21 梶田
淡い蛍光灯が場内を照らす、ここ、カジノ地下のコロシアム。
入ったと同時に梶田の姿は消えた。
アルディーンは、
「どこだ!? 逃げたのか!」
「ふふ、どうして私が逃げる必要なんてあるのですか? まぁ、まずはあなた達の腕を試させてもらいます。まずはファーストステージです」
どこともなく梶田の声が何重にも木霊する。舞台裏にでも隠れて、ワイン片手に高みの見物とでも洒落込んでいるのか? なんとも悪役らしい演出だ。
そして顔はライオン、胴体が龍の猛獣が現れた。
大型トラックくらい巨大な猛獣が突撃してきた。
リーズの目が青く光る。
「合成魔獣。
レベル80
高い攻撃力と火炎光線が得意。
邪法によって生まれた闇属性。聖なる攻撃に弱い」
アルディーンは「レッドカッター!」と叫び、チョップを繰り出す。
敵は風船のようにパチンと弾けた。
「ふっ」とカッコつける。
だが四散して飛んでくる固い肉片を浴び、左腕を損傷。
腕をだらんと垂らす。
「く、くそぉ、不覚だった!」
お、おい。あんた、防御力弱すぎ。
梶田の声がまた場内に響き渡る。
「ほぉ。たった一匹で100の軍隊を殲滅できるダークキメラを一撃で仕留めるとは。ではこれならどうかな? セカンドステージ」
先程のライオンドラゴンが、一斉に放たれた。
数にして、ざっと20。
リーズは、
「属性は同様。だがレベルは200まで上昇している」
エルカローネが翼を広げ、アルディーンに手をかざす。
アルディーンは、
「す、すごい。傷が一瞬で塞がっていく」
「回復は私に任せてください」
なるほど、この連携プレーは互いの弱点を補える。
アルディーンは飛び回り、「レッドカッター」を連発する。
エルカローネはアルディーンに向かって手をかざし、超回復を念じ続ける。
時折、足や腕が吹っ飛んでいるように見えるが、瞬時に蘇っていく。
相手はレベル200だぞ?
あんたら10やそこらだろ?
対、邪悪戦に対しては、限りなく強ぇ。
一撃必殺さえ、食らわなければだけど。
そうなのだ。
リーズは、当初、身の丈の倍はありそうな大鎌を軽々と振り回して攻撃をしていたのだが、さすがに相手はレベル200の魔獣。あまり削れないので、作戦を変更して、二人の援護をしている。
アルディーンやエスカローネに飛んでくる火炎光線に向かって、何十発もの矢を撃ちまくり風圧で軌道を変えていた。矢が無くなると、次はナイフ。それが無くなると、大鎌を振りかざして竜巻を発生させ、軌道を変える。
竜巻は仲間も巻き込みそうなので、使いたくなかったんだろう。
だが徐々に動きが良くなる二人を確認してか、リーズも大技を仕掛けていく。
敵の団体を殲滅させ、次の団体がコロシアムに放たれる繋ぎの短いタイムのうちに、みんなはウィンドを出して、ボーナスパラメーターを振り分けていく。
レベル14前後だったアルディーン達は、レベル200の魔獣をガスガス倒していく。
あっという間にレベルが上がっているんだろ。
梶田の声が聞こえない。
想像以上にこのパーティが強くて、悔しいのだろうか。
みんなは大丈夫そうだから、俺は梶田を探した。
コロシアムの中央にある、ステージに上がって見渡す。
ステージの隅には部屋があり、戸を開けると、奥には梶田がいた。
どうやら指令室のようだ。
マイクやテレビなんてのがあり、それで場内の様子を見ていたのか。
黒服も3人ほどいる。
「おい、梶田」
「ふ、ここへ到達できたのはブサイク野郎ただ一人のようだな」
いや、みんなバトルを楽しんでいるから、任せて来ただけなんだが。
まぁいっか。
「ここまで来ることができた褒美だ。私が直々に引導を渡してやろう」と梶田。
そして土の敷き詰められている特設ステージまでやってきた。
途端、猛烈に走り寄り、キック、パンチの応酬。
「ははは! まったく見えないだろう! お前のレベルは所詮50前後だ。私の素早さは超一流。忍者マスターの称号を持つ。この力をとことん解放してやりたいが、哀れに思い少々手加減をしている。お前が身動きすら取れず絶命してしまうのは、ちと寂しいぞ!」
なんかビシバシ攻撃してくるんだけど、うーん?
ステータスウィンドを開いてみた。
まったく削れていない。
「おたく、レベルいくら?」
「聞いて驚けよ。天文学的な数字だ。
レベル521。100万の兵を持つ国王だろうが、容易に暗殺できる!」
へぇ~。
ハエを払うように、梶田を軽く撫でてやった。
梶田は吹っ飛ぶ。ステージの端にある金網に激突。そして地面に転がり落ちる。
お、おい!
手加減してやってこれかよ?
誠司さんの方をチラリと見やる。
まだ随分と魔獣が残っている。
『敵感知』のスキルを発動させた。
まだこのコロシアムに召喚していない魔獣がいる。
先に梶田を倒したら、魔獣が地上に出て暴走するんだっけ。
梶田はなんとか立ち上がり、咳き込む。
スーツはボロボロに破れ、額から血を流している。
「……!? こ、これは、一体!? 血? この私が血を流しているのか!? 私が傷つくとは信じられん。醜い豚如きにこの私が! こしゃくな!」
いちいち大げさなんだよ。
それにその台詞、どちらかというと、結構強い敵が言うからカッコいいんだぜ?
梶田は片腕をぶらんと垂らしたまま、黒服の一人を睨む。
「清水。お前はヒーリングが得意だったよな。忍者マスターの私は、回復など無用の長物と思い、覚えてはおらんのだ」
黒服の一人が、「あ、すぐに」と回復魔法を詠唱しようとする。
梶田は、
「回復はいい。それよか、お前は嘘をつかないよな?」
「あ、はい!」
「では次の質問にYesかNoで答えよ。沈黙や曖昧な返事、妙な行動はすべてNoとみなす。
――清水、お前は私が好きか? 上司として尊敬しているか?
もしNoと言ったら射殺する」
清水は「……Yes」と首を縦に振った。
「私は嘘をつくとすぐに見破れる。
嘘をついた者の顔が、真っ赤に変色して見えるのだ。
そして清水よ。お前の顔は赤い!」
「そ、そんな筈は……」
「気にするな。お前の嘘には感謝している。言わせたのは私だし」
そして清水の方に右腕を伸ばし、「偽者即収奥義・ライア・スティール」と叫んだ。
一瞬で清水がやつれ、ミイラのように干からびていく。ぶかぶかになったスーツと共にバサリと地に倒れる。
「ほぉ、清水は小生意気にも『ヒーリング・プラス』まで持っていたのか」
梶田は回復魔法を詠唱して、傷を治していく。
「見たかい? 豚クン。私は嘘を許せん性格でね。嘘をついた輩から力を吸い取れるのだ」
こいつ、あまりにも強引じゃねぇか!
「豚クンに問う。
次の質問にYesかNoで答えよ。沈黙や曖昧な返事、妙な行動はすべてNoとみなす。
ビップルームでの私との会話、一切の嘘偽を申していないな?」
「Yes。あんたに嘘なんて言っていないよ」
「くくく。まぁ知っていたさ。ってことは、お前は能力の偏った戦士。
確かに私は魔法が苦手。
だが、見るがよい!
出でよ。四聖獣!!!!」
梶田は指を空に向けたと同時に、4本の光の柱が現れ、巨大な化け物が召喚された。
「ふ、これはお前なんかに勿体ない。いずれは魔王とも一戦を交えようと思い作っておいた、とっておきだ。私を怒らせた報いを受けるが良い」
うん。
こいつら、なんかゲームとかで見たことがある。
なんて名前だっけ。
あ、そうだ。
青竜 - 朱雀 - 白虎 - 玄武ちゃん。
大型珍獣4匹に囲まれてちょっぴりドキドキしちゃう。
青竜と朱雀は見上げても顔がよく見えないくらいでかいし、アルディーン達のように神々しく光なんて放っている。
そういや、みんなは元気かな?
アルディーン達をチラリと見たら、猛烈にハッスルしている。
動きがかなり良くなっている。
翼を広げて宙を自在に移動しながら敵の攻撃をかいくぐり、拳を前方に突き出したまま矢のように突進している。
瓦割りの要領で、キメラ共を次々と粉砕していく。
防御力もかなり補正されたのだろうか。一撃浴びたくらいでは、手足が砕け散らなくなった。
じゃぁ、俺、ここで遊んでも大丈夫そうね。
とりあえず梶田に聞いてみた。
「で、こいつらのレベルは?」
「ふ、聞かぬ方がいいと思うぞ。まぁ冥土の土産に教えてやる。
レベル9999
HP65535
MP65535
その他のパラメーターはすべて9999だ。もはや天文学的な数字すら超えているだろう? お前なんかに4体も出す必要なんてなかったが。くくく、豚よ、てめぇの防御力がいくら高かろうが、聖獣の攻撃は魔力を帯びている。間違いなく即死だ。死体すら残らん。ざまぁみろ!」
聖獣たちは雄叫びをあげ、4方向から一斉に襲い掛かる。
クチバシ、頭部からの体当たり、しっぽ、かみつき。
俺に激突した瞬間、ガキンと金属音がつんざき、四聖獣の動きはピタリと止まった。
『絶対零度呪文・ノーザンクロス・ブリザード』
四聖獣とやらは一瞬で凍りつく。
俺がパチンと指を鳴らすと、まるでガラス細工だったかのように粉々に砕け、風と共に流されて消えていった。
どうやら魔王とやらも敵じゃねぇみてぇだ。
「梶田、終わりだ」
梶田は、「くくく。ふははは」と笑いだす。
?
「私はこの世界を正す為に、富裕者を浄化してきた。だがまだまだたくさんの愚かな富裕者がいる。私はそいつらをすべて浄化するまで消える訳にはいかない。
そして最後に神が私を味方した。
教えてやろう。
先程も言ったが、私は嘘をついた卑怯者から力を吸収することができる。
お前は、神がかり的に強いが、残念ながら嘘をついた」
そして梶田は俺の方に手の平を向け、
「ライア・スティール!」と叫んだ。
何も起きない。
俺は鼻筋をぽりぽりかきながら、
「嘘なんてついてねぇよ」と言ってやった。
「黙れ! お前はステータスにゼロが多いと言った。戦士系でゼロにするなら魔法防御だけだろ? だがさっき、魔力を帯びた攻撃を受けた筈なのに無傷。つまり、お前は嘘つきだ!」
「あっ、ゼロは多いよ。なんつーか。各パラメーターごとにゼロが11あるけど? それがどうした? あと、ガチファイターってのは、ダチが付けた俺のあだ名。嘘は言っていない」
「う、嘘だ。ゼロが11って、1兆って事だろ? 私には嘘を見破れる能力がある! 嘘をついた人間は赤く輝いて見える。お前はもうじき紅蓮の色に輝くはずだ……
……う……
なんで変わらないんだ?」
「だから嘘じゃねぇって言っているだろ」
「ぐ、私の力はまだ続きがある。
吸収できるのは単に嘘をついた瞬間だけではない。
お前が今までについた嘘を知るだけで、お前を嘘つき野郎と断定して、力を吸収することができるのだ!」
すげーな。それ。
「お前は24時間以内に嘘をついたことがある? YesかNoで答えよ。沈黙や曖昧な返事、妙な行動はすべてNoとみなす」
お、おい。
もしかして俺、やばいのか?
え~と。
「Yes。24時間以内に嘘をついた」
「それはいつだ?」
「Yes」
「Yesでは分からん。いつ、どこでだ?」
「バカか? 言わねぇよ」
「チッ、まぁいいか。適当に言っていれば当たるだろ」
誠司さんをチラリと見た。
早くやっつけてくれよ。
「1時間以内に、カジノの敷地内で嘘をついた?」
「Yes」
「その嘘は仲間についた?」
「No」
「敵についた?」
「Yes」
「なるほど。そうだなぁ。……今夜、カジノへ侵入するときには、雇って欲しいとでも言って、黒服に近づいた?」
こいつなかなか鋭い洞察力しているじゃねぇか。どうする……?
「Yes。だが、それは嘘じゃねぇ。雇ってもらってもいいぜ?」
「本当にいいのだな? 嘘をつくと、お前は即ミイラになってしまうのだぞ?」
「あぁ、いいよ」と、俺。
梶田はニヤリと笑った。
俺は即座に続けた。
「だが条件がある。タダでは働かん。報酬は現金で前払いだ。お前は給与を払う前に殺した前例があるからな」
「いいだろう。さすが醜い豚だ。簡単に仲間を裏切るとは。ククク。で、いくらを要求する?」
アルディーンをチラリと見た。
まだ格闘している。
「日本円にして一人、10億円は欲しい」
梶田は大笑いする。
「はははっ! 契約成立だ。虚偽は一切許さん」
「俺もだ。あんたがもし支払わんかったら、その言葉をそっくりそのまま返してやるぜ?」
「ふっかけたつもりだろうが残念だったな」
梶田は、指令室の奥にある扉を開く。
「ここには日本円にして100億円はゆうにある」
知っていたさ。
俺には『サーチ』スキルがある。
このコロシアム内には124000050riraある。
24時間365日モンスターに守らせている隠し金庫のつもりなのだろう。
俺は金に触れた。
『10000分の1が発動』
「おい、全然足りねぇぞ。たったの100万円くらいしかねぇのによくもしゃぁしゃぁと俺を雇うとか言えるな。ゴラァ! この貧乏人が!」
「ざけんな! どうやったかは知らんが、お前が金を消したんだろ? こんなのは無効だ。お前は嘘をついた。そもそも雇われる気もねぇのにふっかけて、本当にあったから消したのだ。つまりお前は嘘つき」
「何ひとつ嘘なんてついてねぇぞ。
俺は10億円欲しいと言った。
あんたに払って欲しいとは言っていない。俺が手にしたい金が10億だ。
そういや俺には『入金率10000分の1』という特記事項があったな。払えよ。お前が用意するのは一人1000兆円だ。全額にして3000兆円。ほら、今すぐ払えよ!」
梶田に、一歩、二歩と詰め寄る。
「豚の顔が赤く点灯しないではないか! これでは、ライア・スティールが使用できない。
ど、どうして。豚などに、この私が……
そ、そうだ。これは夢だ。夢に違いない。だって私はこれほどまでに善行をしてきたのだ。神は、必ず私を守ってくれるはずだ!」
「神がてめぇを守ってくれるのか?」
「そうだ! 神はお前のような醜い豚から、私を守ってくださる」
「そうか……。じゃぁ、いいことを教えてやる」
「なんだ? ハゲ」
「俺は絶対神だ!」
「……バ、バカな!? こんな醜い豚が……。嘘だ! でも……赤く輝かない……」
俺は梶田との距離を一歩ずつ詰めていく。梶田は後ろへ後ろへと後ずさるが、背中には金網。とうとう奴を追い詰めた。
そして今、アルディーン達が最後の一匹を仕留めた。
合成魔獣は完全に途絶えたか。
もうじきアルディーンは、ここに来るだろう。
誠司さんなら、恭志郎の時のように、また見逃してしまうかもしれない。
こいつは恭志郎と違って、完全にイカれている。人を信じることができず、すべて自分中心に物事を捉えている。
きっと逆恨みされてしまうだろう。
それに俺がこいつに勝てたのは、リーズや加藤さんのおかげだ。
俺一人でぶつかっていたら、きっと最後の詰めでやられていただろう。
この勝利はみんなのものだ!
だが伸ばしていった拳を止めた。
目の前にスッと人が現れたのだ。
それは長い蒼髪の細身の女性だった。
まるで仮装舞踏会を連想させる、目だけが覗いた白いシンプルな仮面をかぶっている。
拳圧で彼女の髪が舞う。
豪風が発生しているというのに、涼しい顔で俺を見ている。
梶田は、
「あ、あなたか!? 助かった。この不細工野郎。あなたと同じ絶対神だと名乗っていやがる」
――俺と同じくらい力を持つ者が、他にも存在するのか!?
女性は仮面をずらして目元を見せた。
凍るように冷たい眼差しを細めて笑った。
エメラルドグリーンの瞳孔は、俺に集中している。
年齢は16、7くらいか。
シンプルな白い衣をまとった、冷笑の似合う美少女だ。
女は、
「実はあなたの事、ちょっと前から気になっていたよ」
――奴は俺を知っているのか!?
「君は何を潰したの? うふ、その風貌からして大体の察しはついたよ。一点集中で相当削ったね。私は二つ。君のと、もう一つは寝ること」
まさか!?
俺の上をいくのか?
それに、この女。
冷たい表情とは裏腹に、口調はなんとも明るい。
このミスマッチが、なんとも不気味だ。
女に向かって梶田は、
「果莉茄様。こいつは我々、『オルドヌング・スピア』に牙を向けました。なにとぞ聖なる制裁を!」
「向けてないと思う。だって」
カリナと呼ばれた女は、こちらに視線を向けて続ける。
「君、オルドヌング・スピアなんてイケてない名前聞いたことないでしょ?」
それ、俺に言っているのか?
「お、おう」と、首をコクコク振った。
「それよりか私は、最近梶田君が無茶苦茶しているから注意しにきたんだよね」
「え、私が注意をされる? どうして? オルドヌング・スピアは、闇の秩序の構築を絶対重視している。私は愚かな金持ちを再生して人々に住みやすい社会を提供するのが使命……。そうか、あんたもか。あんたも私を騙したのだな。今、真っ赤に輝いている」
「う~ん、私は騙したのかなぁ? 君の解釈が間違っていただけだと思うよ。まぁ私はいつも適当だし」
「ふ、くくく。何にしてもボロを出したな。これで私は絶対神の力を手にできる!」
梶田の瞳孔が赤く染まる。
ライア・スティールが発動したのか!?
だが次の瞬間、梶田の背中から女の腕が突き出ていた。
女は躊躇なく一刺しにしたのだ。
「君とは素早さが違うよ。私を殺るなら寝込みでも襲わなきゃぁ、まぁ寝ないから、寝込みも襲えないか」
そしてカリナは、俺へ顔だけを向け、
「ねぇ、うらやましいでしょ? 寝なくてもいいんだよ、私。人の二倍生きられるんだ」
妙に馴れ馴れしい。
それよりか絶対神が俺以外にもいた事を知って、焦燥を隠しきれない。
俺は問うた。
「オルドヌング・スピアって何だ?」
「ん? えーと。この世界があまりにも物騒でみんな好き勝手やっているから、闇の秘密結社やら邪教やらテロ組織、マフィア、ギャングなんてのが、手を組んで、この世界にそれなりの秩序を作ろうって立ち上がったんだ。日本でも戦後はやくざなんてのが仕事を引っ張ってきて、小さな子に労働をさせて食わせていただろ? そんなもんだよ。
なんか私、絶対神とかいう存在になったけど、やることなくてね。
だからこいつらのサポートをして遊んでいる。普段は黒子を演じているけど、バカをやっている子には、こうやってしゃしゃり出て注意をしている」
こいつ、俺の悪役バージョンなのか?
見た目は俺の方が悪役っぽいが。
「それより友達になってよ。周りには私と同じくらいの子がいないから、つまんないんだ」
と俺に手を差し伸べてきた。
反射的に腕を下げる。ちょっぴり脂汗まででちまった。
「嫌なの?
それとも弱点が女の子?
あはは、もしかして『女の子に触ったら発狂して死ぬ』とか極端なのを特記事項に書いちゃったとか? まぁ、私にも似たようなのがあるから……」
「なんて書いたんだ?」
「あなたが教えてくれたら、教えてあげる。
それより、あなた、すごいね。私、感動しているんだけど!
そのブサメンフェイス素敵すぎ!
MAXまで下げたんでしょ? 潔い! いつでも切腹できるサムライって感じだ! これからブサメンサムライボーイ君って呼んでもいい?
さすがの私でも、そこまで気持ちいい程スパッと落とす勇気は無かったわ。逆にボーナスポイントが入ったから、ちょっぴり上げちゃったし」
うるせぇ。
時間が無かったんだよ!
そう言おうとしたら、いつの間にかカリナは消えていた。
口調自体は明るかったが、表情は始終冷たかった。
無表情なのだ。
笑ってはいるのだが、目が据わっている。
そんなことより、俺の感情を支配しているのは焦りだった。
俺だけがチートだと思っていた。
面倒なのが出てきたというのが正直なところだ。
誠司さんが、このまま世直しの旅なんてしていると、またどこかでぶつかっちまいそうだ。