2 状況把握
ここは夢なのだろうか。
どうやらここは、キャンプ場などによくあるログハウスのようだ。
先程パソコン画面で見た風景に極めて近い。
とりあえず頬をつねってみるが、目覚める気配はない。
辺りを確認すると、男性が一人、女性が二人いる。
茶髪のハンサムボーイに、
肩でクルクルとロールしたヘアスタイルの可愛らしい女の子、
しなやかな黒髪が良く似合う、シャープな切れ長の目が特徴的なすらっとした美少女。すました顔がちょっぴり怖い。
第一印象を端的に言うなら
さわやかイケメン、ロリ、ツンデレ系お嬢様
と言った具合か。
みんながみんな、下着姿なのだ。
男性はパンツにシャツ。
女性は胸と局部だけ隠している。
いわゆるパンティーにブラってやつだ。
こうやって生を拝む事なんてなかったので、刺激が強すぎて鼻血がでそう。
そういえば、俺は女性に触れただけでHPが減るんだっけ。
気をつけなければ。
茶髪のイケメンがシャツを脱いで、ロリっ子に渡した。
「いいんですか? ありがとうございます」と少女は頭を下げる。
しばらく困惑した様子だったが、受け取ったシャツを着た。
ぶかぶかの様だがうれしそうだ。
そりゃそうか。女性が素肌をさらしているんだもんな。
俺もシャツを脱いで、ツンデレお嬢様に手渡す。
「何? これ」
ツンとした態度でそう言われた。
女性に声をかけること自体に抵抗があるのだが、勇気を奮い、
「いえ、その恰好のままだと恥ずかしいかと思いまして」
「気持ちだけで結構です」
恐らくこのお嬢さんは、『ブ男が来ていたシャツなんて着られたもんじゃない』と言いたいのだろう。
イケメンとの待遇の違いに歯がゆさを感じたが、でも、これでいいのだ。
夢かどうか今一つピンとこないのだが、もしこれが現実だとしても、これから俺は拳のみで生きていくのだ。
女の子にどう思われようと構わない。
そうこう考えていると、イケメンがこの場を仕切り出した。
「君達もネットの書き込みを見てエントリーしたんだろ?」
「はい」「ええ、そうですが」
俺も「うん」と頷いた。
「まず現状把握をしたいと思うんだが、その前に自己紹介をしておくよ。僕は誠司です。年齢は16歳ということになっています」
その途端、二人の女の子達が顔を見合わせて笑いだした。
「あはは、あたしも16歳……ということになっています」
「何故か私もです」
なるほど実際の年齢は不詳だが、みんな16歳なのね。
「俺も」
と続いた。
「お世辞でもとても見えないなぁ」と誠司さんは肩をすくめる。
現状の俺が、あの3Dモデリング通りのハゲ散らかしたダサイブ男なら、ぶっちゃけキモイおっさんだ。きっとそう思われているのだろう。
彼らは自己紹介を始めているが、俺はソロで行くつもりだ。
話しに加わらず、この部屋を調べることにした。
タンスを開けると、300riraと書かれた金貨があった。
手で触れると、それは消えた。
そうだった。
俺には『入金率:1/10000』の負荷がついているんだった。
切上げ計算だったらこれを触った瞬間に1riraになったんだろうが、どうやら切り捨て計上されるらしい。
かなりシビアになるな。
「え~と……」
どうやらその声は俺に向けられていた。
誠司さんはタンスを開けた俺に何か言いたそうだ。
このメンバーのリーダーにでもなりたいのだろうか。
波を立てても仕方ないので、彼に振り返り、
「俺はしげるです」
と名乗っておいた。
「しげるさん。何かありました?」
「残念ながら何も」
「しげるさんも勘付いているようですが、この部屋には序盤のヒントになるようなものがあるかもしれません。できればみんなで協力して捜査したいのですが」
「そうですね」
ただし俺は金を持てない。
1万以下は消滅してしまう仕様なのだ。
「俺、金はいりませんので、アイテムを優先してもらえませんか?」
誠司さんは頭をかいている。
先程のきつい美少女が腕を組んで、
「あのね。あなた、自分勝手に進めないでくれる?」
思わずムッとしたが、彼女は極めて正論である。
とりあえず四人で協力して部屋を捜索することにした。
この建物は一階建ての平屋で、部屋が三つある。
部屋の隅には、洋服ダンスや本棚といった家具があり、それらを隈なく探していった。
金貨を見つけても、見ないふりをして。
レディー軍のキツイ方は聖華と名乗った。
聖華は俺が金貨を見落としていると、厳しく指摘してくる。
どんくさい奴に思われているのだろうな。
それでも捜索は一時間ほどで終了し、部屋の中央に見つけ出した物を並べた。
布でできた軽装な服 4着
ブーツ 4足
短刀 1本
戦斧 1本
杖 1本
弓 1本
地図 4枚
薬草の入った袋 4つ
背負うことのできるリュック 4つ
金貨 2100rira
ここで問題が起きた。
誠司さんが難しい顔をして、話を切り出したのだ。
「おそらくこれで全部だと思う。
見た通り、4等分できるように隠してあったはずだ」
言葉を濁しているが、言いたい事はこうだろう。
金貨が4等分できない。
額だけでいうと一応割り切る事はできる。
だけど金貨の表面にはそれぞれ300と刻まれており、7枚しかないのだ。
俺達は4人。
つまり誰かが見つけてこっそり隠したと言いたいのだろう。
そして誠司さんは俺を疑っているに違いない。
俺にだけ、厳しく言及してくるのだ。
彼からすれば、キモイおっさんが一番あやしいのだろう。
まぁ俺が触ったから消滅したのだから、あながち間違いではない。
でもそれを言うと揉めそうだし、この特殊スキルは隠しておきたい。
「金はいらないから、みんなで分けなよ」と言った。
「もういいじゃないですか。権利を放棄してくれるのでしたら、無理に言及しなくても」
聖華さんは、服に腕を通しながらそう言った。
さすがに下着でこれ以上いるのも恥ずかしいだろう。
「きっとしげるさん、誠司さんに言われて意地張っているだけですし、ありがたく貰っておきましょう。それに金貨を探したのは、しげるさん以外なのですから」
まぁ、それも正論。
「きっと女の子の裸に夢中になって捜索どころじゃなかったんでしょうから」と言葉を繋いだ。
酷い言われようだが、別に構わない。
「その代り、良かったら斧をくれないか?」
とにかく金がない以上、なるべく強力そうな武器を手にしておく必要がある。
生真面目そうな誠司さんは、
「しげるさん、そうやってチームを乱していると、また失敗しますよ」
――また失敗?
「あ、ごめんなさい。実は僕、コミュ症だったんです。だから第二の世界なんてあれば、絶対に克服しようと思っていたんです」
それで必死にリーダーシップをとっていたのか。
「誠司さん。俺もコミュ症です。だからこういったのが苦手なのです。それと女の子と話すのだって苦手なんです」
「そうだろうと思いましたよ。いいじゃないですか。今度こそ失敗しないように、克服しましょうよ」
と笑う。
さわやかな人だ。
結局武器はじゃんけんになり、俺はというと、負けに負けて最後に残った杖を手にとるハメになった。
金貨も等配分しようと誠司さんに言われたが、頑なに断った。
分配が終わると、誰かが雑談しようと言いだし、テーブルを囲んで適当に座ってだべり出した。
こういったのは苦手なので部屋の隅にいると、またもや誠司さんが声をかけてくる。
「しげるさん。みんなで決起の握手をすることになったんだ。こっちへ来てよ」
それを言いだしたのは誠司さんなのだろう。
だって女性陣――とくに聖華さんは嫌そうな顔で見ている。
俺だって嫌だ。
女の子に触れると体力が削られちまう。
苦笑いで返した。
これほどまでにブ男にしたことを後悔していないかと言えば、嘘になる。
もしかして誠司さんや、他のみんなはルックスを上げたのかもしれない。
外見だけで差別を受けるのには慣れているが、知らない土地の狭い空間にいると心細くなる。
やっぱりイケメン人生を堪能した方が良かったのだろうか。
イケメンにすることで、自信がつき、女の子達ともうまく話ができたかもしれない。
だけどこういった後悔は意味がないのだ。
だってその代償に、俺には超チートスキルがあるのだから。