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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第一章 新たなる人生の幕開け
16/78

16 カジノ

 朝になり皆が目を覚ますと、伶亜れいあさんがメッセージを残した木の前まで案内した。


 それを見て、誠司さんは複雑な心境になったのだろう。「そんな悩みがあるのなら相談してくれれば……」と漏らしていた。

 

 聖華さんは「ガンバレ! 私も頑張ります」と呟いた。

 

 

 *


 

 それからヴァレリア公国までは、ボチボチ順調だった。

 そういや勇者アルディーンが、一回登場したな。


 山を下りたふもとの草原で、バッタリとモンスターの大軍と遭遇したのだ。



 


 それは、かなりの数。

 え~と、ひぃふぅみぃ。両手ではとても数えられない。あそこからあそこまでがおおよそ100だから、それが8団体。

 数にしてざっと800か。

 ゴブリン、骸骨剣士、オオカタツムリなどの種族が、境界線ごとビシッと別れているから数えやすかった。


 そんでもって中央には白線が引かれており、綱引きやら、玉入れやら、パン食い競争までしている。

 それを観戦しながら、おっさんのようにどっすりあぐらをかいた腹の出たゴブリンがビールを飲んで「ゴブ太郎! もっと腕を振れ! そうだ! その調子だ。よっしゃ! 骨夫なんて抜いちまえぇ!」なんて叫んでいる。


 もしかして種族対抗大運動会でもやっているんですか?


「なんだか、楽しそうですね」とお嬢様。


 誠司さんは人差し指を立てて、

「しぃ! まずいところに出てしまったな。気付かれないようにこっそりと移動するんだ」


 

 だが、時遅し。

 ビールを飲んでいたおっさんゴブリンが立ち上がってこっちを指差し、

「お、あいつらは人間だ。野郎共、仕事に戻れ!!」

「おおぉー!」


 やばっ。

 雑魚モンスターとは言え、約800匹の大軍だ。



 俺は最前列に出て、

「防御力の高い俺がみんなの盾を務めますので、ガシガシ倒してください」

 

 うまくしのげは、格好のエサ場。効率よくレベルアップが狙える。

 


 モンスター達は一切しゃべらなくなり、目つきだって如何にも敵キャラって感じでギラギラ光らせて攻撃してくるんだけど……

 人間がいないところではこうやって交流を深めていたのか?

 さっきまで運動会で和気あいあいとしていたモンスター達の意外な一面を見ちまうと、どうも調子が狂う。


 まぁ、気にしても仕方ないか。

 

 すぐにお嬢様の魔力が切れる。

 続いてリーズの矢も無くなる。

 二人は短剣を握り、最前線までやってくる。


 俺はデブで横幅が大きいから立っているだけで盾になる。

 二人はその隙間から、短剣で敵に、ズブ、ズブとやっている。

 お嬢様、その調子だ。



 あれ、誠司さんが消えた。

 どこだ?



 岩陰で何かやっている。

「はあああああああ!」と叫んでいる。

 も、もしかして。

 でるんですか?

 いよいよ、でちゃうんですか?

 

 でも駄目だよ。

 今、着ている鋼の鎧。1500riraだったでしょ?

 そのまま覚醒すると、15万円もパーになっちゃうよ。


 あ、気づいた。

 鎧を外し、上着も脱いでそれを綺麗にたたんで地面に置くと「はあああああああああああ!」と言っている。


 30秒経過。


 怒る材料が足りないのか、中々変身できない。


 何か言っている。

「……恭志郎! よくもしげるさんや聖華さん、リーズを裏切ってくれたな。許せん!」

 

 なるほど。

 過去の熱いプッツンシーンをフラッシュバックさせて覚醒するといった強硬手段に出たのか。

 頑張れ。

 誠司さんの瞳が、キランと輝いた。



 髪が逆立ち、翼が生え、胸には聖なる紋章、そして第三の眼が開かれた!!

 翼を広げ、地を蹴り、「とお!」と言って勢いよく上昇。



 誠司さんは颯爽と上空から、

「大丈夫か!?」



 お嬢様は空を見上げて、

「な、なんとか。で、でも押されています。助けてください」

「よし、今いくぞ!」


 そしてアルディーンは、真っ赤な拳で敵を粉砕。

 というか、敵は邪属性でない相手なので、単に殴り倒しているだけだ。


 アルディーンは、ストーンゴーレムにも「レッドカッター!」とか叫んでチョップをする。


 ドスッ! と鈍い音がした。

 今の、かなり痛かったのだろう。

 アルディーンは、手をぶらぶらさせて、腰の剣を抜いた。


 これで単に防御力が下がっただけの状態になった。


 だけど鋼の鎧の重量が無い分、素早さは上がっているようだ。

 翼もあるから、空を自在に移動することもでき、回避能力も高い。

 巨大ゴーレムの振り落す大木を、華麗に飛んでかわす。

「必殺、稲妻落とし!」と叫んで、剣を振り下す。


 そして俺達と合流。


 お嬢様と背中合わせに対峙して、敵に剣を向ける。

「助かりました。あなたのお名前は?」

「ただの旅人です。名乗る名などありません。敢えて言うなら、さすらいの勇者、アルディーン」

 


 リーズは赤面。短剣を落としそうになったが、なんとか踏ん張った。


 てか、お嬢様も気づけよ。

 ただ髪が逆立って、おでこに目ん玉があるだけだよ?

 

 そんなつっこみを心の中で入れながら、800匹のモンスターを片付けていった。

 



 すべて倒した後、お嬢様は、

「あれ? さすらいの勇者アルディーン様は、どこへ行っちゃったのですか?」


 とりあえず俺は、

「ヒーローは事が片付くと、どこともなく消えていくのです」

 とフォローしておいた。



 岩陰から、鋼の鎧を身に付けた誠司さんがやってくる。

 お嬢様はぷんぷんした顔で、

「もぉ! 誠司さん、どこへ行っていたのですか!?」

「……敵に頭を叩かれて、脳震盪を起こしちゃって……。あれ、そういや、モンスターの大軍がいたんですよね? み、みんな、無事か!?」


「はい、さすらいの勇者様が助けてくださいましたから」

「なに? そいつは誰だ!? 何者だ? どこへ行った?」



 チラリとリーズを見た。

 あちらを向いて赤面している。




 そんな珍騒動もあったおかげで、お嬢様のレベルは一気に14まで上がった。

 氷結魔法に加えて、稲妻系、回復系も覚えた。

 

 俺の場合、大量のポイントを一気にぶっこんだから分からなったけど、どうやら魔力にボーナスポイントを入れると、それに応じてスキルが選択できるようになるみたいだ。

 

 例えば、魔力50だと。

 選択候補に『火炎』『氷結』『回復』等々が表示されて、その50ポイントを使って、スキルを購入するような形式をとっている。


 お嬢様は氷結に20ポイントを、回復に20ポイント、稲妻に10ポイントを振り分けて、それぞれの魔法を強化したみたいだ。



 *



 さて、ここはヴァレリア公国と言われている高い城壁に囲まれたとてつもなくでっかい国。

 城なんてのもある。

 到着して、四日ほど経つ。



 俺達四人は……

 なんと……

 カジノに入り浸っている。



 お嬢様はうれしそうにコインを購入しては、ルーレットやらスロットやらの台に座って圧倒的スピードで金を溶かしている。

 

 最初にここに行こうと言いだしたのは、意外にも誠司さんだった。

 彼はすぐにこの国の情報を調べようと役所を中心に聞き込みをしていった。

 一番気になっているのは、やはり金策なのだろう。


 モンスターの大軍を撃破したというのに、1riraすら落とさなかったからだ。

 

 聞き込みを続けていて、国の大きさや規模なんてのが分かったみたいだ。

 最初いたイリアの街が、地方の名前すら聞いたことのないド田舎だとすると、ここは中堅都市。札幌や仙台、福岡、広島に相当するらしい。


 そして一般的なプレーヤーは、どうやら就職をして金を稼いでいることまで分かった。



 げ、マジかよ。

 異世界まで来て、社畜になるなんてイヤだぜ。



 役場の隣にはハロワなるものまであり、求人が出ているようなので調べてみた。

 


 建築、製造関係の仕事が多くを占め、続いて武器屋や宿屋の店員、飲食店のホールスタッフといった小売及びサービス業、給与は日本円換算で、平均月20万前後。


 なんか夢がない。


 ところどころ10000rira以上のものもある。

 日本円換算すると月に100万円以上。


 ・探偵補佐。(誰でもできます。初心者歓迎)

  日本円換算:月収120万円


 ・社長秘書(1から丁寧にご指導します。低レベルプレーヤーでも安心して働ける環境を完備しています。守秘義務がございますので、守れる方のみのご応募お待ちしております)

  日本円換算:月収150万円


 ・悪魔合成(弊社は、あなたのやる気を評価します)

  日本円換算:月収250万円


 ・ゴミ片付け(必要なのは体一つ。元気なあなたをお待ちしております)

  日本円換算:月収280万円


 無茶苦茶あやしい。

 何をさせる気や?


 それに『悪魔合成』って何や?

 なんか楽しそうなフレーズなんだけど、絶対にブラックだろ、ここ。

 あと、ゴミって何?

 

 

 だからこの国の裏情報、というかみんなの本音を入手する為に、カジノで聞き込み調査を始めたって訳。

 決してプロの賭博野郎ギャンブラーを目指しているのではない……と思う。

 

 これも調べて分かったんだけど、モンスター運動会の撃沈は特別イベントだったらしく、あらかじめエントリーをしていないと、報酬は無効とのこと。

 誠司さんは「やはり知らないという事は、それだけで罪なことだ」と、苦い顔をして呟いていた。

 

 

 

 

 さて場所は、喧噪で溢れるカジノ。

 人がごった返しに密集しているこんなところにはあまり行きたくないのだが、一応フルメイルに五指タイプの籠手ガントレット、鉄仮面までつけて、完全防具でついてきた。


 目元だけが空いており、そこからギョロギョロと見渡す。

 

 ビールやジュースを、バニーガールのお姉さんが運んでいる。

 カジノで遊んでいるプレーヤーには、それらの飲み物は無料とのこと。

 

 お嬢様はジュースを片手に、もう片手にはハンバーガー。

 あまり使わないようにと誠司さんに注意されているのだが、大丈夫なのだろうか。

 むしゃむしゃ食べながら、負け続けなのに、なんともうれしそうだ。

 勝った負けたで、いちいち大げさに一喜一憂している。

 

「何よもぉ~!」ふにゅぅ。

 またコインを投入。

 あ、スロットが揃った。

「あ、やった、やった。しげるさん、見て、見て!」と、手をぱたぱた。

 

 一方、誠司さんだけど、彼の聞き込みはなんとも手際よかった。

 適当なスロットの台に座り、メダルを入れる。

 フィーバーすると、横のおっさんがチラリと見ては「くそったれ!」とか言って自分の台を叩いている。

 誠司さんは「良かったらどうぞ」と、出てきたメダルを、二、三枚とって、おっさんの台に入れる。

「いいのかい?」とおっさん。

「ええ。その代りちょっと教えて欲しいのですが……。実は僕はまだここに来たばかりで、このゲームのルールが今一つ飲み込めていないんです」

「なんでぃ。そんな事ならお安い御用だ」

 気を良くしたおっさんは、雄弁にしゃべり出す。


 恐らく誠司さんは、ルールなんて熟知しているはず。

 きっと、おっさんを立てて可愛い後輩だと思わせて、本音をさぐっていこうとしているのだろう。

 

 酒場でも、酒を一杯おごって似たような事ができそうなのだが、カジノの方が効率的だろう。

 たいした情報を持っていなければ、席を立ち「お金が切れてしまったので」とか言って早々と立ち去ることができる。

 さすが元社長。

 その辺りの行動がスマートだ。

 

 

 とりあえずお嬢様はいくら使ったんだろう。

 折角異世界に来たんだ。

 ギャンブルをするなまで言わねぇけど。

 俺なんざ、ニート時代はデイトレで食っていこうと考えたことがある。

 すぐに溶かしてやめたけど。

 

 娑婆ではこういったところに入るには年齢制限がある。

 刺激が強すぎて中毒症状も引き起こしやすく、未成年にはあまり良くないからだろう。


 とりあえずお嬢様の隣に座って聞いてみた。

「今まで、いくら突っ込みました?」


 お嬢様はくるくる回るスロットに目を輝かせながら、片手をボタンに添えて集中している。

 とりあえず、このターンは待つか。


 絵柄が合うと、コインがでる仕様のゲームだ。

『ゴブリン』『ゴブリン』『オオムカデ』

 あ、残念。


 お嬢様は手を止めてこちらへ顔を向け、

「分かりません」と答えた。


「残金はいくらありますか?」


 お嬢様はリュックを開いて確認した。

 うれしそうに、

「後、30010riraもあります」




 あんた、たったの三日で200万円も溶かしたのか!?



 異世界にはちょっと似合わない、黒服&サングラスの男がやってきた。

 黒い髪をオールバックに固めている。

 如何にも裏の世界の人間っぽい。

 このカジノのスタッフなのだろうか。


 黒服はお嬢様に、

「あの、ちょっとよろしいですか?」

「はい、なんでしょう」


「大変失礼なのですが、もしかしてあなたはお金持ちなのでは?」


 やばいフレーズだ。この言葉に彼女は間違いなくこう答えちまう。


 お嬢様は堂々と胸を張って、

「はい、私はお金持ちです」


「やはりそうでしたか。あなた様の遊び方を見て、きっと物足りないのだろうと気にしておりました。

 実は私、このカジノを任されている、ホールマスターの梶田かじたと申します。よろしければ奥へ行きませんか?」


 俺は、

「あ、俺も同行していいですか?」


 梶田氏は頬を緩め、

「はい、あなたは護衛ボディーガードの方ですよね。もちろんです」


 ボディーガードに見えたのか。まぁなんでもいいけど。


 梶田氏が通してくれたのは、奥のビップルームと呼ばれている豪華な応接間だった。

 宝石が散りばめられたシャンデリアが部屋をシックに照らしており、ソファーだっておそらく最高級のものなのだろう。

 座ると、ふわりと腰が完全にうまっちまう。



 梶田氏は話をきり出す。

「いつもご利用くださいまして誠にありがとうございます。このカジノ、実は大富豪のお客様だけを対象にした、『エントランスト』というステージをご容易しております」


 そして金色のカードをテーブルに置く。


「これは会員カードです。もしよろしければエントランストの会員はいかがかと思いまして、声を掛けさせてもらった次第です。通常なら入会金、及び年会費は10000riraで、入会時に一括前払いとなるのですが、早くお誘いができず、大変ご迷惑をおかけしたみたいですので、特別サービスさせて頂こうと思っております」


「でも、来年からは年会費がかかるのでしょ?」とお嬢様。


 そうだ。それでいい。成長したな。怪しいのはすぐに断っちまえ。


 梶田氏は、

「いいえ。生涯無料です。実は私、気品のある方には時折こういったサービスをしております。それは、当方もお客様を選びたいからです。ただし他のお客様の建前もございます。このことはどうかご内密に」

 

 お嬢様はこちらを向く。判断を仰いでいるのか?

「まぁ、金がかからないみたいだし、貰うだけならいいんじゃねぇのか?」


 お嬢様はうれしそうに、テーブルに置かれたカードに手を伸ばしていった。



 いつの間にか背後にはリーズ。俺は小声で問う。

「もしかして、こいつ、特記事項がやばい奴か?」

「相当。

 有効特記事項、読み上げます。

 ――もう俺はだまされんぞ。

 金持ちは徹底的に叩き潰す。根こそぎ吸い上げて、丸裸にしたところで豚箱に送り込んでやる」



 特記事項の『だまされない』。

 つまりこいつは、嘘を見破れるってことか。

 賭博屋の黒幕にとっては、最高な能力だ。


 それにこいつ、紛れもなくサイコ野郎。


 玲亜さんのように、たまたま愚痴を書いて良心の呵責に苛まれているのなら、金持ちが集まるこのような場所にはいないだろう。

 金持ちを避けるように生活するはずだ。

 特記事項の文面からして壮絶な過去があったのだろうが、あまりにもひねくれている。

 甘い蜜で金持ちをおびき寄せて、ガブリと食い殺す。

 金持ちへの復讐が、奴の生きがいなのか。

 

 やはりここは想像していた通り、負けた奴らの最終ラウンド。

 一見、剣と魔法の世界をベースにまともな社会を構築しているようだが、裏ではもう一つの世界が出来上がっていそうだ。とにかく弱みを見せたら、容赦なく潰しにくるのか。




 さぁ、どうする? 聖華さん。

 あんたがやりたいのなら、悪党退治、付き合うぜ?

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