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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第一章 新たなる人生の幕開け
15/78

15 聖華さんの力

 女は伶亜れいあと名乗った。

 誠司さんは彼女を抱き上げ、火の前に座らせると、包帯をとり傷の状態を確認した。

 思わず目をそらしてしまった。青くなり、えそが始まっている。


 誠司さんは、

「誰か! 回復スキルを持っている人はいませんか? 聖華さん、スキルを確認してみてください」


 お嬢様は今にも泣きそうな顔で、ステータスウィンドを開き、何度も調べる。

「ごめんなさい。氷結魔法しかありません」


 俺にはある。

 回復系最強魔法『ヒーリング・ヘブン』というのが魔力1兆の恩恵付きで使える。

 傷の痛みは瞬時に癒えるだろう。えそだってキレイに治る。

 これもモンスター相手にテストしてみたのだが、傷は治るが、失った器官までは戻らない。ただし、くっつけることはできる。ここまでの道中、みんなにばれないようにゴブリンを切ったりくっつけたりして試した。ちょっと残酷な生体実験だったが、パーティの安全を思えばスキルチェックは大切な任務である。

 


 誠司さんは、アルコール消毒をして包帯を巻きなおす。


 お嬢様は、伶亜の隣に座ると、背中をさすりながら、お椀にある肉や野菜を箸でとり、彼女の口元に運んでいく。

 伶亜は、チラリとお嬢様の顔を見る。

 表情がこわばる。右手が腰のシミターへと伸びていく。


 俺は、

「聖華さん。ここは誠司さん達に任せて、水をくみに行きましょう」

 

 お嬢様はうなずいて、茶碗をリーズに手渡すと俺の方に走ってきた。

 伶亜はその後ろ姿を、物凄い形相で睨んでいる。



 俺はリーズに目配せすると、彼女もコクリとうなずく。

 


 今回の出来事を、俺はチャンスと捉えている。

 かなり酷かもしれないが、お嬢様に他人との距離を教えることができる。




 バケツを持って歩く俺の後に続き、お嬢様は、「伶亜さん、大丈夫でしょうか?」と、何度も来た道を振り返っては、ひっきりなしに心配している。

「誠司さんがいるから大丈夫ですよ」と返した。



 川べりに行くと、俺はお嬢様の方へ向き直り、地べたに正座した。

 お嬢様はびっくりしたが、俺に習って正座する。



「聖華さん。これから重要なお話をします」

「……?」


「あなたが17歳だから話します。この世界には色々な人間がいます。外見だけで惑わされないでください」

「……」


「あなたはキレイな人です。もし悪い男がいたら言葉巧みにあなたに近づき、あなたの体を狙うでしょう。悪い女なら、あなたの美しさに嫉妬して逆恨みをするかもしれません。分かりますよね? あなたが17歳だから話しているのです」

「……え、どうしてそんなお話をするんですか? 早く戻りましょ」


「悪い人があなたをだまして襲ってきました。もしその時、あなたはどうしますか?」

「……ねぇ、もう戻りましょ」


「どうしますか?」

「……戻りましょ」


「相手は甘い言葉をかざしながら近づいているのです。悪い男なら、あなたが好きだ、愛していると口ずさみながら。悪い女なら、友達になろう、大切な話があるなどと満面の笑みを浮かべながら、あなたとの距離を詰めてくる。背中には、鋭いナイフを隠して」

「……」


「その時は迷わず逃げてください。叫んでください。助けを求めてください。俺、どこだって飛んでいきますから」

「……」


「とにかくいいですね。自分の体を絶対に優先して守ってください」

「……なんでそんなお話をするんですか?」


「あなたが傷つく姿を見たくないからです」

「……どうしてそこまで心配してくださるのですか?」


「こういったことは、親が教えてくれる」

「……私……お父さんもお母さんもいません。ちっちゃい時に……。だから顔も知りません。いたのは……。……だから……何も教わっていません……」



 やはり、そうか。



「こんな俺じゃぁ力不足かも知れねぇけど、俺で分かることは、全部教えてあげるから。聖華さん……、お父さん、欲しかったか?」


 お嬢様は俺の手を握ろうとする。



 ごめん。

 こんな重たい話を唐突にして。

 思いっきり不安にさせちゃったな。



 だから聖華さんの手を握ってあげた。


 すさまじい衝撃が走る。

 手袋をして握れば、大丈夫なのだが。

 でもそれでは意味がない。

 親が世の中の怖い話を教えた後に必要なのは、人のぬくもりなのかもしれない。

 

 弱点の対策は考えていた。

 触れたと同時に回復系最大魔法『ヒーリング・ヘブン』を念唱する。

 これで耐久時間は大幅に伸びる。

 すさまじくHPが揺らぐ。

 痛みをカバーする方法も考えてはいるが、今回は使用できない。


 状態スキルに、痛みを感じず猛進できる『バーサーク』。

 条件を満たすと自動的に発動するオートスキルに『ヒーリング・ヘブン』の併用で無敵になれるが、これは敵相手にしかできないし、実験ができていないから、意外な落とし穴もありそうだ。

 


 ただ辛いのは、冷え切っただろうお嬢様の体温を感じることができない。

 俺の手が、彼女にぬくもりを与えているのだろうか。

 それが分からない。

 秒間58兆のダメージは半端ではない。

 意識を集中しておかなくては、すぐに気絶してしまいそうだ。


 お嬢様はそっと手を離す。



「驚かしてごめん」

「……いえ、ありがとうございました」


 バケツに水をくむと、キャンプの方へ戻っていった。



 *



 伶亜は少し落ち着いたのか、誠司さんと楽しそうにおしゃべりをしている。

 顔色も随分と良くなっている。


 話によると、モンスターに襲われてパーティは全滅したらしい。

 とにかく街へ戻ろうと近道をしたが、ここで力尽きそうになったとのことだ。

 本当か嘘かは知らない。


 ただ安心したのだけはその表情からうかがえる。

 誠司さんにベタベタとくっついている。

 相手は怪我人だからだろう、誠司さんは嫌な顔ひとつせずに世話をしている。

 


 お嬢様も何かできることを見つけて頑張ろうとしている。



 お嬢様と目が合うと、必ず女の表情は豹変する。

 今までに12回、シミターに手をかけた。

 誠司さんがいるから、抜けないのだろう。


 いつの間にかリーズは姿を消している。見上げると枝の上に立っている。

 高い位置から照準を合わせている。


 とにかく根回しはした。お嬢様に心構えさえあれば、ゼロ距離射程からの一撃に反応できる。ピクンとだけでいい。

 あの女が抜刀した瞬間、俺、もしくはリーズが眉間を貫くから。

 おおよその筋書きはできたのだ。



 伶亜は、

「傷口がうずく。火照った体を冷やしたいわ」

 と言うと、誠司さんは肩を貸そうとする。

「なによ。誠司さんのスケベ。体を洗いたいのよ」


 誠司さんは真っ赤になる。


「確か聖華さんだったわね。肩を借りてもいい?」

「あたしが貸してあげる」と、いつの間にやらリーズ。くいと肩をあげている。

 リーズは、ガチで女をにらんでいる。嘘をつけないということは、感情まで表にでてしまうってことか。不便な制限なのだな。


「なに、この子? ちょっと、怖いわよ。あたいは病人なのよ。聖華さん、お願い」


 聖華さんはにっこりとうなずく。

 


 俺はその後を尾行しようとするが、誠司さんに腕をとられた。

「しげるさん。覗いたら駄目ですよ」

「誠司さん、違います。あの女、ろくでもない奴で……」


 誠司さんはお椀を差し出す。


「水くみとかで忙しかったから、まだろくに食べていないでしょう。明日もあるので今のうちにしっかりと食べておいてください」


 やっぱ言い訳に聞こえたみたいだ。クスリと笑っている。


 見上げると、木の上にリーズが移動している。こちらを向いて目でうなずいてくれた。

 とりあえず彼女に任せるしかないか。

 俺の素早さは1兆。

 リーズの合図で駆けつけて、一撃で仕留めて、誠司さんが気づく前に戻る。

 

 くそったれ。

 行動に制限だらけじゃねぇか。

 胃が痛いぜ。



 *



 当初はリーズの合図で動くつもりだったが、いたたまれなくなり、誠司さんがあっちを向いた瞬間に移動。すぐに戻るを繰り返していた。


「あれ? しげるさん、なんで時々、半透明なのですか? 残像が見えていますよ?」

「き、っ、と、つ、か、れ、て、い、る、ん、で、す、よ」

 で、ごまかしている。

 あんたは今日も良く頑張った。早く寝てくれ。


 

 あ、そっか。

『スリープ』を詠唱し、誠司さんを眠らせた。




 川べりまで行った聖華さんと伶亜は、何やら話をしている。

 その一帯を見渡せる小高い丘の木陰で様子をうかがっていた。


「誠司さん。むっちゃかっこええわぁ」

「そうですよね。あの人はちょっぴり厳しいですが、思いやりのある素敵な方です」


 ちゃんと愛のしつけはお嬢様に伝わっていたのか。良かった、良かった。


「あたいもこのパーティに入りたいと思うねん」

「あ、それいいと思います。ぜひ、一緒に冒険しましょ」


「でも駄目なのよ。あたいには特記事項があるやさかい。とっても可哀そうな制限をかけてしまったのよ」

「え、なんですか?」


「……本当はそれほど憎んではいない。美人すべてが悪い訳ではないと思う」

「?」


「ただ、あたいから男を奪った女達が許せなかった。男は美人にばかりなびく。だからあたいは……。あたいは……」と苦しそうに頭を抱える。

「だ、大丈夫ですか? お体を洗いましょ?」


「美人のすべてが嫌いって訳ではない。きっとあんたはいい人のようだし」

「はい。ありがとうございます。あなたもいい人だと思います。明日から楽しみです。一緒に冒険しましょうね」


「……一緒に冒険……。それはできないの。あたい、特記事項に書いちまったんだよ」

「なんて書かれたんですか?」


「あたいは美人を許さない。はらわたをえぐり取って絶命させてやる、と。だから、あんたさえいなければ、このパーティに入ることができる。ここで消えてちょうだい」


 そしてシミターに手をかけようとする。

 俺の右指の先には、バチバチとサンダーボルトの球が発生。

 


 だが、俺は物凄いものを見ちまった。



 お嬢様が泣いている。

 全身が輝き、頭には黄色に輝く輪のようなものが浮かんでいる。

 黒かった魔導師の服が、白い衣へと変わり、背中にはバサッと翼が広がる。

 それはまるで天使エンジェルのようだ。


 聖華さんは自分に起きた異変に気づいていないのか、平然と前を向いて話している。

「なんでそんな事を書いたんですか!? それに私は美人なんかではないし、悪いことなんてしていない」


「あ、あんたは何者!?」

 伶亜はビビッて腰を抜かしているが、そんなのはお構いなしに聖華さんは熱烈に叫ぶ。


「私は顔に大きな傷がありました。片目だって……。だから、キレイになりたいってお願いしたの。だから私、美人なんかじゃない!」

「……分かっている。美人が悪いんじゃない。あたいを追い詰めたのは、顔だけがいい、醜い心の持ち主だ。だけど、特記事項は絶対なの。それであたいは人の街には住めなくなった。本当は住んでみたい。だけど無理なのよ。美人を見ると、殺したくなっちまう。物凄い衝動に駆られて、気づいたらバッサリやっている。だからこうやって移動中のパーティに参加して、途中までの道中を楽しんでいた。美人がいれば、そいつをこっそりと殺して。だけどそんなことを繰り返していたから、数日前、返り討ちにあった。そんなことになるのは分かっている。分かっているけどどうしようもないのよ。これがあたいの生き方……」


 こいつ、特記事項に愚痴を書いて、人生を失敗したやつだったのか。


 哀れな奴だ。

 でも特記事項は改変不可だ。

 

 それにお嬢様、なんか物凄い力を発動しているみたいだから、ひと思いに殺してやれよ。それが情けってもんだ。


 聖華さんは右手を伶亜の方に伸ばした。

 なんと伶亜の失っていた左腕に、点状の光が発生して蘇っていくではないか。


 ――マ、マジか?

 失った器官の再生は俺にもできんぞ。


 お嬢様はそれには気づいていないのか、涙ながらに訴え続けている。


「私はお願いしました。『もし友達が心の底から傷ついていたら、私は天使になって癒してあげたい。失ったものを取り戻してあげたい』と。

 だって、私には何もできなかった。何も無かった。だからいっぱいお願いしました。だからお願い、頑張って!」

 

 伶亜は顔を押さえ、悶絶している。

 無理だ。

 いくらなんでも、どうしようもない。


「あんた、ブス! あんたは醜い超ドブス! あんたの顔なんて見たくない」

 そう叫んで、どこかへ走って行った。


 

 俺は聖華さんのところまでおりた。

「しげるさん。私、ブスって言われちゃいました」

「違うよ。あの人、きっと見つけたんだと思う。自分にかけた呪いの解き方のヒントを。なんだかうれしそうだったぜ?」

「しげるさんに自分を守れって言われていたから、だから、伶亜さんにもそれを教えてあげようとしました。

 とても可哀そうだったから。

 でもしげるさんのように、うまく言えませんでした」

 

 そっか。

 逃げれば良いものを、それでも他人を思って頑張ったんだな。

 

「いんや、じゅうぶん伝わっていると思う。今日の聖華さん、超カッコ良かったぜ!」




 その後で、俺は伶亜の後を追いかけた。

 彼女はナイフで木に切りこみを入れている。


「よぉ」

「あんた、メンバー一のブ男」


「ふん。悪い男にばかり引っかかって逆恨みした奴に言われたくねぇぜ。それよか、これからどうするんだ?」

「自分にかけた呪いのせいで、たくさんの人に迷惑をかけちまったからな。どこか遠くにでも逃げるしかないだろうな。だけど自問自答して、何か答えが見えた気がした。だから」


「お、おい!」


 伶亜はナイフで両目を潰した。


「これで美人かどうかなんて分かんない。しばらくは不自由するだろうが、これでも盗賊属性を鍛えている。小さな音まで聞き分けることができるし、察知能力だって高い。なんとかやってみるさ」

「うちのパーティには来ねぇのか?」


「あぁ、あんたらのようなお人よしに、こんなグレたの、似合わないだろ?」

「どうだかな? 俺もグレたおっさんだぜ?」


「それは分かっている。あたいを疑っていたのは、あんたともう一人のお嬢ちゃんだけ。二人してずっと聖華を守っていただろ? あたいがシミターに手をかける度に鋭い眼光をとばしてきたもんな。聖華を心から心配しているってのがよく分かっていた。今まであたいを心配してくれる男なんて……

 あたいも、あんたのような男に惚れていたら良かった……」

「バカも休み休み言え。そうそう、目が見えねぇんだったら、俺、超イケメンに感じるだろ?」と洒落てみせた。


「自分で言うな。

 あたいの台詞だ」


 そう言って伶亜は、暗闇に姿を消した。



 木に彫られた文字を見た。

『聖華へ

 心の傷を治してくれてありがとう。もし何か困ったことがあったら言ってくれ。その時はあんたの力になりたい』



 根っからの悪じゃなかった奴も、ついつい愚痴った特記事項に縛られて悪にならざるを得ないのか。さぞかし辛かっただろうな。






 黒子な俺は、メンバーみんなの能力を改めて思い出していった。

 


【現在分かった能力】


●誠司さん

 特徴 勇者アルディーンに変身(ぷっつんで発動、第三形態まである)

    いかなる邪悪をも貫く拳

 負荷 裏切れない

    変身の都度、鎧が破損


●聖華さん 

 特徴 天使(名前は?)に変身(友達が心の底から傷つけば発動)

    失った器官をも取り戻す超回復

 負荷 ?


●リーズ  

 特徴 ステータスシースルー

 負荷 嘘がつけない、それは態度にも出る

    正体、及び特記事項を俺以外のメンバーには秘密。

   (公開すると四人の心がバラバラになるらしい)

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