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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第一章 新たなる人生の幕開け
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13 旅立ち

13 旅立ち



「沈黙をすることをお許しください」


 その言葉から会話が始まった。

 さすがに宿屋の廊下で土下座されていても困る。

 それに俺に何か相談ごとでもあったのだろうと思い、リーズを俺の部屋に通すと、部屋に備え付けてあったコーヒーをいれてやった。


 丸テーブルに対峙して座る。


 しばらくしてリーズが話を始めた。

 

「この四人は、かみ合わない歯車のように前世で縁をしています」

 

 誠司さんには会っている。

 だけど、あんた知らねぇぞ。聖華さんだって知らん。


「あたしは誠司さんから聞いて、『すべての人間を笑顔に変えることのできる』あなたの事を探しておりました」


 なるほど、間接的に絡み合っているのか。


 俺は、

「聖華さんとは何があったんだ?」

「……今は言えません」


「彼女の実家は?」

「……とても……言えません」


 唇を噛みしめていたリーズだったが、

「いずれこのことは、あたしの口から……」


 これ以上踏み込むな、ということか。

 じゃぁ、俺に何の相談があるのだ?


「あたしは前の世界で大きな罪を作りました。あたしは人を殺しています。いえ、あいつは人ではありません。腐った化け物です。

 そしてあたしも命を絶とうとしました。

 どういう訳か、絶命する間際、突然あのメッセージが視界に飛び込んできたのです」


「あのメッセージ……

『新たな人生に挑戦したい方は、次へ進んでください。戻るには寿命の半分が必要となります』

 というやつか?」


「はい……

 最初は何が起きたのかよく分かりませんでした。

 思わずそこにあった特記事項に、今までの懺悔、そして祈りを書いていきました。

 もし生まれ変わることができるのなら、まずこの四人の再会を祈りました」



 なるほど。



「最初はここを天国かと思いました。あたしはどうせ地獄に落ちる。だけど最後に自分のできることを頑張った。だから神様が、ほんの数時間の間だけ、みんなと一緒にさせてくれたのだろう。そうとしか思えませんでした。

 だから全力で楽しみました。

 ですが、すぐに異変に気づきました。


 誠司さん、実はあたしの兄です。だけどまったく気付いていないのです。

 最初はからかってみたのですが、どうもおかしい。

 

 あたしは別人として本当に生まれ変わっている。

 

 時が来れば詳しく話したいと思いますが、今、それを知られるとこの四人の心がバラバラになってしまいます。だから、これはしげるさんの胸にしまっておいてください。


 あたしがあなたに伝えたいのは……


 あなた、今、パラメーター平均1兆。そしてものすごい潜在能力を秘めている」


 ――な、なぜ、分かる?

 思わず立ち上がった。


「あたしの特記事項は何行にも渡ってもの懺悔です。

 懺悔を書いていてやっと分かりました。

 人の心が分からないから、不幸なすれ違いが起きるのだと。

 今更になって分かるなんて、情けないと悔やみました。

 

 だから『他人のことをよく知りたい』と書いたのです。


 つまり、あたしは他人のステータスを覗けます」


 この人。

 俺の恥ずかしい特記事項まで覗いていたのか。

『女の子とエッチをしたら、無限の苦しみを味わい四散して死ぬ』とか見えているのか?

 クソ恥ずかしいじゃねぇか。

 て、こんな心の声まで聞こえるのか?

 思わず口に手を当てた。


「でもご安心ください。心の声は聞こえませんから。あたしは嘘をつけません」


 嘘をつかないではなく、つけない、と言った。

 代償は、『嘘をつく』か。

 だから最初に『沈黙をする』と断って会話を切り出したのか。

 言葉数が少なくなったのは、嘘がつけないからか?

 冗談すら言えないもんな。


 それにしても『ステータスシースルー』と『嘘がつけない』は相性が悪いな。心理戦ができない。本音しか言えない営業マンはスゲーいい奴だけど、AKUTOKU商事では務まらない。

 あそこは化かし合いの会社だからな。

 

 あと、リーズは誠司さんと一緒に居るときには、確か『誠ちゃん』と呼んでいた。

 今は、誠司さん。嘘はつけないが、演技はできるってことか?


「あたしが言いたいのは、この世界にはあまりにも邪悪な人間で満ち溢れているということです。恭志郎のような小者はほっておきました。おそらくしげるさんがいれば、どうとでもなると思ったからです。今まであの男が、返り討ちに会わなかったことが不思議なくらいです。

 あの最初の街ですら、恐ろしいスキルを持った人間がいましたから。


 ・性根の腐ったゴミ野郎を、一撃の下で粉砕。

 ・調子に乗ったクズを、睨んだだけで恐怖のどん底に叩き落とす。


 とりあえず、真っ直ぐな心を持ったこのメンバーの天敵はいなかったのですが……」


 いやここに来たばかりの俺だったら、天敵になっていたかもしれん。

 あぶねぇ、あぶねぇ。

 

 大抵、対クズ用スキルが多いみたいだな。

 まぁ、普通は良い人を恨まないもんな。

 良かった。心を入れ替えて、真の絶対神を目指すようになって。


「これから向かう場所は、もっとたくさんの人間がいます。恐ろしい憎悪をスキルに変えた者がいる可能性が、更に高まります。

 ですので、もし危険を察したらあなたの前にやってきます。それ以外はなるべく人前に出ないようにしておきます」


「どうしてそんなに裏舞台に隠れようとしている?」

「逆にどうしてしげるさんは、黒子に徹しようとされているのですか?」


 なぜそれを? という顔で、目を見開いて彼女を見た。


 リーズは、この部屋に入ってようやく笑みを見せた。


「見ていました。勇者アルディーンをかっこよく演出したのはあなたですよね?」

「あんた、もしかして寝たふりをしていたのか。もしかしてかなり強ぇーのか?」


「いえ、とてもとても。それに、あなたのような優れた振り分けが出来ている者を、現在まで見ておりません。あなたは神がかり的に強いです。


 だから導いてあげてください。

 誠司さんと聖華さんを。


 あなたの黒子を、あたしがサポートします。

 あたしには罪があります。これはあたしにとって償いの旅です。

 あなたが自分にかけた呪われた十字架以上の枷を、あたしは背負って生きていくつもりです」

 

 

 誠司さんの呼び掛けで、宿のロビーに集合。

 複雑に絡み合った運命の一行は、いよいよヴァレリア公国に向かうこととなった。

 

 

 空気だったロリっ子が、まさか冒険物語でいうところの預言者に相当するとは。

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