってスタンバっているだろうし、そんな波乱な場所にドラゴンハンターは来ない。このままでは会社の信用はガタ落ちだ。
俺が代わってやりたいが、俺はハゲ散らかしたおっさんだ。
巫女にはなれねぇ。
「お仕事がんばりましょーね!」
お嬢様は事務所の前まで出て、リアの姿が見えなくなるまで手を振っている。
聖華さんは事の重大性が分かっているのだろうか。
リアはお嬢様から2000万円をだまし取って、さらにあんたを死地に送ろうとしてやがるんだぜ?
もちろん明日、リアがばっくれたら俺が女装してキモメンブサガールと蔑まれても巫女になってやるつもりだ。
だけど聖華さんを誑かしたこの女だけは許せねぇ。
リーズは、
「ダメです。しげるさん。あの女とかかわっては。どうせ明日は来ません。ドラゴンハンターは、あたし達でなんとかしましょう。だから、もうリアのことは忘れてください」
「できるかよ! 何もせずに、いいように騙されただけじゃねぇか」
リーズは沈黙する。
「じゃぁ聞くが、あの女と、リーズが命と引き換えに差し違えた腐った化け物、もしそいつが生きていて、ガチの一騎打ちをしたらどっちが勝つ?」
「……腐った化け物……」
まぁ奴は三つ潰しているだろうから俺よりも強いかもしれん。でも奴は……。
言おうとした言葉を飲み込みかけたが続けた。
「……もし……。これはもしもの話だぞ。腐った化け物とやらが絶対神のクラスを持っていて……。つまり俺と同じ神属性だったらどうだ? それでも俺を凌駕する特記事項を持つリアが、腐った化け物には勝てねぇってか?」
別にリアと腐った化け物を比べたい訳ではない。
こうやってリアの弱点に探りを入れているだけなのだが、何とも要領を得ない。
「仮に腐った化け物としげるさんが同属性、力も能力も均一、闘えば互角な状態と仮定します。
それでも腐った化け物がリアを圧倒するでしょう。
それは、しげるさんと腐った化け物には決定的な違いがあるからです。
しげるさんには心があります。奴には……
ですからリアの特記事項には勝てないのです。
絶対にリアに近づいてはいけません」
なんだよ、それ。
結局、分からず仕舞いか。
くそったれ。
互角の力量を持つ腐った化け物が勝てて、俺には勝てない。
それは心があるからだと。
俺が甘ちゃんとでも言いたいのか?
俺だって、いざって時には非常に徹するさ。黒子を誓った時からその覚悟はあるつもりだ。
リーズを振り切って、リアを追いかけた。